著者
熊谷 忠和 Kumagai Tadakazu
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.309-318, 2011

本稿は,「ハンセン病当事者のライフストーリーにみる健康自尊意識研究」の一貫した視点である社会構築主義に焦点をあてることとした.つまり,社会構築主義の定義を示したうえで,20世紀後半以降の社会構築主義の理論的潮流,とりわけ専門援助論に引きつけたその理論的潮流の再整理を試みた.結果,以下9点について,整理がなされた.(1)マルクス主義では,労働力として価値を持たないことが社会的不利,社会的スティグマを負わされることになり,またその体制維持のため「社会問題」として扱われるとされる.(2)マルクス主義への批判的立場は「客観的な基準や科学的な法則は存在しない」とした.(3)フーコーは,「自己統治性」の概念を打ち出し,権力や政治的な思惑が個人や身体やまなざしにきめ細かく貫徹,統治していくとした.(4)千田は,社会構築主義の理論的潮流の系譜を「社会問題をめぐる系譜」「物語叙述をめぐる系譜」「身体をめぐる系譜」に分類した.(5)フーコーは,専門家は支配的な言説を定義し,また「真理truth」の所有権をもち,その対象にある人は支配に晒され抑圧されるとした.(6)ポストモダニズムあるいは社会構築主義の考えは,1980年代後半,急激に専門援助者,とりわけ心理臨床の領域を中心に取り入れられていった.(7)マーゴリンは,フーコー思想を基盤にし,社会構築主義専門援助(ソーシャルワーク)論を展開した.(8)ジョンソンとグラントは,社会構築主義の視点から,専門援助の展望を開くためには,当事者の構築している世界観・文化観を共有する能力cultural competenceがその切り口になるとした.(9)社会構築主義の視点は,クライエントがどのように抑圧を受けてきたのか,またどのように内在化しているのか,そして,そこに立ち向かっているのか,を専門援助者が共同的対話によって,そのコンテクストを知り,学ぶツールとなる.This study is an attempt to review the theoretical currents of "Social Constructionism" after the 1950s as a premise of "A Study on "Health Esteem"(HE) in the Life Story of a Hansen's Patient". My research has found the following nine points. 1. Marxism regards patients as a kind of social disadvantage and even social problem due to their expulsion from the work force. 2. Postmodernism argues that there is no objective standard or scientific law. 3. Foucault proposes the concept of "self-governmentality". 4. Senda sets up the three theoretical currents of "SocialConstructionism". 5. Foucault also indicates that the experts define dominant discourses in which patients are oppressed. 6. The principle of social construction was swiftly adopted in the latter half of the 1980s by specialized standbys, especially in the field of clinical psychology. 7. Maglin founds his idea of special support rooted in the principle of social construction on Foucault's thoughts. 8. Johnson and Grant contend from the viewpoint of social construction that "cultural competence" can be a crucial factor in sharing views of the world and cultures. 9. The principle of social construction allows social workers to learn through interviews how their clients have received and confronted suppression.
著者
熊谷 忠和 クレミンソン ティム
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.55-64, 2018

本研究の目的は,これまでの筆者の研究である社会構築主義的思考に基づくソーシャルワークの理論・方法の枠組み構築を目指した「生きていることの有意味感を見据えたソーシャルワーク援助枠組みについての研究」を踏まえ,さらに当事者のライフ・ストーリー分析を多文化視点も加え,すでに筆者が提示している「生きていることの有意味感を見据えたソーシャルワーク援助枠組み」の妥当性を検証することである.そのための研究方法として,マレーシアのハンセン病当事者(中華系マレー人)への聞き取り調査を行った.分析の結果,スティグマをきせられた当事者が,自身のさまざまな対処を通して,人生においてポジティブな見解を築き上げる過程が明らかとなった.そして,エピファニー(語源はキリスト教における「顕現」を示すが,ここでは当事者が人生の見方を変えるような宗教的な体験も含む日常的な生活や出来事の体験とする)の体験を経て,当事者自身が人生の見方を変え,スティグマを乗り超えていく過程が明らかとなった.さらにライフ・ストーリーのダイナミクス,すなわち「マスター・ナラティブ」「モデル・ストーリー」「ニュー・ストーリー」の展開過程が認められ,その要因として「ストレングス」「利用者文化」「公からの他者承認」「実体ある復権」が明らかとなった.従って,研究の目的とした前段研究の妥当性は検証された.しかしながら,今回の事例的検証から本「援助枠組み」援用について,当事者との安定した信頼関係形成などに関しての限界性が認められた.
著者
熊谷 忠和 橘高 通泰 中島 裕 井上 信次 大野 まどか 立花 直樹 河野 清志 CLEMINSON Timothy
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究は、わが国の社会福祉教育養成校における、医療ソーシャルワーカーの教育養成について、国際比較(英国、米国、日本)を通してその在り方を検討するものであった。結果、(1)英国、米国では専門特化した領域ごとの教育養成制度はなく、ジェネリックの力量を引き上げることに向けられていた(2)養成カリキュラムの構成では大きい差異は認められなかった(3)ただし、実習教育の在り方が量的・質的ともに英国、米国と日本では大きい差異があった(4)その中で、英国、米国の実習教育では、その教育法としてリフレクティブ・ラーニングの取り組みが標準化していることなどが明らかとなった。