著者
谷口 真吾 橋詰 隼人 山本 福壽
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.340-345, 2003-11-16
参考文献数
17
被引用文献数
1

鳥取大学蒜山演習林のトチノキ林において,果実の成熟過程における落果時期と内部形態の解剖学的な観察をもとに,発育途中における未熟果実の落下原因を調べた。未熟果実は6月中旬から7月下旬までの間に全体の80〜90%が落下した。未熟落果の形態として,「虫害」タイプ,「胚珠の発育不全」タイプ,「種子内組織の崩壊」タイプ,「胚珠の発育不全」タイプの四つが挙げられた。虫害による未熟落果は6月と7月下旬以降に多く発生した。6月の虫害は果肉摂食型幼虫によるもの,7月下旬以降の虫害は子葉摂食型幼虫によつものであった。「胚珠の発育不全」タイプの落果は主に6月にみられ,受粉・受精の失敗によって胚珠が種子に成長しなかったことが原因として考えられた。「種子内組織崩壊」タイプの落果は7月上旬以降にみられ,種子内の組織が死滅して内部が空洞化していた。「胚の発育不全」タイプの落果は7月下旬以降にみられ,胚の発育が途中で止まったものであった。トチノキの未熟落果の大部分を占める「胚珠の発育不全」と「種子内組織の崩壊」は,落下果実の内部形態から判断して,「胚珠の発育不全」タイプは受粉・受精の失敗が主要因であり,「種子内組織の崩壊」タイプは資源制限による発育中断が主要因である可能性が高いと考えられた。
著者
橋詰 隼人 山本 福壽
出版者
鳥取大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1989

本研究においては次の四つの課題について研究した。1.日本列島のスギ林の着花状況について:鹿児島県から秋田県まで各地のスギ林の着花状況を調査した。スギ林の着花は地方によって著しく差があった。一般に関東・東海・関西及び四国地方の実生スギ造林地帯は雄花の着生が多く,九州・北山・智頭などさし木スギ造林地帯は雄花の着生が少ない傾向がみられた。また品種系統,樹齢,年度などによってスギ林の着花に著しい差がみられた。オモテスギの実生林は30年生位から、ウラスギのさし木林は50〜60年生から着花が盛んになった。2.スギ林・ヒノキ林における花粉生産量について:森林の花粉生産量は品種,林齢,生育場所,年度などによって著しく差があった。スギ林では、実生林はさし木林よりも生産量が多く、また老齢林や神社等の老木は豊作年に多量の花粉を生産した。豊作年における花粉生産量は、スギの中・壮齢林で250〜660Kg/ha,老齢林で1.050Kg/ha,ヒノキ壮齢林で93〜620Kg/haと推定された。3.スギ・ヒノキ花粉の飛散動態について:花粉の飛散時期は年度及び生育場所によって著しく差があった。関西地方ではスギ花粉は2月上・中旬に,ヒノキ花粉は3月中旬〜4月上旬に飛散を開始し、飛散期間はスギで60〜80日、ヒノキで40〜70日に及んだ。花粉の飛散数は、年度、場所、森林の状態によって著しく差があった。スギ花粉は豊作年には1シ-ズンに林地で最高17,000個/cm^2落下した。都市部でも1,000〜6,000個/cm^2の花粉が落下した。ヒノキ花粉は壮齢林の近くで豊作年に1,000個/cm^2程度落下した。しかし、凶作年には花粉の飛散数は著しく減少した。3。薬剤によるスギ雄花の着花抑制:マレイン酸ヒドラジッド,NAA,Bーナインなど成長調整剤によってスギの雄花を枯殺することができた。これらの処理は、花芽分化直前から花芽分化初期が有効である。
著者
谷口 真吾 橋詰 隼人 山本 福壽
出版者
日本林學會
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.340-345, 2003 (Released:2011-03-05)

鳥取大学蒜山演習林のトチノキ林において、果実の成熟過程における落果時期と内部形態の解剖学的な観察をもとに、発育途中における未熟果実の落下原因を調べた。未熟果実は6月中旬から7月下旬までの間に全体の80-90%が落下した。未熟落果の形態として、「虫害」タイプ、「胚珠の発育不全」タイプ、「種子内組織の崩壊」タイプ、「胚の発育不全」タイプの四つが挙げられた。虫害による未熟落果は6月と7月下旬以降に多く発生した。6月の虫害は果肉摂食型幼虫によるもの、7月下旬以降の虫害は子葉摂食型幼虫によるものであった。「胚珠の発育不全」タイプの落果は主に6月にみられ、受粉・受精の失敗によって胚珠が種子に成長しなかったことが原因と考えられた。「種子内組織崩壊」タイプの落果は7月上旬以降にみられ、種子内の組織が死滅して内部が空洞化していた。「胚の発育不全」タイプの落果は7月下旬以降にみられ、胚の発育が途中で止まったものであった。トチノキの未熟落果の大部分を占める「胚珠の発育不全」と「種子内組織の崩壊」は、落下果実の内部形態から判断して、「胚珠の発育不全」タイプは受粉・受精の失敗が主要因であり、「種子内組織の崩壊」タイプは資源制限による発育中断が主要因である可能性が高いと考えられた。
著者
谷口 真吾 橋詰 隼人 山本 福壽
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.85, no.4, pp.305-311, 2003-11-16
参考文献数
25

