- 著者
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青木 聖久
- 出版者
- 日本福祉大学
- 雑誌
- 日本福祉大学社会福祉論集 (ISSN:1345174X)
- 巻号頁・発行日
- no.125, pp.21-39, 2011-09
精神障害者 (以下, 当事者) の暮らしにおいて, 所得保障, とりわけ障害年金は重要な社会資源である. だが, 差別と偏見が根強い我が国において, スティグマへの葛藤から, 障害年金受給に躊躇する当事者は少なくない. だが, これらのスティグマが解決しないまでも, 実際に障害年金を受給すると, 生活の拡がりや価値観の多様性を実感する当事者は多い. つまり, 障害年金の受給を通して, 当事者は, 視点の変更や発想の転換に結び付くのである.これらのことを, 当事者同士が集う 「セルフヘルプ・グループ」 や, 「地域活動支援センター」 等の場を通して, 知りうる環境にある者はよい. だが, そのような場を有していない者のなかには, 障害年金を受給する権利を有しているにも関わらず, 受給に至らない者がいるのである.以上のことをふまえ, 本稿では, 障害年金が暮らしの中でどのように位置付いているかを明らかにする. 障害年金の実際が可視化できれば, 多くの当事者にとって, 障害年金は随分利用しやすいものとなろう. とはいえ, たとえ障害年金の実際が明らかになろうとも, 社会が当事者に対して, 理解に欠けておれば, 当事者は, ありのままの自分に向き合って社会で暮らすことが困難だといえる. そこで, 本研究では, 「暮らしにおける障害年金の実際」 に加えて, 「障害年金を受給しやすい社会のあり方」 を明らかにすることについても目的にしたい. そして, これらのことを論証するために, まず, 実際に障害年金を受給している当事者より, インタビュー調査 (個別及びグループ) を実施する. そして, 得られた結果を分析すると共に, 考察をしたい. 一方, 「障害年金を受給しやすい社会」 とは, 「ノーマライズされた社会」 という結論が導かれることが予測できる. だが, 本稿では, 単に理想論を述べて終わり, ということにしたくない. 仮に, 具体的な課題を見つけることができたなら, 問題解決の提示を行いたいと考えている. そのようななか, 注目しているのが英国の精神保健政策である. 英国では, 1997 年のブレア政権以降, 精神疾患を三大疾患に位置付ける等, 我が国が見習うべき点が多い. このように, 英国の精神保健政策を通して, 社会の差別と偏見等に苛まれずに, 障害年金を受給しやすい社会のあり方についても考察をしたい.最後には, 「障害年金の語りから得られた暮らしの実際」 と 「障害年金を受給しやすい社会」 の両者を相関的に捉え, 結論として提言をするものである.