- 著者
-
永宗 喜三郎
- 出版者
- 国立感染症研究所
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2009
我々はアピコンプレクス門原虫がいくつかの植物ホルモンを産生し、増殖の制御に用いている可能性を見出した。本研究ではそれらうち、サイトカイニンがトキソプラズマに与える影響についてさらに詳細に検討した。サイトカイニンには植物が自然界で生合成しているものと人工合成されたものに大別でき、いずれも細胞分裂の促進、光合成の活性化、葉緑体の分化・増殖といった作用を持つ。そこでそれぞれのサイトカイニンをトキソプラズマの培養中に添加し、原虫の増殖率を測定したところ、天然サイトカイニン(trans-zeatin)は、高等植物の知見から期待されるとおり原虫の増殖が促進したが、合成サイトカイニン(thidiazuron)は逆に原虫の増殖を阻害した。この増殖調節は高等植物での知見と同様、ある特定のサイクリンの発現量に依存していた。また通常原虫内に1つしか観察されないアピコプラストの数が、trans-zeatin処理により劇的に上昇し、逆にthidiazuron処理により消失した。更にELISAによる結果から、原虫はサイトカイニンを産生しているものと思われた。以上の結果からトキソプラズマにおいて植物ホルモンであるサイトカイニンは、ある特定のサイクリンの発現を制御することで、原虫の細胞周期自体と、細胞周期の進行と厳密にリンクしているアピコプラストの分裂のタイミングを調節しているものと考えられた。