鳥取大学林山演習林のトチノキで花芽の分化と発育を調査した。トチノキの花芽は毛状鱗片の内側の成長点が円形に肥厚して花芽原基になった。花芽原基は急速に成長して花軸の周りに次々に小花を形成し,その中に葯と子房が分化した。8月中旬〜下旬には葯内に胞子形成細胞が,子房内に胚珠の原基が形成された。9月中旬には花粉母細胞と卵状の胚珠が観察された。花粉は翌年の5月上旬に形成された。5月中旬には子房の先端部に花柱が分化し,花糸と花柱が伸長して両性花が完成した。胚珠の退化した花では花柱が伸長せずに,花糸のみ伸長し,雄ずいが完成して雄花になった。花芽は9月中旬に冬芽の形状により外観で葉芽と区別できた。
著者
橋詰 隼人
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林學會誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.312-319, 1962-11-25
被引用文献数
9

1) 雄花芽は新条の先端部の葉腋に形成されたが, 雌花芽は新条の頂芽に分化した。2) 自然状態における雄花芽の分化期は6月下旬〜9月下旬であった。花芽分化後, 雄花芽は急速に生長して, 短期間で雄しべおよび造胞組織の分化が認められた。そして, 9月中旬〜11月上旬の期間に花粉が形成された。3) 自然状態における雌花芽の分化期は7月中旬〜9月中旬であった。雌花芽では, 花芽分化後短期間で苞鱗の分化が認められ、8月上旬〜10月中旬の期間に胚珠が形成された。胚珠はその後珠皮と珠心に分化した。10月下旬にはすべての雌花で珠皮と珠心の完全に分化した胚珠が認められた。開花期は2月下旬〜3月下旬であった。4) 雌花芽の分化開始期は雄花芽よりも2〜3週間おそかった。また分化期間は雄花芽よりもみじかい傾向がみられた。5) 同一新条における花芽分化あるいは同一花芽における花部器官の分化は求頂的に進行した。6) 花芽分化期および花芽の発育経過には, 年により10〜20日の早晩がみられるようである。7) ジベレリン処理の場合は処理後約30日で花芽分化が開始された。ジベレリン処理によっておこる花芽分化の期間は自然分化に比して約2ヵ月ながいようであった。9月までの処理区では胚珠および花粉は年内に形成され, 開花期は自然分化に比して著しく相違しなかった。しかし, 10月処理区では花芽の発育が抑制され, 花粉は翌春形成された。したがって, 開花期は15〜20日おくれるようである。
著者
橋詰 隼人
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本林学会誌 (ISSN:0021485X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.365-372, 1968-12
被引用文献数
1

1)花粉母細胞は11月下旬に減数分裂を開始した。分裂は12月下旬〜1月上旬にオープン・スパイレーム期に達し, しばらく停滞するが, 翌年の2月上旬になると急速に進行し, 2月中旬〜下旬の前半に第一分裂中期像が観察された。四分子は2月下旬に形成された。減数分裂の期間は約100日で非常に長い。花粉母細胞の減数分裂は平均温度が10℃以下の低温の時期に行なわれる。2)花粉母細胞の減数分裂にはしばしば異常が認められた。すなわち, 遅滞染色体, 染色体橋, 隔膜形成の異常, 退行現象などが観察された。このような異常分裂の結果, 巨大花粉が形成された。巨大花粉には円形, 広卵形, ひょうたん形のものがあった。成熟巨大花粉では, 生殖核を1個有するものと2個有するものがみられた。前者は二倍性の花粉である。巨大花粉の平均直径は43.8μで, 正常花粉よりも約10μ大きい。巨大花粉の出現率は個体によりちがいがみられた。3)四分子から分離した未熟花粉は3月上旬に急速に生長して, 飛散の5〜7日前から細胞分裂をはじめた。成熟花粉では生殖細胞と花粉管細胞の二つが認められた。飛散開始期は3月8日〜15日であった。四分子形成から飛散までの所要日数は約15日であった。4)人工発芽試験の結果, 花粉の発芽は飛散の5〜7日前から認められた。発芽率は花粉の発育にともなって急速に増加し、飛散期に最高に達した。以上の結果から, 花粉の採取は飛散時に行なうのが最もよいように思われる。