著者
津田 敦 武田 重信
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.514-519, 2005-12-25

海洋では光環境が良いにもかかわらず栄養塩が高濃度で残存する海域があり、このような海域では微量栄養素である鉄が不足していることが近年提唱された。海洋における鉄欠乏仮説を検証するため、東西亜寒帯太平洋において鉄添加実験が行われた(西部:SEEDS、東部:SERIES)。鉄と水塊を標識する不活性気体、六フッ化イオウを64-80km^2の海域に加え、13-26日間の生物・化学的応答を水塊追跡しながら観測した。2001年に西部亜寒帯太平洋で行われたSEEDSにおいては鉄添加により顕著な光合成活性の増加が観察され、混合層内のクロロフィル濃度は初期値および非散布域の16倍に達した。この顕著な植物プランクトンの増加は、他の海域で行われた実験より表層混合層深度が浅く光環境が良好であったことに加え、成長速度の速い中心目珪藻が増加したことが主な要因と考えられた。藻類の増殖は栄養塩濃度と二酸化炭素分圧の顕著な低下を伴ったが、散布から13日目までの沈降粒子束は積算光合成量の12.6%にとどまった。すなわち固定された炭素の大部分は粒子態として混合層内に留まった。これらの事実は太平洋においても鉄が植物プランクトンの増殖を制限していることを明らかにしたが、固定された炭素の行方を解明するにはより期間の長い実験が必要であることを示唆した。東部亜寒帯太平洋で行ったSERIESはカナダとの共同研究であり、我々は実験の後半を観測した。実験期間は大きく2つに分けることができ、前半は低い植物生物量とプレミネシオ藻類の優占、後半は高い植物生物量と珪藻の優占で特徴づけられた。SEEDSに比べ、SERIESでは植物プランクトンの増加は遅く、最大値も低くとどまったが、鉄散布海域で非散布域に比べ有意に大きい沈降粒子束を観察した。しかし、沈降量は光合成によって表層に蓄積した有機物量の20%程度であり、多くの部分は表層で摂餌や分解を受けていることが明らかとなった。本稿では鉄散布実験のような中規模生態系操作実験の利点と問題点を議論する。
著者
武田 重信 小畑 元 佐藤 光秀
出版者
長崎大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2006

西部北太平洋に降下する黄砂などの大気エアロゾルから溶け出す微量金属元素が、海洋植物プランクトンの増殖に及ぼす影響について調べた。大気エアロゾルがアジア大陸から北太平洋に輸送される過程で人為起源物質の影響を受けると、鉄など微量金属元素の溶解率が高くなり、溶解した鉄の濃度に応じて植物プランクトンの増殖が促進されること、火山灰も大気から海洋への微量元素の供給源として重要であることなどが明らかになった。
著者
津田 敦 武田 重信
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.514-519, 2005-12-25 (Released:2017-05-27)
参考文献数
16

海洋では光環境が良いにもかかわらず栄養塩が高濃度で残存する海域があり、このような海域では微量栄養素である鉄が不足していることが近年提唱された。海洋における鉄欠乏仮説を検証するため、東西亜寒帯太平洋において鉄添加実験が行われた(西部:SEEDS、東部:SERIES)。鉄と水塊を標識する不活性気体、六フッ化イオウを64-80km^2の海域に加え、13-26日間の生物・化学的応答を水塊追跡しながら観測した。2001年に西部亜寒帯太平洋で行われたSEEDSにおいては鉄添加により顕著な光合成活性の増加が観察され、混合層内のクロロフィル濃度は初期値および非散布域の16倍に達した。この顕著な植物プランクトンの増加は、他の海域で行われた実験より表層混合層深度が浅く光環境が良好であったことに加え、成長速度の速い中心目珪藻が増加したことが主な要因と考えられた。藻類の増殖は栄養塩濃度と二酸化炭素分圧の顕著な低下を伴ったが、散布から13日目までの沈降粒子束は積算光合成量の12.6%にとどまった。すなわち固定された炭素の大部分は粒子態として混合層内に留まった。これらの事実は太平洋においても鉄が植物プランクトンの増殖を制限していることを明らかにしたが、固定された炭素の行方を解明するにはより期間の長い実験が必要であることを示唆した。東部亜寒帯太平洋で行ったSERIESはカナダとの共同研究であり、我々は実験の後半を観測した。実験期間は大きく2つに分けることができ、前半は低い植物生物量とプレミネシオ藻類の優占、後半は高い植物生物量と珪藻の優占で特徴づけられた。SEEDSに比べ、SERIESでは植物プランクトンの増加は遅く、最大値も低くとどまったが、鉄散布海域で非散布域に比べ有意に大きい沈降粒子束を観察した。しかし、沈降量は光合成によって表層に蓄積した有機物量の20%程度であり、多くの部分は表層で摂餌や分解を受けていることが明らかとなった。本稿では鉄散布実験のような中規模生態系操作実験の利点と問題点を議論する。
著者
武田 重信 田中 大揮 高尾 芳三 兼原 壽生
出版者
[長崎大學水産學部]
巻号頁・発行日
no.93, pp.33-39, 2012 (Released:2013-10-08)

長崎県橘湾において,浅海底熱水活動域とその分布状況の把握を試みるとともに,熱水噴出孔付近の堆積物を採取して,その化学組成を明らかにした。この研究は,浅海底熱水が沿岸生態系に及ぼす影響を評価するための最初のステップとして位置付けられる。音響探査により,小浜温泉沖合の水深33~34m付近で海底からの噴気が起きていることを確認した。噴気地点周辺の海底面には,直径2~6mmの多数の小孔が見られ,噴気は6~63mの水平スケールで起きていたと推定される。噴気地点近傍の海底には78℃と高温で黒色の亜表層堆積物が存在し,通常の沿岸堆積物と比較して,Al,S,Asが多く,Ca,Cl,Brが少ないという特徴的な元素組成を示した。