- 著者
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棟方 渚
吉田 直史
櫻沢 繁
塚原 保夫
松原 仁
- 出版者
- 日本知能情報ファジィ学会
- 雑誌
- 知能と情報 (ISSN:13477986)
- 巻号頁・発行日
- vol.17, no.2, pp.243-249, 2005
- 参考文献数
- 6
- 被引用文献数
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5
2
近年, コンピュータシステムの急速な普及により, 老若男女, 多様なユーザ層がコンピュータを利用している.このようなIT技術の進展の中で, ユーザがコンピュータを道具として使用するばかりではなく, コンピュータがユーザの身体情報に基づいてユーザと相互作用することにより, 人と機械の間にコミュニケーションを生み出すような新しいインタフェースを開発する試みがある[1].しかし, 人の身体情報の意味が十分に理解されつくしてはいないこと, また, 相互のコミュニケーションを可能とするには両者が能動的であることが要求されるため, そこに新しいコミュニケーションを生み出すことは困難である.本研究では, 人の生体信号をゲームに取り入れることで人とコンピュータの新しいインタラクションの実現を試みた.数ある生体信号の中でも皮膚表面抵抗に着目した.実験では, プレイヤの皮膚表面抵抗の変動から心理状態の変化を読み取り, それをプレイヤに提示する一種のバイオフィードバック系を利用したゲームを作成した.このゲームは, プレイヤの皮膚表面抵抗の変動を測定し, その変動が大きいほど敵が多く現れ, ゲーム画面上のオシロスコープやインジケータにリアルタイムに皮膚表面抵抗の変動をプレイヤ自身へ提示する仕組みとした.実験はこのゲームのバイオフィードバックの構成法やゲーム画面等の状態を変え, プレイヤの皮膚表面抵抗の変動を測定しそれらを比較した.比較は二通りの実験により行い, 一方はバイオフィードバックの有無によって皮膚表面抵抗の変動に与える効果を比較した.もう一方の実験では, ゲーム画面上に設けたオシロスコープやインジケータに, プレイヤの皮膚表面抵抗の信号を遅延させて表示し, リアルタイム表示の場合との変動の仕方を比較した.実験の結果では, バイオフィードバックがあるゲームと無いゲームではバイオフィードバックを使用したゲームの方がプレイヤの皮膚表面抵抗の変動が大きかった.また, バイオフィードバックを遅延させた表示のゲームよりもリアルタイムに表示させたゲームのプレイヤの方が, ゲーム中の皮膚表面抵抗の変動が大きかった.これらの結果から生体信号を用いたゲームにおいて, 生体信号をゲームの進行に反映させることの他に, ゲーム画面上のバイオフィードバックの表示を行うことが重要な要素であることがわかった.特に, 遅延表示の実験では, 表示を遅延したことに気付いた者はいなかったが, 変動量にはそれぞれ差がでたことから, リアルタイムにゲームの進行に反映させることや, バイオフィードバックの表示を行うことも重要であることがわかった.このような結果となったのは, ゲームを通じて無意識の自分自身を意識することが, 更に皮膚表面抵抗の変動を生じさせたからであると推測される.