著者
今泉 裕次郎 池田 さやか 小野 晴久 廣田 美樹 本村 環 堀江 淳 河島 博通 林 真一郎
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0130, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,炎症性サイトカインによる全身性炎症の影響により,心血管疾患や骨格筋機能異常など多くの併存疾患を合併する。糖尿病についても,健常者と比較して1.5倍のリスクを有し,また,COPD患者の約50%に複数のメタボリックシンドロームの要素を合併するとも言われている。しかし,これら先行研究は,欧米人を対象としたものであり,本邦におけるCOPDと糖尿病の関係を検証した先行研究は少なく,未だ,十分に解明されているとはない。そこで本研究の目的は,生活習慣病の中でも国民病と言われている糖尿病に着目し,糖尿病有病者における閉塞性換気障害の有病率を調査すること,更に,糖尿病有病者の呼吸機能を検討し,COPD早期発見の取り組みが必要であるかを検討することとした。【方法】対象は,当院健康管理センターにて呼吸機能検査を実施した863名(男性683名,女性180名,平均年齢51.8±8.3歳)とした。対象のうち,既に何らかの呼吸器疾患の診断がされている者,気管支喘息の既往,および親族に気管支喘息を有する者,呼吸機能検査がうまくできなかった者,データ使用に同意が得られなかった者は解析対象から除外した。調査項目として,呼吸機能はFVC,%FVC,FEV1.0,FEV1.0%,%FEV1.0を指標とし,栄養状態はBMIとした。問診では,糖尿病の有無,喫煙習慣の有無(ブリンクマン指数を算出)を聴取した。なお,本研究の「糖尿病有り(糖尿病有病者)」の定義は,既に確定診断がなされ,定期的に通院加療を受けている者とした。また,「閉塞性換気障害有り(閉塞性換気障害有病者)」の定義は,FEV1.0%が70%未満である者とした。統計学的分析として,閉塞性換気障害と糖尿病の関係は,χ2独立性検定で分析した。糖尿病有病者と非有病者の呼吸機能,BMI,ブリンクマン指数の比較は,Levenの等分散の検定後,Studentのt検定,またはWelchのt検定にて分析した。統計学的有意水準は5%とし,統計解析ソフトは,SPSS version20を使用した。【結果】対象者863名中,閉塞換気障害有病者は67名であり,有病率は7.8%であった。一方,糖尿病有病者は67名であり,糖尿病有病者の閉塞性換気障害有病者は11名で,有病率は14.9%であった。閉塞性換気障害の有無と糖尿病の有無の関連は,有意な関係性を認め(χ2=5.203,p=0.031),糖尿病有病者は,非有病者に対して閉塞性換気障害の合併が,2.3倍(95%CI=1.104-4.691)であった。次に,糖尿病の有無による呼吸機能の比較は,FVC(3.80±0.60L vs 3.54±0.57L;p=0.001),%FVC(109.54±11.9% vs 103.06±13.59%;p<0.001),FEV1.0(2.95±0.48L vs 2.69±0.51L;p<0.001),%FEV1.0(115.90±13.50% vs 111.52±16.44%;p=0.013),FEV1.0%(77.69±5.39% vs 75.70±7.03%;p=0.005)で,糖尿病有病者が有意に低値を示した。BMI(23.29±3.22 vs 24.98±3.83;p<0.001),および,ブリンクマン指数(304.89±375.98点vs 558.81±616.78点;p<0.001)の比較では,糖尿病有病者が有意に高値を示した。【考察】近年,COPDの国際ガイドラインGOLDは,COPDは肺疾患だけでなく全身性炎症疾患と位置づけ,他の慢性疾患と深く関与していると報告している。本研究においても糖尿病と気流制限との間には有意な関係性を認めた。また,糖尿病有病者で閉塞性換気障害を有する者の割合が高く,糖尿病有病者の中に,より多くのCOPD患者が潜んでいる可能性のあることが示唆された。また,糖尿病有病者の呼吸機能は,有意に低下しており,これらの要因として,第一に喫煙習慣の関与が考えられる。本研究においてブリンクマン指数が,糖尿病有病者で有意に高かったことを考慮すると,糖尿病と閉塞性換気障害の両者の共通趣向背景として,喫煙習慣がみられ,共通のリスク要因になったものと考える。本研究により糖尿病と閉塞性換気障害の関係が明らかになりに,糖尿病有病者に対しては,「閉塞性換気障害を有するリスクがある」ことを留意する必要性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】糖尿病を有する者の呼吸機能,特に閉塞性換気障害に関する詳細が明確となった。COPDの早期発見の一助として,糖尿病患者に対して潜在的COPD患者であることのリスクを,想起する必要性を提示できた有意義な研究となった。
著者
藤田 誠記 大浪 徳明 宮本 弘太郎 鬼塚 由大 池田 さやか
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2016, 2017

<p>【はじめに】質の高い保健医療福祉サービスを確保し,将来に渡って安定した介護保険制度を確立することを目的として,2014年4月の診療報酬改訂と同時に地域包括ケアシステムが施行された。地域包括病棟または病床では,入院期間を60日とし,リハビリテーション(以下,リハ)を,1人一日平均2単位以上提供すること,在宅復帰率70%以上が必須とされている。当院でも,平成28年10月地域包括病床を開設した。運営の中で,問題点も浮き彫りになってきた。開設準備から現在を振り返り課題も見えてきたのでここに報告する。</p><p></p><p>【当院の現状】当院では,循環器医師を兼任のリハ科Drとし,理学療法士3名・作業療法士2名・言語聴覚士1名で地域包括病床を含め199床の入院患者のリハを実施している。平成28年7月から地域包括病床の施行期間に入り,同年10月男女4人部屋を一部屋ずつの計8床で開設した。リハ科では,専従理学療法士を1名配置した。</p><p></p><p>【施行期間から現在を振り返って】看護部 医事科 リハ科スタッフの代表者が集まり,運営会議を開催した。対象患者の選定,院内の医局や他部門への周知,地域包括病床へ転棟してくる場合や転棟するタイミング,対象となる患者への説明の仕方,準備書類など9月から週1回のペースで話し合ってきた。医局からの出席はなく地域包括病床対象患者の選定が上手く進まなかった。</p><p></p><p>【リハ科の算定実績とその周辺】地域包括病床への入院患者については,7月6名,総単位数161単位・入院日数61日,院内全体の看護必要度28.9%。8月7名,総単位数260単位・入院日数90日,院内全体の看護必要度24.1%。9月8名,総単位数279単位・入院日数138日。地域包括病床からの転帰については,7月から9月末日までで,自宅退院者36例,自宅扱い病院・施設3例と,在宅復帰率100%であった。</p><p></p><p>【今後の課題】施設基準を満たし,10月から開設となったが,地域包括病床の対象となる患者を運営会議で選定する際,看護必要度を維持するための患者選定になっている。そのため,リハの必要性は問わず,看護必要度の低い患者が優先されている状況である。また,地域包括病床の患者は,状態が急変したり,リハ拒否が続いたりしても地域包括病床から退室しない限りは,1人一日平均2単位の影響を受け,地域包括病床のリハ対象者の単位数を常に気にかけていなければならないし,他の病棟の患者へのリハ提供の不均衡が生じている。他部門への上記の理解が急務だと考える。</p>