著者
生友 尚志 永井 宏達 西本 智一 田篭 慶一 大畑 光司 山本 昌樹 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.33 Suppl. No.2 (第41回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0851, 2006 (Released:2006-04-29)

【目的】広背筋は上半身の中で最も大きい筋であり、その働きは多岐にわたる。この広背筋の筋電図学的研究は多くなされているが、その中でもPatonらは広背筋を6つに分けて筋活動の測定を行い、機能的な分化があることを報告している。また、前田らも同様の方法により行っているが、両者とも肩関節運動時の筋活動を測定しており体幹運動時の筋活動は測定していない。さらに広背筋の体幹伸展、回旋動作の研究は多く行われているが、体幹側屈動作時の筋活動の研究は少ない。本研究の目的は、体幹側屈動作を先行研究に加えて測定し、広背筋の体幹側屈時の筋活動とその機能的分化について筋電図学的特徴を明らかにすることである。【対象と方法】対象は上下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢24.9±3.0歳)とした。なお、被験者には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で測定を行った。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導法にて行った。測定筋は右広背筋とし、Patonらの方法をもとに広背筋をC7棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で等間隔に4つ(広背筋上部、中上部、中下部、下外側部)に分け、筋線維に平行に表面電極を貼付した。また、体側のTh9の高さの筋腹(広背筋上外側部)にも貼付した。測定動作は腹臥位での右肩関節伸展・内転・水平伸展・内旋・下方突き押し、端座位での体幹右側屈・プッシュアップ、側臥位での体幹右側屈・右股関節外転・左股関節内転、背臥位での右骨盤引き上げ運動の計11項目とした。プッシュアップは端座位で臀部を床から持ち上げた状態で3秒間保持した時の積分筋電図値(以下IEMG)を、それ以外は3秒間最大等尺性収縮した時のIEMGを求め、それらを徒手筋力検査に準じた肢位にて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各部位ごとに%IEMGを求めた。統計処理は反復測定分散分析を行った。【結果と考察】各動作において部位ごとの%IEMGを比較すると、全ての動作において有意な差がみられた。肩関節水平伸展、内旋においては広背筋上部が他の部位に比べて高値を示し、肩関節内転やプッシュアップは広背筋下外側部が高値を示した。肩関節下方突き押しについては広背筋上外側部、下外側部が高値となった。これに対して、体幹側屈動作では側臥位体幹右側屈において広背筋上外側部、中下部、下外側部が高値を示し、座位体幹右側屈、側臥位右股関節外転・左股関節内転、背臥位右骨盤引き上げ運動においては広背筋下外側部が高値となった。本研究の結果より、広背筋は筋線維により機能的に分化していることが確認できた。また、広背筋の上部線維は肩関節運動時に大きく働き、外側線維については体幹の側屈を伴うような運動時に大きく働くということが示唆された。
著者
生友 尚志 永井 宏達 西本 智一 田篭 慶一 大畑 光司 山本 昌樹 中川 法一 前田 香 綾田 裕子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0851, 2006

【目的】広背筋は上半身の中で最も大きい筋であり、その働きは多岐にわたる。この広背筋の筋電図学的研究は多くなされているが、その中でもPatonらは広背筋を6つに分けて筋活動の測定を行い、機能的な分化があることを報告している。また、前田らも同様の方法により行っているが、両者とも肩関節運動時の筋活動を測定しており体幹運動時の筋活動は測定していない。さらに広背筋の体幹伸展、回旋動作の研究は多く行われているが、体幹側屈動作時の筋活動の研究は少ない。本研究の目的は、体幹側屈動作を先行研究に加えて測定し、広背筋の体幹側屈時の筋活動とその機能的分化について筋電図学的特徴を明らかにすることである。<BR>【対象と方法】対象は上下肢及び体幹に整形外科的疾患のない健常成人男性10名(平均年齢24.9±3.0歳)とした。なお、被験者には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で測定を行った。