- 著者
-
橋本 邦衛
- 出版者
- 社団法人 日本産業衛生学会
- 雑誌
- 産業医学 (ISSN:00471879)
- 巻号頁・発行日
- vol.5, no.9, pp.563-578, 1963-09-20 (Released:2008-04-14)
- 参考文献数
- 28
- 被引用文献数
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flicker値(FF)の生理学的意味を明らかにするにはチラツキの融合が,どの部位でおこるかを知ることである。Sherrington, Hecht, Granit以来,融合部位は網膜だと信ぜられてきたが,Walkerや小木の電気生理学的実験によって,視覚系に誘発される電位変動は,網膜でも融合するが,視覚皮質野では,その約1/2の低頻度で融合をおこすことが明らかにされ,また感覚的な融合頻度は,新皮質の興奮性を示す脳波のpatternとほぼ平行して変化することが,Gellhornや筆者によって確かめられた。また緊張や注意の集中によってFFが高進するのは,視覚中枢における生理的融合頻度の上昇とともに,視覚連合皮質の自発的興奮により,時間識別力が増大するためであって,おそらく中枢で生理的融合がおこる前に,これを感覚的に融合と判断する機能が,FFの基礎であると考えられる。 要するにFFは,視覚系をふくむ知覚連合皮質の興奮性の一つの表現であって,もし網膜の興奮性がほぼ一定に保たれ,またチラツキの出現点の判別に大きな誤差がなければ,FFは知覚皮質領域の興奮水準,あるいは意識の機能水準を示す生理学的指標とみることができ,また労働生理学や精神生理学の重要な研究手段として利用することができると考える。 FFは,疲労時に測定しても低下しないことがある。もし作業終了時のような,興奮が一時的に高まる時期に測定するとか,あるいはtestが被検者に興奮刺激を与えるようなことがあれば,FFの低下は陰蔽されて測定値に現われぬことも当然である。FFの測定が他の生理学的測定と最も異なる点は,testが被検者の意識状態を刺激し,それがFFを変化させること,つまり測定が不確定だということである。測定の物理的条件を一定にするだけではこの不確定性は解決されない。ここにflicker testの難かしさと意味が存在することを指摘し,測定の具体的な進め方について筆者の見解を述べた。