著者
久保田 康裕 楠本 聞太郎 塩野 貴之 五十里 翔吾 深谷 肇一 高科 直 吉川 友也 重藤 優太郎 新保 仁 竹内 彰一 三枝 祐輔 小森 理
出版者
日本計量生物学会
雑誌
計量生物学 (ISSN:09184430)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.145-188, 2023 (Released:2023-06-28)
参考文献数
110

Biodiversity big data plays an essential role in better understanding of biodiversity pattern in space and time and its underpinning macroecological mechanisms. Biodiversity as a concept is inductively quantified by the measurable multivariate data relative to taxonomic, functional and phylogenetic/genetic aspects. Therefore, conservation is also argued by using particular biodiversity metrics, context dependently, e.g., spatial conservation prioritization, design of protected areas network.Individual descriptive information accumulated in biogeography, ecology, physiology, molecular biology, taxonomy, and paleontology are aggregated through the spatial coordinates of biological distributions. Such biodiversity big data enables to visualize geography of 1) the richness of nature, 2) the value of nature, and 3) the uncertainty of nature, based on statistical models including maximum likelihood, machine learning, deep learning techniques. This special issue focuses on statistical and mathematical methods in terms of the quantitative visualization of biodiversity concepts. We hope that this special issue serves as an opportunity to involve researchers from different fields interested in biodiversity information and to develop into new research projects related to Nature Positive by 2030 that aims at halting and reversing the loss of biodiversity and ecosystem service.
著者
塩野 貴之 真栄城 亮 楠本 聞太郎 久保田 康裕
出版者
一般社団法人 日本理科教育学会
雑誌
理科教育学研究 (ISSN:13452614)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.427-437, 2014-03-18 (Released:2014-04-24)
参考文献数
30
被引用文献数
1

本研究では, “TimeTree: the timescale of life”(TimeTree)を用いて生物多様性の進化的な背景を理解するための授業を実践し, その学習効果を検討した。TimeTree は, 2 種の生物が共通祖先から分岐した年代を調べることができるオンラインツールである。これを用いて様々な生物種間の系統樹を作成し, 生物の進化の産物である生物多様性の概念を理解できる授業を開発した。TimeTree の教材としての有効性を検証するため, 教養課程の大学1, 2 年生47名を対象に, 動物園で実習を行った。実習では, 学生にスマートフォンを用いてTimeTree を操作させ, 10種の動物種間および霊長類7種間の分岐年代を調べさせ, それを基に系統樹を作成させた。なお, 実習の前後に進化に関するクイズを行い, その学習効果を検討した。動物園での実習とクイズの正答率の結果から, 系統的思考法(tree thinking), 進化の時間スケール, 生物地理, 大進化に関する項目について有意な学習効果がみられた。ただし小進化や収斂進化については実習だけでは身につかず, 改善の余地があった。新指導要領による生物教育では進化や生物多様性が重要視されているものの, それらの理論や概念を学ぶことのできる教材が不足している。TimeTree を用いて系統樹を描く授業は, 高校や大学の教養教育で進化や生物多様性の理解を促進すると考えられる。
著者
久保田 康裕 楠本 聞太郎 藤沼 潤一 塩野 貴之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.267-286, 2017 (Released:2017-12-05)
参考文献数
107
被引用文献数
1

