著者
河田 三治
出版者
宇宙航空研究開発機構
雑誌
東京帝國大學航空研究所報告
巻号頁・発行日
vol.1, no.14, pp.361-404, 1926-03

プラントルの翼の理論を基として「プロペラ」の空氣に對する作用を考へて見た.その結果は第一部航空機用「プロペラ」に於ては(イ)「インフロー」速度は「スリツプストリーム」の速度の増しの半分ではないが之に極めて近いものである.(ロ)「インフロー」のうち軸に向ふものは「プロペラ」の働きに大きい影響があるが圓周に沿ふものは大した影響がない.(ハ)「ブレード」の表面の空氣の摩擦等によって「トルク」増し推力へるが「トルク」の増加は推力の減少に比してその割合が大きい.(ニ)併しその量は多くも全體の數「パーセント」にすぎぬから「ブレード」の表面を骨折つて滑かにしても效果は少ない.(ホ)それよりも効率は「プレード」に沿ふての「サーキユレーシヨン」の分配に左右されることが大きい.(ヘ)現在の最もよい「プロペラ」の効率は達し得べき極限に達したものと思はれる.(ト)「プロペラ」の最大効率は主として推力係數.[chemical formula]及z=wR/vの凾數である.(チ)「プレード」の各半徑に於ける入射角には外見的と實際的の二通りある.之は「インフロー」速度の爲起ることで縱つて揚げ係數にも二通りあることゝなる.その關係は本文第四節に掲げた通りである.(リ)二つの「プロペラ」をタンデムに置いたときは後方の「プロペラ」は單獨の場合に比して最大效率が落ちる.そのおちる量は「プロペラ」の推力係數及z=wR/vの値による。前後兩「プロペラ」が同じ方向に囘轉しておるときは反對方向に囘轉しておるときより効率の落ちが大きい.(ヌ)反對方向に囘轉しておる同軸「プロペラ」及「コントラプロペラ」を備へた「プロペラ」の最大効率は何れもよくなる.「コントラプロペラ」は船舶用としては可なり有効であるが航空機用としては効果はない.(ル)以上は「ブレード」の數が多い場合の話であるがその數の少ない「プロペラ」は外徑が幾分小さくなつた「ブレード」の數の無限に多いものと同じと見られ上に書いた結果には變りを来さぬ.第二部「ヘリコプタ」用「プロペラ」に於ては(イ)から(ニ)までは第一部のものと同じ結論に達する.(ホ)結果を簡單にする爲圓周に向ふ「インフロー」を省略すれば同じ推力に對して最小の「パワー」は「サーキユレーシヨン」が半徑に沿ふて一定の「プロペラ」に依つて得られる.(ヘ)此の場合空氣の摩擦を省略すれば推力TとパワーP.半徑〓の間には次の關係式が成立する.z=wR/vは空氣の密度である.(ト)各「ブレード」の空氣に對する入射角は囘轉數にかゝわらず一定の値を有する.(チ)横風の存在は(ヘリコペタが水平飛行におる場合)「プロペラ」の同じ囘轉數に對して推力及「トルク」を増加ぜしめるが前者の増加する率は後者のそれより小し大きい.(リ)「プロペラ」それ自身の横風に對する抵抗は極めて小さい.故に「ヘリコプタ」を進行せしめろには軸を垂直から少し傾ければ充分であるといふ結論に達する.(終り)