著者
湯川 やよい
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.163-184, 2011-06-10 (Released:2014-06-03)
参考文献数
25
被引用文献数
4 1 1

本研究は,高等教育・研究者養成における教員─学生関係の社会学研究として,アカデミック・ハラスメントの形成過程を明らかにする。そのため,医療系の女性大学院生を事例に,学生が「被害」を認識する契機となるエピソードに着目し,被害の背景にある教員─学生間の信頼関係の変遷を,対話的構築主義アプローチを用いたライフストーリーとして再構成する事例研究を行う。 考察の結果,学生が「被害」と認識した出来事は,それ単独として存在するのではなく,多忙化した教員の研究・教育関与の低下,研究室間の不文律システム,教員同士の確執等,日常に埋め込まれた諸文脈の累積により学生の教員への信頼が失われ,その結果初めて学生にとって不快で不当な「ハラスメント被害」が構築されるという過程が明らかになった。 また,対話的構築主義アプローチをとったことにより,上記のハラスメント形成過程は,従来のアカデミック・フェミニズムの中でのモデル・ストーリーとなってきた「ジェンダー要因を中核とするハラスメント体験」の語りに対してずれを含む新たな対抗言説として導出された。 研究室の教員─学生関係で生じる困難を,単に学生相談の臨床心理からのみ論じるのではなく,背景にあるジェンダー関与的文脈と非関与的文脈の総体について社会学的に検討し,政策・教育機能分析と指導の実践レベルの研究とを接続する必要があると考える。
著者
湯川 やよい
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.88, pp.163-184, 2011-06-10
被引用文献数
1

本研究は,高等教育・研究者養成における教員-学生関係の社会学研究として,アカデミック・ハラスメントの形成過程を明らかにする。そのため,医療系の女性大学院生を事例に,学生が「被害」を認識する契機となるエピソードに着目し,被害の背景にある教員-学生間の信頼関係の変遷を,対話的構築主義アプローチを用いたライフストーリーとして再構成する事例研究を行う。考察の結果,学生が「被害」と認識した出来事は,それ単独として存在するのではなく,多忙化した教員の研究・教育関与の低下,研究室間の不文律システム,教員同士の確執等,日常に埋め込まれた諸文脈の累積により学生の教員への信頼が失われ,その結果初めて学生にとって不快で不当な「ハラスメント被害」が構築されるという過程が明らかになった。また,対話的構築主義アプローチをとったことにより,上記のハラスメント形成過程は,従来のアカデミック・フェミニズムの中でのモデル・ストーリーとなってきた「ジェンダー要因を中核とするハラスメント体験」の語りに対してずれを含む新たな対抗言説として導出された。研究室の教員-学生関係で生じる困難を,単に学生相談の臨床心理からのみ論じるのではなく,背景にあるジェンダー関与的文脈と非関与的文脈の総体について社会学的に検討し,政策・教育機能分析と指導の実践レベルの研究とを接続する必要があると考える。
著者
湯川 やよい
出版者
東京女子大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2017-06-30

本研究は、非触法ぺドファイル(子どもを性的な対象とする小児性愛者のうち、性加害を実行したことがない人々)の実態を、当事者の語りから読み解く仮説生成型の研究である。2年目にあたる2018年度は、特に(1)前年度の国内調査についての海外発表(中間報告)、(2)海外調査、(3)関連領域における調査法関連での文献調査とまとめ、(4)国内での継続調査を行った。まず、(1)については、国際社会学会(7月、トロント)において報告を行った。日本国内の非触法ぺドファイルの自己形成が、北米中心に発信される診断文化の文脈とセクシュアリティのポリティクスの交差のなかで独自の位置取りを占めることを報告し、当該テーマにおいて先駆的な実践が報告される西欧非英語圏で活動する関連研究者と議論できたことは、貴重な成果と言える。また、ナラティブ分析の方法という観点から英語圏言説の分析を行った論文を共著『自己語りの社会学』に収録した(8月に出版)。(2)については、米国フィラデルフィアおよび米国シアトルにおいて、関連研究者とのディスカッションおよびフィールド調査を行った。現地の運動当事者との面会は実現しなかったものの、関係者への間接的な調査は行うことができた。(3)については、周辺関連領域における性的マイノリティ一般の調査技法にかんする論稿をまとめ、発表した(和文、2019年3月)。また、(4)国内調査についても継続インフォーマントへの聞き取りを行っている。
著者
湯川 やよい 坂無 淳 村澤 昌崇
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.104, pp.81-104, 2019-06-30 (Released:2021-04-01)
参考文献数
83
被引用文献数
1

大学教授職研究は,タブー視されがちな大学教員世界に切り込む挑戦的領域であり,既存研究の貢献は大きい。しかしその成熟ゆえに,近年の大学内外の変化を踏まえた「専門職の社会学」研究としての意義づけの再確認と,方法論的展開の促進が不可欠である。 この問題意識のもと,本稿では,⑴ミクロレベルでの相互作用の研究,⑵男女共同参画をめぐる政策研究,の二つのレビューを行った。その結果,⑴については,大学教授職研究での相互作用研究における「批判的な社会学」の視点と質的アプローチの不足を指摘しつつ,大学教員を複数の社会学的変数から成る多様性ある集団として捉えなおすことを提案した。⑵のマクロレベルについては,男女共同参画に関する大学教授職研究からの批判的検討と知見の提供の不足を指摘し,それを乗り越える分析の可能性を論じた。 最後に,こうした専門研究コミュニティ外部の問題意識との接続を通じ,建設的批判や対話を積み重ねることで,大学教授職研究の裾野を広げることの必要性を提言した。
著者
湯川 やよい
出版者
東京女子大学
雑誌
東京女子大学紀要論集 (ISSN:04934350)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.151-168, 2019-03-30

This paper examines students’ analyses in a university qualitative research training class. The participants, especially those who identify themselves as sexual majority, gave additional reflexive analysis on the process of their research practices in which they collect and interpret narratives of those who identify themselves as sexual minority. The study revealed that by employing reflexive analysis based on “dialogical approach”, the students not only gained knowledge about minorities, but also frequently gained opportunities to question their own presuppositions towards gender norms.本稿では、大学における社会調査実習科目で履修者たちが執筆した報告書を題材に、自らをマジョリティと位置づける立場から性的マイノリティの経験に関心を抱く学生たちが、マイノリティ当事者の調査協力者たちとどのようにかかわり、当該テーマ課題についての学びをどのように深め、またその過程でどのように自らの調査実践をリフレクシヴに言語化するのかを検討している。考察の結果、履修者たちのリフレクシヴな考察が、性的マイノリティにかんする既存知識のより身体化された理解、およびマジョリティとマイノリティとの関係性再考など、様々な学びの深化につながることが明らかになった。単に性的マイノリティについての知識を得ることに留まらず、マジョリティ自身が前提視するジェンダー規範を問い直す過程は、迷いながらも目の前の調査協力者と一定期間向き合い、その経験に近づこうとする調査プロセスの中で可能となったものである。