著者
熊谷 美香 北野 尚美 小松 枝里香 道場 浩幸 上野 雅巳
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.116-124, 2018 (Released:2018-04-03)
参考文献数
19

目的 救急搬送所要時間に悪影響を及ぼす要因のうち,介入可能な要因の1つに,搬送先医療機関の選定に要する時間がある。そこで,本研究では,病院選定が困難だった救急搬送症例について,覚知時刻と覚知場所,救急隊判断程度の特徴を明らかとした。方法 研究期間は2014年1月1日から12月31日の1年間で,和歌山県内で救急車搬送された,小児疾患を除く41,574件を研究対象とした。本研究では,照会回数に欠損値があった129件を除いた41,445件を解析した。照会回数4回以上を病院選定困難として,覚知時刻と覚知場所,救急隊判断程度について,調整オッズ比(OR)と95%信頼区間(CI)を二項ロジスティック回帰分析によって計算した。全体と主要診断群分類(Major Diagnostic Category,MDC)で層別化して,外傷・熱傷・中毒,神経系疾患,消化器系疾患・肝臓・胆道・膵臓疾患,呼吸器系疾患,循環器系疾患について解析結果を示した。結果 照会回数の分布は1~12回で,全体の79.6%は1回であり,4回以上は3.5%であった。全体の解析では,照会回数4回以上について,覚知時刻は,平日日勤を基準とした場合に,その他いずれの時間帯も有意に照会回数4回以上で,土日祝深夜の調整OR(95%CI)は4.0(3.2-5.0)と最も高かった。また,中等症以下を基準とした場合に,重症以上の調整OR(95%CI)は0.8(0.7-0.9)で,照会回数が有意に3回以下であった。ただし,MDC分類で層別化した解析の結果,外傷・熱傷・中毒の疾患群では,救急隊判断程度が重症以上の調整OR(95%CI)は1.4(1.0-1.8)で照会回数が有意に4回以上であった。結論 和歌山県全域において1年間に救急車搬送された成人全例を対象とした解析で,覚知時刻が土日祝深夜であったことと,救急隊判断程度が中等症以下であったことは,搬送先病院選定の照会回数が4回以上のリスク因子であった。ただし,MDC分類で層別化した解析によって,外傷・熱傷・中毒の疾患群では,救急隊判断程度が重症以上の調整OR(95%CI)が1.4(1.0-1.8)で照会回数が有意に4回以上であった。
著者
荒木 一視 岩間 信之 楮原 京子 熊谷 美香 田中 耕市 中村 努 松多 信尚
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.526-551, 2016 (Released:2017-03-29)
参考文献数
40
被引用文献数
2

東日本大震災を踏まえて,広域災害発生時の救援物資輸送に関わる地理学からの貢献を論じた.具体的には遠くない将来に発生が予想される南海トラフ地震を念頭に,懸念される障害と効果的な対策を検討した.南海トラフ地震で大きな被害が想定される西南日本の太平洋沿岸,特に紀伊半島や南四国,東九州は主要幹線路から外れ,交通インフラの整備が遅れた地域であると同時に過疎化・高齢化も進んでいる.また,農村が自給的性格を喪失し,食料をはじめとした多くを都市からの供給に依存する今日の状況の中で,災害による物資流通の遮断や遅延は,東日本大震災以上に大きな混乱をもたらすことが危惧される.それを軽減するためには,迅速で効果的に物資を輸送するルートや備蓄態勢の構築が必要であるが,こうした点に関わる包括的な取組みは,防災対策や復興支援などの従来的な災害対策と比べて脆弱である.