著者
澤津橋 基広
出版者
一般社団法人 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会
雑誌
日本耳鼻咽喉科学会会報 (ISSN:00306622)
巻号頁・発行日
vol.124, no.1, pp.14-20, 2021-01-20 (Released:2021-02-01)
参考文献数
20

1999年に世界アンチ・ドーピング機構 (WADA) が設立され, 五輪では2004年アテネ開催からこのWADA規程によって行われるようになった. 毎年改訂される WADA 規程の禁止表国際基準で, 現役アスリートには使用できない薬物が示されているが, アレルギー疾患の有病率が約50%の現在, トップアスリートの治療にかかわる機会は極めて低いものの, ドーピングコントロール下にある国体選手など, 一般のアマチュア選手を治療する機会は, どの医師でもその可能性はある. 誤った知識で, アスリートに対するアレルギー性鼻炎の治療が制限され, 競技パフォーマンスを下げることがないように, どのような薬剤が禁止薬物で, どのような医療行為が禁止なのか, 医療関係者は, ある程度知識を持つ必要はある. 特に, アレルギー性鼻炎患者は, 気管支喘息やアトピー性皮膚炎の合併も少なくなく, フェキソフェナジン・プソイソエフェドリン配合薬や糖質コルチコイド, 交感神経 β 2 受容体作動薬などの正しい知識が求められる.
著者
宮地 英彰 梅崎 俊郎 山口 優実 安達 一雄 澤津橋 基広 清原 英之 菊池 良和 小宗 静男
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.56, no.Suppl.2, pp.S138-S144, 2010 (Released:2011-12-01)
参考文献数
16
被引用文献数
2

ゼリー状の食塊は液体に比べて誤嚥しにくく、喀出しやすいために嚥下障害患者の経口摂取開始において頻用されている。その要因として液体と異なりゼリー状の食塊はその物性(硬さ、付着性、凝集性を持つ)のために咽頭への流入速度が遅いことが考えられる。しかし、現在までに嚥下造影検査においてその仮説を裏付ける目的であらかじめ物性の分かっている二つの嚥下物の咽頭期嚥下動態の違いを、嚥下惹起遅延を評価するのに有用と考えられているパラメーターを用いて比較した報告はない。そこで進が 1994 年に報告した laryngeal elevation delay time (LEDT) という咽頭期嚥下の遅れを評価するパラメーターを用いて、異なる物性を持つ二つの嚥下造影剤における咽頭期嚥下動態の違いを検討した。その結果、われわれが用いた LEDTは、1) 液体造影剤とゼリー状造影剤の二つの物性の違いをよく表し、2) 低粘性造影剤を用いることで咽頭期嚥下の遅れを評価する有効なパラメーターであることが確認され、3) ゼリー状の食物形態が咽頭期嚥下惹起遅延による誤嚥を来す症例の食事に有用であることを裏付けるパラメーターであると考えられた。
著者
西山 和郎 澤津橋 基広 梅﨑 俊郎
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.128-135, 2016

舌骨は舌骨上筋群、舌骨下筋群の付着部位、咽喉頭のフレームとして嚥下や気道の開存に重要な機能を果たしているが、その解剖学的特徴のため舌骨骨折の報告は少ない。今回、われわれは嚥下機能評価が可能であった舌骨骨折の 1 例を経験した。症例は 35 歳、男性。工事現場の足場から転落し、前頸部を強打した。約 15 cm の横裂創と舌骨上筋群、舌骨下筋群の断裂を伴う舌骨骨折を認めたため、断裂した筋肉の修復を含む舌骨の外科的整復を行った。術後に嚥下評価を行い、後遺障害を残さずに軽快した。本邦および海外におけるこれまでの報告では、舌骨骨折の治療については、基本的には保存的加療を行い、下咽頭−喉頭に穿孔がある症例や、骨片が突出するなどして嚥下や気道が傷害される症例には外科的治療を検討するべきと報告されている。これに加えて、本症例の経験から、舌骨骨折に舌骨上下筋群の損傷断裂を認める症例には、早期の筋断裂の修復と舌骨の位置整復が重要であると同時に、その修復の際に、上喉頭神経内枝の温存に留意することが必要であると考えられた。
著者
山口 優実 佐藤 伸宏 梅﨑 俊郎 安達 一雄 菊池 良和 澤津橋 基広 中川 尚志
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.151-156, 2017-09-20 (Released:2018-09-20)
参考文献数
9

