著者
長谷川 政美 橋本 哲男 宮田 隆
出版者
統計数理研究所
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1991

前年度までの研究で,メタン細菌,好塩菌,エオサイトなどの古細菌が,真正細菌によりは真核生物に近縁であることが確かめられたが,これら3つの古細菌のグループと真核生物との関係は不明であった.今年度は,ペプチド鎖伸長因子のアミノ酸配列データを,われわれが開発した最犬法にもとづいて解析した結果,これらの古細菌がすべて系統的に一つのグループとしてまとまるという可能性のほかに,エオサイトが特に真核生物に近いという可能性も浮上した.ミトコンドリアなどのオルガネラをもたない真核原生生物の系統学的な位置づけは,真核生物の初期進化をさぐる上で極めて重要である.従来この問題は,リボソームRNAの配列データにもとづいて研究されてきたが,われわれはリボソームRNA分子系統樹の問題点を指摘した.最大の問題は,近縁な生物の間ででも,塩基組成が大きく異なることがあり,このことが間違った系統樹を導くことがあるということである。われわれは,ペプチド鎖伸長因子やRNA合成酵素などといった保存的なたんぱく質のアミノ酸配列データを解析し,塩基組成が大きく違っているような場合でも,たんぱく質のアミノ酸配列はその影響を受けず,そのようなデータからえられる分子系統樹の信頼性が高いことを示した。ミトコンドリアをもたない真核原生生物の一種であるギアルディアのペプチド鎖伸長因子EF-1αの遺伝子の塩基配列を決定し,この原生生物が真核生物の祖先型生物に近い可能性のあることを示した.
著者
野崎 智義 洲崎 敏伸 坪井 敏文 守屋 繁春 津久井 久美子 松崎 素道 橘 裕司 石田 健一郎 小保方 潤一 橋本 哲男 金子 修 稲垣 祐司 井上 勲 永井 宏樹 黒田 誠 永宗 喜三郎
出版者
国立感染症研究所
雑誌
新学術領域研究(研究領域提案型)
巻号頁・発行日
2011-04-01

真核生物の進化、及び、オルガネラ(細胞内小器官)の進化は、生物学の最も重要な基本命題である。一般に葉緑体・ミトコンドリアなどのオルガネラは細菌の内部共生によって生まれ、真核生物に革新的な代謝機能を与えた。本研究は(1)オルガネラ進化につながる一次・二次共生関係を生物界から広く検出し、共生を可能とする仕組みを理解する、(2)進化過程にある共生・寄生オルガネラの機能と維持機構を解明する、(3)「内部共生体に駆動される真核生物進化」という新しいパラダイムを確立する、(4) オルガネラ移植等の細胞工学手法による試験管内生物進化に必要な技術基盤を確立することを目指し研究を展開し成果を生んだ。
著者
橋本 哲男 石田 健一郎 稲垣 祐司
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

フォルニカータ生物群は嫌気環境に生育する鞭毛虫からなる系統群であり、環境DNA解析から多様な生物種の存在が示唆されている。これまでに調べられたいずれの生物も、酸素呼吸を行う典型的なミトコンドリアをもたず退化型のミトコンドリアをもっているため、ミトコンドリアの縮退進化を解明する上で適切なモデル系と考えられる。しかしながら、実際に単離・培養されているフォルニカータ生物の種類は必ずしも多くないため、自然環境中から新奇フォルニカータ生物を見出すことを目的として研究を行った。これまでに数種のフォルニカータ生物を含む10種以上の新規嫌気性真核微生物の単離・培養株化に成功し、一部については記載を行った。