著者
楠原 浩一 中尾 太
出版者
九州大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

(1)DTaPワクチンの臨床的・疫学的有効性の評価わが国が世界に先駆けて開発し、1981年から接種されている無細胞百日咳ワクチンを含む三種混合ワクチン(DTaP)は、副反応が少ない優れたワクチンである。接種率の向上とともに百日咳患者が激減したため、わが国では疫学的にその有効性を評価できていなかった。本研究では、過去10年以上にわたり同一成分のDTaPワクチン接種を行っている北九州市において、同市医師会協力のもと、百日咳疫学調査を行った。平成11年度は後方視的調査を行い、DTaPワクチンの有効率は79%であることが判明した。平成12、13年度は、WHOの百日咳診断基準に従い、前方視的な有効性評価(Case-Control Study)を行った。これまで116例の症例が登録され、菌分離が2例、対血清で百日咳と診断できた症例を含め合計16例の百日咳患者が確認できた。現時点で、本Case-Control StudyでのDTaPワクチンの有効率は87.4%と算定され、本ワクチンの有効性が確認された。一方、これまでのDTPワクチン接種方式の有効性を検討するため、0〜80歳を対象に、ジフテリア、百日咳、破傷風に関する血清疫学的調査を行った。ワクチン接種群と非接種群のpertussis toxin(PT)抗体陽性率およびジフテリア抗毒素抗体陽性率は、それぞれ55.0%と57.9%、76.3%と75.7%であったが、破傷風抗毒素抗体陽性率は91.7%と10.5%であり、その間に有意差を認めた(P<0.001)。各病原体とも、実施された接種方式の違いによって年齢群ごとに平均抗体価の変動がみられた。(2)効果的な接種法に関する研究:第2期接種のワクチンの再検討年長児や成人に現行のDTaPワクチン接種し、その安全性と有効性を検討した。これまで10歳代44例、20歳以上の成人142例に接種を行った。局所副反応として5cm以上の発赤・腫脹があった成人および10歳代が1例ずつ、1〜5cmが10歳代に1例、成人3例であった。全身性の副反応を呈した例はなかった。
著者
楠原 浩一 高田 英俊 原 寿郎
出版者
日本サルコイドーシス/肉芽腫性疾患学会
雑誌
サルコイドーシス/肉芽腫性疾患 (ISSN:13450565)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.9-19, 2007-10-01 (Released:2010-08-06)
参考文献数
28

マクロファージ内における寄生菌の殺菌を担うIL-12/IFN-γ経路は, 結核菌をはじめとする抗酸菌に対する免疫機構の中できわめて重要な役割を果たしている. 近年, 明らかな細胞性免疫不全のないBCG重症副反応例や非結核性抗酸菌感染症患者の中に, 本経路のサイトカイン, サイトカイン受容体, シグナル伝達物質の遺伝子変異を有する症例が存在することが明らかになってきた. この一連の免疫異常症では結核菌に対する易感染性も認められる. 本稿では, 本邦で初めて見出された常染色体優性遺伝IFN-γ受容体1部分欠損を中心に, IL-12/IFN-γ経路異常症の各病型の臨床像, 病態生理, 遺伝子解析について述べる. また, 肺結核患者を対象としてIL-12/IFN-γ経路の関連分子を中心とした候補遺伝子のスクリーニングを行った結果, 日本人においてIL-12受容体β1遺伝子 (IL12RB1) の特定の多型が結核感受性や結核の重症度に関連していることが明らかになったので, その成績を併せて紹介する.
著者
楠原 浩一
出版者
日本臨床免疫学会
雑誌
日本臨床免疫学会会誌 (ISSN:09114300)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.401-407, 2011 (Released:2011-10-31)
参考文献数
28
被引用文献数
3 3

PFAPA症候群(periodic fever, aphthous stomatitis, pharyngitis and adenitis syndrome)は,アフタ性口内炎,咽頭炎/扁桃炎,頸部リンパ節炎を主な随伴症状とする3~6日程度の発熱発作を比較的規則的に繰り返すことを特徴とする,非遺伝性の自己炎症疾患である.わが国では周期性発熱症候群の中で最も高頻度であると考えられている.本症には明らかな遺伝性はみとめられず,原因となる遺伝子も同定されていないが,何らかの遺伝的要因が発症に関与している可能性がある.鑑別診断として遺伝性周期性発熱症候群と周期性好中球減少症が重要である.病因はいまだ不明であるが,最近の研究結果から,環境因子により補体系とIL-1β/IL-18の活性化が誘発されて,同時にTh1ケモカインの誘導とそれに引き続く活性化T細胞の末梢組織への集積がおこっていることが推定されている.また,IP-10/CXCL10は他の周期性発熱症候群との鑑別に有用なバイオマーカーである可能性がある.治療法はまだ確立していないが,これまで不明であった病因,病態の解明が進んでおり,それに基づいて治療法の見直しや新規治療法の開発が進められていくものと考えられる.