著者
権 哲源
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

血管は血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の2つの細胞から構成されている。中でも、我々が注目しているアペリン受容体(APJ)は、血管内皮細胞における血管拡張作用が広く研究されている一方で、血管平滑筋細胞における役割は不明であった。そこで、本研究では、血管平滑筋細胞特異的にAPJを過剰発現したマウス(SMA-APJ)を作製し、血管平滑筋細胞APJと血管収縮に焦点を当てた解析を行っている。昨年度までの研究において、アドレナリン受容体アゴニストのノルアドレナリンやフェニレフリン、およびアドレナリン受容体の阻害剤を使用した薬理実験から、アペリン誘導性の血管異常収縮に対するα1Aアドレナリン受容体(α1A-AR)の関与が示唆されていた。しかし、これら生理活性物質は、いずれもアドレナリン受容体の「α1サブタイプファミリー」に作用する可能性があり、α1Aアドレナリン受容体の関与を直接的に断定するものではない。そこで、本年度は、α1Aアドレナリン受容体の選択的アゴニストであるA-61603を活用し、SMA-APJに対してアペリンとA-61603を同時投与した場合でも、血管の協調的な収縮が見出されることを明らかとした。さらに、この協調的な収縮が、SMA-APJ/α1A-AR-KOマウスにおいて有意に消失したことから、血管平滑筋細胞APJが担う血管異常収縮に対する、「α1Aアドレナリン受容体の関与」を断定できた。アドレナリン受容体は9つのサブタイプを有するGPCRである。複雑な血管組織・タンパク質が相互に作用する血管収縮に対し、1つのGPCRサブタイプの役割を断定できたのは、大きな進捗であったと考える。以上の研究成果に併せて、本年度は、国際学会(ポスター1件)と国内学会(ポスター2件)での発表を行った。さらに、J. Biochem誌に第五著者として研究成果の一部が掲載された。
著者
谷口 彩乃 権 哲 山代 亜紀子 細川 豊史
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.548-552, 2016 (Released:2016-09-23)
参考文献数
17

がんの早期診断や治療法の発達により,がんと診断された後の長期生存者は増加しており,彼らの慢性疼痛が問題となっている.とくに慢性疼痛に対するオピオイド鎮痛薬の長期使用は,乱用・依存などが問題となるため注意を要する.今回,痛みの原因となった腫瘍消失後も遷延する痛みをもつ患者に,鎮痛以外の目的でオピオイド鎮痛薬を使用する薬物関連異常行動を認めた悪性リンパ腫の1例を経験した.鎮痛目的ではなく,精神的な苦痛に対してオピオイド鎮痛薬を使用することはケミカルコーピングと定義され,乱用や依存の前段階と考えられている.オピオイド鎮痛薬の内服が長期にわたると見込まれる患者には,オピオイド治療を安全に管理するために,慢性疼痛治療に準じた薬物療法の知識と適切な患者評価が重要である.
著者
大西 佳子 細川 豊史 坪倉 卓司 深澤 圭太 上野 博司 権 哲 原田 秋穂 深澤 まどか 山代 亜紀子 谷口 彩乃 波多野 貴彦 田中 萌生 仲宗根 ありさ 岡田 恵
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.509-513, 2015 (Released:2015-04-16)
参考文献数
10
被引用文献数
1

転移性脳腫瘍による頭痛は,腫瘍による脳血管の偏位や頭蓋内圧亢進に基づく硬膜の緊張,痛覚神経が存在する頭蓋内部位の牽引などで生じる.また,腫瘍の髄腔内播種やがん性髄膜炎による髄膜刺激症状などによっても生じる.頭蓋内圧亢進による頭痛の治療は,通常,高浸透圧輸液とステロイドの投与により脳浮腫の軽減と頭蓋内圧を下げることで行うが,内圧が下がらず頭痛治療に難渋することも少なくない.今回,頭蓋内圧亢進に基づく頭痛に対し,高浸透圧輸液とステロイド投与が奏功せず,オピオイドの増量が奏功した2 症例を経験した.痛覚神経への浸潤に対してはオピオイドが有効であるが,頭蓋内圧亢進による頭痛に対してオピオイドが有効であるという報告は過去にない.高浸透圧輸液やステロイドで頭蓋内圧が下がらず頭痛のコントロールが不十分な際は,NSAIDs やオピオイドの投与あるいは増量で対処を試みることは臨床的に十分価値があると考える.
著者
権 哲峰 ト蔵 浩和 飯島 献一 小黒 浩明 山口 修平
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.175-181, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
20
被引用文献数
1 2

目的:脳萎縮およびその進行に関する,無症候性脳梗塞(以下SBIと略す)や高血圧の影響について検討した.方法:脳ドックを受診した神経学的に異常のない健常成人109名(平均58.6±5.8歳)を対象とし,MRI-T1強調画像水平断で頭蓋内腔に占める脳実質の割合をBrain atrophy index(以下BAIと略す),脳断面積に占める脳室の割合をVentricular area index(以下VAIと略す)とし,それぞれ基底核と側脳室体部レベルで測定した.そして平均4.9年後に同様の測定を行い,危険因子やSBIの有無により脳萎縮の進行に差があるかを検討した.結果:年齢,性,脂質異常,肥満,喫煙歴,アルコール多飲の頻度はSBI(+)群とSBI(-)群,および高血圧群と非高血圧群で差はなかった.SBI(+)群では,基底核レベル,側脳室体部レベルともにBAIが有意に低下し(基底核レベル:p=0.02,側脳室体部レベルp=0.05),また側脳室体部レベルでのVAIも,SBI群で有意に増加していた(p=0.03).高血圧群では,基底核レベルでの初回測定時BAIは有意に低下していたが(p=0.007),側脳室体部レベルのBAI,両レベルでのVAIは非高血圧群と有意差は認められなかった.SBIや高血圧の有無による,年間のBAI, VAIの変化については有意な差がなかった.結論:無症候性脳梗塞や高血圧は,脳萎縮や脳室拡大と関連することが示唆されたが,その影響は無症候性脳梗塞の方が強いことが示唆された.