著者
湯原 悦子 Etsuko Yuhara
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal of social welfare, Nihon Fukushi University
巻号頁・発行日
vol.125, pp.41-65, 2011-09-30

日本では 2006 年度以降, 厚生労働省により高齢者の 「虐待等による死亡例」 が調査されるようになった. 警察庁も 2007 年以降, 犯罪の直接の動機・原因が 「介護・看病疲れ」 の事件数を公表している. 2000 年に介護保険が導入されて以降, 介護サービスの充実が目指されているが, これらの調査によれば, 親族による, 介護をめぐって発生した高齢者の殺害や心中の事件が顕著に減少したという傾向は見られない.このような事件を防止するためには, 介護される者に加え, 介護する者へも支援を行うこと, 特に介護者のうつを早期に発見し必要な支援を行えるようにすること, BPSD への対応について具体的なアドバイスを行うことが必要である.また, 介護を引き受けたからといって社会から孤立することなく, 大切な人々との絆を大切にしつつ, 無理なく介護を行うことができるような介護者支援システムの構築, 法基盤の整備が早急の課題である.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 = Journal social Welfare, Nihon Fukushi University (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
vol.134, pp.9-30, 2016-03-31

本研究では,過去18 年間に生じた介護殺人716 件の全体状況を確認し,被告の介護を担う力量が問われた3 つの事例の分析を行った.介護殺人防止に向けては,国の施策として生じた事件の情報をデータ化し,特徴や傾向の分析を行い,得られた知見を制度や施策に活かしていくことが求められる.支援の現場では専門職により,介護を担う者の意思や能力の見極めを行うことも必要である.介護者を対象にしたアセスメントと,それに基づくケアプランの作成を行うことは介護殺人の予防のみならず,すべての被介護者と介護者にとって,介護や生活の質の向上を目指すツールとなり得る.現在日本でもイギリスの実践に習い,ケアマネジャーらが介護者アセスメントの開発を行い,ケアプラン作成技術の向上をめざす試みが始まっている.それらを一部の実践に留めることなく,介護者支援の方策として全国に展開していくことが今後の課題である.
著者
湯原 悦子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.116-127, 2015-05-31

本研究では介護殺人事件に対し,判決前調査(情状鑑定)を通じて事件の背景や要因を明らかにする意義と効果を確認した.事例分析の結果,情状鑑定により特に環境的負因に関わる情報の提示が充実し,審理に携わる者が「被告人に帰せられる責任の範囲」を多角的に検討するための資料を提供できること,事件の背景にある社会病理として,そもそも介護を担う能力に欠けている者が介護を担わざるをえない状況に追い込まれ危機に陥っていることが明らかにされた.介護殺人事件に情状鑑定を実施するのは困難が予想されるが,社会福祉専門職による「コンサルテーション」という形であれば,弁護人らを通じて彼らの視点を審理に組み込むことができ,情状鑑定を行う効果を実質的に担保することが可能になる.このような形で司法と福祉の専門職が関わるところから,規範的解決を実体的解決・調和につなげていく司法福祉の理念の実現を図ることができると考える.
著者
湯原 悦子 小島 佳子 高柳 雅仁 Etsuko Yuhara Keiko Kojima Masahito Takayanagi
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.133, pp.29-45, 2015-09

本研究の目的は,法人後見を行う団体の受任事例の分析を行い,地域における権利擁護支援ニーズの内容と支援の効果について確認することである.分析の結果,権利擁護支援が必要となる背景には金銭管理をはじめとする生活管理能力の不足があり,そこに近隣からの不安や苦情,深刻なネグレクト,あるいは親族やそれ以外の人からの経済的搾取や虐待の被害に遭うことで,それまでの生活の継続が困難になっていく状況が確認できた.支援の効果については,成年後見人らが地域の人々と被後見人らの間に入り,関係を調整することで近隣住民の理解が進み,「地域の困り者」だった被後見人らが地域で受け入れられ,見守られる存在へと変わっていく姿が確認できた.また,被後見人らが自分への自信を深め,思いを口にし,自分なりの人生を生きようと動き出し始める状況が見出された.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.125, pp.41-65, 2011-09-30