システム化保全計画の概念と理論に基づく生物多様性の空間情報の分析は、保全の利害関係者に様々な選択肢を提供し、保全政策の立案・実行における意思決定を支援する。本論では、日本の生物多様性保全研究を推進する一助として、システム化保全計画を概説した。保護区ネットワーク設計の基本概念は“CARの原則”である:包括性(comprehensiveness)、充足性(adequacy)、代表性(representativeness)。全ての地域を保護区にするのは不可能なので、現実の保全計画では、生物多様性のサンプル(抽出標本)を保護区として保全する。CARの原則は、母集団の生物多様性のパターンとプロセスを、抽出標本内で再現するための概念である。システム化保全計画では、生物分布データを利用して保全目標を定義し、保全に関わる社会経済的コスト(土地面積や保全に伴って生じる社会経済的負担)を考慮し、保全優先地域を順位付けする。この分析は、地域間(保全計画のユニット間)の生物多様性パターンの相補性の概念に基づいている。かけがえのなさ(代替不可能度、irreplaceability)は、保全目標の効率的達成における、ある場所や地域の重要度を表す指標概念である。保全優先地域を特定する場合、保全上の緊急性や必要性を組み込む必要があり、代替不可能度と脅威と脆弱性の概念を組み合わせるアプローチがある。これにより、各サイトは、プロアクテイブな事前対策的保全地域とリアクテイブな緊急性の高い保全地域に識別される。保全計画では、様々な保全目標を保全利益に照らして検討することが重要である。Zonationが実装している効用関数は、メタ個体群や種数—面積関係の概念に基づいて空間的な保全優先地域の順位付けを可能にしており、有望である。システム化保全計画の課題の一つは、生物多様性パターンを静的に仮定している点である。生物多様性を永続的に保全するため、マクロ生態学的パターンおよび種分化、分散、絶滅、種の集合プロセスを保護区ネットワーク内部で捕捉するスキームを検討すべきだろう。システム化保全計画は生物多様性条約の学術的基盤で、愛知ターゲット等の保全目標を達成する不可欠な分析枠組みである。今後、日本でも実務的な保全研究の展開が期待される。
著者
深谷 肇一 楠本 聞太郎 塩野 貴之 藤沼 潤一 久保田 康裕
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.132, 2021

<p>種の個体数量は重要な生態学的変数である。しかし、大きな空間スケールにおいては、種の個体数量のパターンについて未だ十分な理解が得られていない。本講演では、種類の異なる生態調査データを統合する階層モデルを用いて、木本植物の種個体数量を広域かつ分類群網羅的に推定した研究を紹介する。まず、多数の生物種の地理分布と、局所的な調査における群集レベルでの種検出の過程を説明する階層モデルを構築することで、個々の種の広域での個体数量の分布を統計的に推測することを可能とした。構築したモデルを日本国内の多数の植生調査データと植物の地理分布データに当てはめることで、1200種以上の木本種のそれぞれについて、自然林における個体数量を10km平方の解像度で推定した。推定された広域の種個体数量分布を用いて行われた、地域生物多様性のマクロ進化過程の検証と、国内レッドリストの定量的検証の例を紹介する。</p>
著者
久保田 康裕 楠本 聞太郎 藤沼 潤一 塩野 貴之
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.267-286, 2017

システム化保全計画の概念と理論に基づく生物多様性の空間情報の分析は、保全の利害関係者に様々な選択肢を提供し、保全政策の立案・実行における意思決定を支援する。本論では、日本の生物多様性保全研究を推進する一助として、システム化保全計画を概説した。保護区ネットワーク設計の基本概念は"CARの原則"である:包括性(comprehensiveness)、充足性(adequacy)、代表性(representativeness)。全ての地域を保護区にするのは不可能なので、現実の保全計画では、生物多様性のサンプル(抽出標本)を保護区として保全する。CARの原則は、母集団の生物多様性のパターンとプロセスを、抽出標本内で再現するための概念である。システム化保全計画では、生物分布データを利用して保全目標を定義し、保全に関わる社会経済的コスト(土地面積や保全に伴って生じる社会経済的負担)を考慮し、保全優先地域を順位付けする。この分析は、地域間(保全計画のユニット間)の生物多様性パターンの相補性の概念に基づいている。かけがえのなさ(代替不可能度、irreplaceability)は、保全目標の効率的達成における、ある場所や地域の重要度を表す指標概念である。保全優先地域を特定する場合、保全上の緊急性や必要性を組み込む必要があり、代替不可能度と脅威と脆弱性の概念を組み合わせるアプローチがある。これにより、各サイトは、プロアクテイブな事前対策的保全地域とリアクテイブな緊急性の高い保全地域に識別される。保全計画では、様々な保全目標を保全利益に照らして検討することが重要である。Zonationが実装している効用関数は、メタ個体群や種数—面積関係の概念に基づいて空間的な保全優先地域の順位付けを可能にしており、有望である。システム化保全計画の課題の一つは、生物多様性パターンを静的に仮定している点である。生物多様性を永続的に保全するため、マクロ生態学的パターンおよび種分化、分散、絶滅、種の集合プロセスを保護区ネットワーク内部で捕捉するスキームを検討すべきだろう。システム化保全計画は生物多様性条約の学術的基盤で、愛知ターゲット等の保全目標を達成する不可欠な分析枠組みである。今後、日本でも実務的な保全研究の展開が期待される。