喉頭全摘出術を施行された無喉頭者(喉頭摘出者)は、永久気管孔より呼吸を行うため鼻孔からの呼吸ができなくなり、嗅裂部への気流が失われ、さらに廃用性に嗅覚障害が起こると考えられている。海外では、嗅覚障害の予防、または改善のため鼻腔内の気流を誘発する演習が、嗅覚器官のリハビリテーション(以下、嗅覚リハ)に適用されており、その有効性も報告されている。しかし本邦では広く普及しているとは言い難く、嗅覚リハに関する報告も極めて少ない。そこで、喉頭全摘出術を施行された喉頭摘出者 11 例に対し、鼻腔内への気流を誘導するための口腔および咽頭内の陰圧を作成する nasal airflow-inducing maneuver(NAIM 法)という嗅覚リハを実施し、噴射式基準嗅力検査にて評価した。検知閾値の平均は、介入前 2.4 から介入後 − 0.5 と有意に改善した。認知閾値の平均は 5.4(高度脱失)から 4.7(高度脱失)と改善傾向であった。また、喉頭摘出から嗅覚リハ開始までの期間は、検知閾値、認知閾値のいずれにも有意な相関は示さなかったが、喉摘から嗅覚リハ開始までの期間と、嗅覚の検知閾値の訓練前後での改善度においては、有意な逆相関を認めた。嗅覚の維持、再獲得の観点からも喉頭全摘出術後は可及的早期に嗅覚リハを開始すべきであることが示唆された。
著者
澤津橋 基広
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.190-195, 2019-11-20 (Released:2020-11-20)
参考文献数
33

近年、北部九州において、スギ・ヒノキ花粉の飛散時期に、PM2.5 および黄砂の飛来が重なる日が観測されている。PM2.5 および黄砂は、気道の症状を悪化させることが報告されており、黄砂飛来により、喘息患者の入院リスクが上昇することや、PM2.5 の上昇により、小児の喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎の症状が悪化することが報告されている。このスギ・ヒノキ花粉と PM2.5 と黄砂によるトリプルパンチをどう乗り切るのか? まず、確実に言えることは、スギ・ヒノキ花粉および PM2.5 と黄砂の接触を防ぐことである。そのためには、患者自身が花粉飛散や PM2.5 の濃度の情報を収集し、原因物質からの接触回避することが重要である。その上で、医療機関における薬物治療等を行うことが、このトリプルパンチを乗り切る要点になる。この論文では、PM2.5 および黄砂飛来時の花粉症に対する治療について薬物療法を中心に述べる。
著者
菊池 良和 梅﨑 俊郎 澤津橋 基広 山口 優実 安達 一雄 佐藤 伸宏 中川 尚志
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.41-46, 2017-03-20 (Released:2018-04-23)
参考文献数
34

吃音症は成長していくにつれ、表面上の吃音は軽減したようにみえる。しかし、吃音を隠す努力を行うことで、思春期・青年期に社交不安障害(SAD)を合併することがある。 そのため、吃音症における社交不安障害の合併とその性質を把握することが必要である。 本研究では、2011 年から 2016 年まで九州大学病院耳鼻咽喉・頭頸部外科に吃音を主訴に来院した 100 名(平均 24 歳、男女比 3.7:1)に、社交不安障害の重症度尺度である LSAS-J を記入したものを解析した。年代で比較すると、10 代、20 代に比べて、30 代は有意に LSAS-J の値が低下していた。性別差を検討すると、10 代のみ女性が男性よりも有意に LSAS-J の値が高かった。また、成人吃音者では、50%が SAD に相当した。以上より、吃音を主訴で来院する場合は、表面上の吃音だけではなく、SAD の合併の有無を考えて診療する必要があることが示唆された。
著者
高木 誠治 津田 邦良 松山 篤二 澤津橋 基広 大谷 信二 進 武幹
出版者
The Japan Broncho-esophagological Society
雑誌
日本気管食道科学会会報 (ISSN:00290645)
巻号頁・発行日
vol.50, no.5, pp.565-568, 1999-10-10 (Released:2010-02-22)
参考文献数
9
被引用文献数
11 4