日本では 2006 年度以降, 厚生労働省により高齢者の 「虐待等による死亡例」 が調査されるようになった. 警察庁も 2007 年以降, 犯罪の直接の動機・原因が 「介護・看病疲れ」 の事件数を公表している. 2000 年に介護保険が導入されて以降, 介護サービスの充実が目指されているが, これらの調査によれば, 親族による, 介護をめぐって発生した高齢者の殺害や心中の事件が顕著に減少したという傾向は見られない.このような事件を防止するためには, 介護される者に加え, 介護する者へも支援を行うこと, 特に介護者のうつを早期に発見し必要な支援を行えるようにすること, BPSD への対応について具体的なアドバイスを行うことが必要である.また, 介護を引き受けたからといって社会から孤立することなく, 大切な人々との絆を大切にしつつ, 無理なく介護を行うことができるような介護者支援システムの構築, 法基盤の整備が早急の課題である.
著者
湯原 悦子 伊藤 美智予 尾之内 直美
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.127, pp.63-79, 2012-09-30

ここ数年, 家族介護者への支援の必要性が多くの場で語られるようになってきた. 支援者の側から家族介護者への支援を論じた研究は数多く見られるが, 家族介護者の側から支援者の支援を論じた研究はほとんどない. 本研究では, 認知症の人の家族介護者 6 名を対象に, ケアマネジャーが行う支援をどう捉えているかを明らかにすることを目的に, インタビュー調査を行った. その結果, 家族介護者のなかにはケアマネジャーの役割や業務範囲を理解できていない者がいること, 病気や制度, サービスに関しては専門職に頼られるほどの
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.122, pp.41-52, 2010-03-31

日本では, 介護者支援の基盤となる法制度は十分に整備されていない. 要介護高齢者を介護する者について言えば, 介護保険法を根拠とする家族支援事業は任意事業であり, 自治体には行わなければならない義務はない. 高齢者虐待防止法では 「養護者」 への支援が規定されているが, 目的は支援を要する高齢者の権利利益の擁護であり, 介護者支援はそのための達成手段にすぎない.イギリスでは, 介護者法を根拠に, 介護者を要介護者の支援者と捉えるのみならず, 要介護者とは違う個人として認め, その社会的役割を確認し, 彼らが介護を原因に社会から孤立しないことを目指している. オーストラリアでも, いくつかの州で介護者法を設け, 介護者支援の充実をめざす動きが広がっている.本研究では, イギリス, オーストラリアの介護者法の内容と到達点を調べ, 日本が学ぶべき点について検討した. その結果, 介護者を独自のニーズを有する個人と認識し, 「社会的包摂」 を目的に介護者法を制定し財源を確保すること, 自治体は介護者とサービス提供者に法の内容を告知し, 介護者アセスメントを実施し, その結果に基づき適切なサービスの給付を行うことの 2 点を確認できた.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.130, pp.1-14, 2014-03-31

親や配偶者など大切な存在が要介護状態になったとき,それまでの関係性から,できる限り自分が介護を担いたいと考える者は少なくない.このような気持ちを尊重し,かつ,介護者を支えるシステムを社会に構築するためには,我々は介護というものを社会にどのように位置づけ,支援の充実を図ればよいのだろうか.本稿では,はじめに日本における家族介護者支援の政策を振り返り,不可避の「依存」と依存者をケアする「依存労働者」が必然であることを確認し,依存者と依存労働者を国家が保護を講ずるべき対象としての家族ととらえ,ケアに伴う二次的依存を解消していく考え方を示した.また,自分と親密な関係にある他者を自分の手でケアする権利は「ケアすることを強制されない権利」に裏付けられていなければならないこと,ケアの関与のありようを各自の状況に応じて選ぶことができる状態を作り出すために,関係性へのニーズを権利と捉える視点が有効であることを示した.
著者
湯原 悦子
出版者
日本福祉大学社会福祉学部
雑誌
日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
巻号頁・発行日
no.134, pp.9-30, 2016-03

本研究では,過去18 年間に生じた介護殺人716 件の全体状況を確認し,被告の介護を担う力量が問われた3 つの事例の分析を行った.介護殺人防止に向けては,国の施策として生じた事件の情報をデータ化し,特徴や傾向の分析を行い,得られた知見を制度や施策に活かしていくことが求められる.支援の現場では専門職により,介護を担う者の意思や能力の見極めを行うことも必要である.介護者を対象にしたアセスメントと,それに基づくケアプランの作成を行うことは介護殺人の予防のみならず,すべての被介護者と介護者にとって,介護や生活の質の向上を目指すツールとなり得る.現在日本でもイギリスの実践に習い,ケアマネジャーらが介護者アセスメントの開発を行い,ケアプラン作成技術の向上をめざす試みが始まっている.それらを一部の実践に留めることなく,介護者支援の方策として全国に展開していくことが今後の課題である.