筋電図の測定にはNORAXON社製MyoSystem 1400を使用し、表面電極による双極誘導法にて行った。測定筋は右広背筋とし、Patonらの方法をもとに広背筋をC7棘突起と上前腸骨棘を結んだ線上で等間隔に4つ(広背筋上部、中上部、中下部、下外側部)に分け、筋線維に平行に表面電極を貼付した。また、体側のTh9の高さの筋腹(広背筋上外側部)にも貼付した。測定動作は腹臥位での右肩関節伸展・内転・水平伸展・内旋・下方突き押し、端座位での体幹右側屈・プッシュアップ、側臥位での体幹右側屈・右股関節外転・左股関節内転、背臥位での右骨盤引き上げ運動の計11項目とした。プッシュアップは端座位で臀部を床から持ち上げた状態で3秒間保持した時の積分筋電図値(以下IEMG)を、それ以外は3秒間最大等尺性収縮した時のIEMGを求め、それらを徒手筋力検査に準じた肢位にて測定した肩関節伸展最大等尺性収縮時のIEMGを100%として正規化し、各部位ごとに%IEMGを求めた。統計処理は反復測定分散分析を行った。<BR>【結果と考察】各動作において部位ごとの%IEMGを比較すると、全ての動作において有意な差がみられた。肩関節水平伸展、内旋においては広背筋上部が他の部位に比べて高値を示し、肩関節内転やプッシュアップは広背筋下外側部が高値を示した。肩関節下方突き押しについては広背筋上外側部、下外側部が高値となった。これに対して、体幹側屈動作では側臥位体幹右側屈において広背筋上外側部、中下部、下外側部が高値を示し、座位体幹右側屈、側臥位右股関節外転・左股関節内転、背臥位右骨盤引き上げ運動においては広背筋下外側部が高値となった。本研究の結果より、広背筋は筋線維により機能的に分化していることが確認できた。また、広背筋の上部線維は肩関節運動時に大きく働き、外側線維については体幹の側屈を伴うような運動時に大きく働くということが示唆された。<BR>
著者
田中 夏樹 岡西 尚人 稲葉 将史 山本 紘之 川本 鮎美 早川 智広 加藤 哲弘 山本 昌樹
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第24回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.O032, 2008 (Released:2008-12-09)

【はじめに】 母趾種子骨(以下、種子骨)障害に対しては、保存療法が第一選択となるが、そのほとんどが足底挿板による免荷の有効性を報告するものである。今回、足底挿板が処方できない状況であった症例の理学療法を経験した。Dynamic Alignmentを変化させるべく運動療法を行うことで種子骨周囲の運動時痛が消失した。本症例におけるDynamic Alignmentの特徴と理学所見、荷重時における種子骨の疼痛との関係について考察を踏まえ報告する。 【症例紹介】 症例は野球、空手を行っている中学1年の男性である。2年前から両側種子骨周囲に運動時痛を訴え、本年5月に歩行時痛が憎悪したため当院を受診し、理学療法開始となった。 【初診時理学所見】 両側とも種子骨を中心に圧痛を認め、歩行時痛(右>左)を訴えた。歩行時footprintにて両側ともに凹足傾向であった。また、Thomas testが陽性/陽性(右/左)、SLRが50°/50°、大腿直筋短縮テストが10横指/5横指(殿踵部間距離)と股関節周囲筋に伸張性の低下を認めた。足関節背屈可動域は25°/25°であり、両足をそろえたしゃがみ込みでは後方に倒れる状態であった。歩容はmid stance以降、支持脚方向への骨盤回旋が過度に認められた。 【治療内容および経過】 腸腰筋、大腿直筋、hamstringsを中心にstretchingおよびself stretchingの指導を行い、距骨を押し込むためのTapingを指導した。また、3週後からはショパール関節のmobilizationを行った。5週後にはThomas testが両側とも陰性化、SLRが80°/80°、大腿直筋短縮テストが0横指/0横指と改善を認め、歩行時、ランニング時の疼痛が消失し、全力疾走時の疼痛程度が右2/10、左1/10と改善した。 【考察】 hamstringsのtightnessによる易骨盤後傾、重心の後方化に拮抗するため、股関節屈筋群の活動量が増加し、腸腰筋、大腿直筋のtightnessが出現したと推察された。そのため、股関節伸展可動域の低下が生じ、歩行ではmid stance以降に骨盤の支持脚方向への過回旋による代償動作による足角の増加に加え、凹足傾向と足関節背屈可動域の低下によりmid stance~toe offにかけて荷重が足部内側へ急激に移動することで母趾球への荷重が過剰となり歩行時痛が出現していると推察された。そのため、股関節周囲筋のtightnessを除去するとともにショパール関節のmobilization、足関節背屈可動域増加を目的としたtapingを行い、toe off時における母趾球への過剰な荷重を回避することで種子骨への荷重による機械的ストレスの減少を図ることが可能となり、運動時痛が軽減、消失したと考えた。有痛性足部障害といえども、全身の機能障害が関与しているケースもあると考えられ、足底挿板療法以外にも症状改善に足部以外の部位に対するアプローチの有効性が示唆されたものと考える。