A statistical study was made of foreign bodies in the trachea and bronchi of 34 patients (male:female=23:11) hospitalized at our clinic between 1982 and 1998. Nineteen patients were under 3 years of age. Fifteen cases (44%) had aspirated peanuts. The chief complaints were coughing, wheezing and fever. In radiological diagnoses, emphysema and atelectasis were found in some cases. MRI should be performed when the possibility of a foreign body is not completely excluded, even though it is not apparently suggested by an interview, physical examination, or chest X-ray.Foreign bodies were found under direct bronchoscopy in the trachea of 5 patients, in the right bronchus in 17 patients and in the left bronchus in 12 patients. These were all removed by means of a ventilation bronchoscope under general anesthesia without any complications.
著者
村上 大輔 澤津橋 基広 吉川 沙耶花 西嶋 利光 齊藤 章 加藤 昭夫 小宗 静男
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.30-38, 2012 (Released:2013-01-01)
参考文献数
16

花粉症に対する皮下免疫(減感作)療法は、唯一根治を期待できる治療法である。しかしながら頻回に注射が必要なことや重篤な有害事象が起こる可能性があるため、より侵襲が少なく、利便性が良く、安全な減感作治療法が期待されてきた。そこで簡便に減感作を行える新規経口免疫寛容剤 (スギ抗原 - ガラクトマンナン複合体) を用いて、花粉症患者に対する減感作治療の安全性、その効果について検討した。減感作中の有害事象は、5 名中 1 名で全身倦怠感を認めたのみであった。また、花粉飛散期での鼻症状、重症度スコア、VAS、medication score は、薬物治療群と比較して減感作治療群でスコアの改善がみられた。これらの結果から少人数のパイロット研究ではあるが経口免疫寛容剤 (スギ抗原 - ガラクトマンナン複合体) を用いた経口免疫療法は、重篤な有害事象を認めず、短期間での減感作治療効果が期待でき、花粉症に対する治療の一つの選択肢になり得ると考えられた。
著者
西山 和郎 澤津橋 基広 梅﨑 俊郎
出版者
耳鼻と臨床会
雑誌
耳鼻と臨床 (ISSN:04477227)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.128-135, 2016-07-01 (Released:2017-07-01)
参考文献数
13

舌骨は舌骨上筋群、舌骨下筋群の付着部位、咽喉頭のフレームとして嚥下や気道の開存に重要な機能を果たしているが、その解剖学的特徴のため舌骨骨折の報告は少ない。今回、われわれは嚥下機能評価が可能であった舌骨骨折の 1 例を経験した。症例は 35 歳、男性。工事現場の足場から転落し、前頸部を強打した。約 15 cm の横裂創と舌骨上筋群、舌骨下筋群の断裂を伴う舌骨骨折を認めたため、断裂した筋肉の修復を含む舌骨の外科的整復を行った。術後に嚥下評価を行い、後遺障害を残さずに軽快した。本邦および海外におけるこれまでの報告では、舌骨骨折の治療については、基本的には保存的加療を行い、下咽頭−喉頭に穿孔がある症例や、骨片が突出するなどして嚥下や気道が傷害される症例には外科的治療を検討するべきと報告されている。これに加えて、本症例の経験から、舌骨骨折に舌骨上下筋群の損傷断裂を認める症例には、早期の筋断裂の修復と舌骨の位置整復が重要であると同時に、その修復の際に、上喉頭神経内枝の温存に留意することが必要であると考えられた。