- 著者
-
権 純哲
- 出版者
- 山口大学
- 雑誌
- 山口大学哲学研究 (ISSN:0919357X)
- 巻号頁・発行日
- vol.3, pp.1_a-40 _a, 1994
本稿は、茶山の体制構想を、彼の儒教古典解釈との関連で検討しようとするも。である。茶山思想の評価をめぐるさまざまな問題点を踏まえながら、特に王朝体制自体をどう見るべきかという問題、あるいは王朝体制を支えていた儒教思想をどう理解すべきかという問題を念頭に置き、論を進めていきたい。分析の対象としては、主に『経世遺表』の「序官」と「下官修制」を用いた。 『経世遺表』の改革構想は主に『周礼』に思想的根拠を求めたものであるが、まず、『礼』に執着せざるをえなかったことの歴史的経違や思想的背景を追跡し、茶山の儒教古典研究の現実的かつ実践的性格を明らかにすることにつとめた。次に、朝鮮王朝の基本法典である『経国大典』と茶山当時の支配体制が窺える『大典通編』の権力機構の編成を比較・検討することによって、体制の特徴及び問題点を幾つか整理し、茶山の体制構想を、機構の整備、官階の整備、軍制の整備という三つの政治的課題から考察した。 機構の整備においては、『書経』の〈三公一三孤一六官〉に思想的根拠を求めながら、〈議政府一六曹〉体制の強化が図られたことに注目した。六曹に属する衙門の数的均衡を成し遂げる際には、衙門の移動・統合・新設などが行なわれたわけであるが、その理論的根拠として、あるときは『周礼』などの儒教古典が引用され、また、あるときは『経国大典』の規定をそのまま存続させていることを解明し、そこから茶山経学の方法的性格を窺うことができた。 官階の整備においては、古典の〈三公一三少一卿一大夫一士〉という序列の体制に思想的根拠を求め、『経国大典』の「正・従九品」制度の簡略化がなされている。ここでは、まず、大夫ではないはずの三公が「大匡輔国崇禄大夫」と称されているように、改革構想自体とその古典の根拠との矛盾が指摘できた。また、大夫と士を厳格に区別すべきであるという茶山の主張は、文・武のバランスのとれた人事を目指すものである一方、動揺しつつあった身分制の問題を、体制強化の方向へ吸収しようとするものであったことも明らかにされた。 軍制の整備においては、備辺司の中枢府への統合、議政府の時任大臣と六曹判書の中枢府職の兼任禁止を通じて、軍務機関としての中枢府の正常化と最高機関としての議政府の復権が推進されていたこと。「無卒之将」と「無将之卒」を再組織することによって軍の組織と指揮系統の立て直しが図られていたこと。主力部隊である三営の兵卒数の縮小と屯田設置を通じて国家財政の再建が図られていたことに注目した。