- 著者
-
深田 耕一郎
- 出版者
- 福祉社会学会
- 雑誌
- 福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, pp.59-81, 2016-05-31 (Released:2019-06-20)
- 参考文献数
- 20
本研究の目的は,障害者の自立生活運動における介護労働をめぐって展開された,介護の無償・有償論争を考察することを通して,ケア労働の普遍的特性について示唆を得ることである.自立生活運動は,貨幣の機能を有効に用いることによって,ケア労働者の数を拡大し,生活の安定と持続を可能にしてきた.このことはケアの担い手を家族から他人へと変化させ,またその労働形態を無償労働から有償労働へと転換させた.そうしてもたらされた自立生活の進展を考えれば,ケアと貨幣を交換することで商品として介護サービスを提供することには妥当性がある.しかし,自立生活運動における無償・有償論争を丁寧に読み解くと,介護の有償化をめぐっては否定的な意見が少なくなく,現代においても介護が貨幣に依存するあり方には,強い注意が払われている.つまり,彼らは貨幣を媒介することでケアの安定性を生み出してきたが,同時に貨幣に従属されないケアのあり方も模索してきた.ケア労働が人間の人格と生活を尊重する労働であるという普遍的特性を鑑みたとき,労働者の雇用環境を十分に保障する貨幣の供給と,貨幣に従属されない,貨幣を距離化したケアは,ケアの安定化と豊饒化のために求められる条件であることを指摘する.