著者
山本 昌樹 林 省吾 鈴木 雅人 木全 健太郎 浅本 憲 中野 隆
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100444, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに】上腕筋は,上腕骨前面下半部に単一の筋頭を有するとされるが,Gray’s Anatomy(2005)においては「2 〜3 部からなる変異が見られる」と記載されている.一方,Leonello et al.(2007)は,「上腕筋は,全例において浅頭と深頭の2 頭を有する」と報告している.我々は,第16 回臨床解剖研究会(2012)において,上腕筋が3 頭から構成されることを明らかにするとともに,肘関節屈曲拘縮との関連について報告した.今回,これら3 頭の形態的特徴と機能について考察する.【対象および方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体15 体24 肢を対象とした.上肢を剥皮後,上腕二頭筋,腕橈骨筋,長・短橈側手根伸筋を展開した.上腕筋を起始部より分離して筋頭を同定し,筋頭の走行や配列を詳細に観察した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】全肢において,上腕筋は,三角筋後部線維から連続する筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から連続する筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起始する筋頭(以下,内側頭)に区分することができた.外側頭は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって斜めに,かつ,浅層を走行して腱になり,尺骨粗面の遠位部に停止していた.中間頭は,最も薄く細い筋束であり,内側頭の浅層を外側頭と平行して走行し,遠位部は内側頭に合流していた.内側頭は,最も深層を走行し,停止部付近においても幅広く厚い筋腹から成り,短い腱を介して尺骨粗面の近位内側部に停止していた.これら3 頭は,上腕中央部においては,外側から内側へ順に配列していた.しかし肘関節部においては,外側頭と中間頭は浅層に,内側頭は深層に配列していた.また,内側頭の縦断面を観察すると,一部の線維が肘関節包前面に付着する例が存在した.これらの例において肘関節を他動的に屈曲させると,内側頭とともに関節包の前面が浮き上がる様子が観察された.【考察】上腕筋を構成する3 頭は,内側から外側へ配列しているだけではなく,各頭が特徴的な走行や形態を呈するため,それぞれ異なる機能を有することが推測される.上腕筋外側頭は上腕骨の近位外側から遠位中央へ,一方の上腕二頭筋は近位内側から遠位中央へ斜走する.そのため肘関節屈曲時,上腕筋外側頭は前腕近位部を外上方へ,一方の上腕二頭筋は内上方へ牽引すると考えられる.すなわち肘関節屈曲時,外側頭と上腕二頭筋は共同で,前腕軸の調整を行うと考えられる.また外側頭は,3 頭の中で最も遠位に停止し,肘関節屈曲における最大のレバーアームを有するため,肘関節屈曲における最大の力源になることが示唆される.さらに,外側頭は三角筋後部線維から連続するため,三角筋の収縮によって,作用効率が変化する可能性がある.換言すれば,外側頭の作用効率を高めるためには,三角筋後部線維を収縮させた上で肘関節屈曲を行うことが有効であると思われる.内側頭は,肘関節部において深層を走行し,幅広く厚い筋腹を有する.したがって,肘関節屈曲時に収縮して筋の厚みが増すことによって,外側頭のレバーアームを維持または延長し,その作用効率を高める機能を有すると考えられる.また,肩関節の腱板が上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる作用と同様に,内側頭は,尺骨滑車切痕を上腕骨滑車に引き寄せ,肘関節の安定性向上に寄与すると考えられる.さらに,内側頭が関節包前面に付着する例があることから,肘関節運動に伴う関節包の緊張度を調節する機能が示唆される.換言すれば,内側頭の機能不全によって,関節包前面のインピンジメントや肘関節屈曲拘縮が惹起される可能性が推測される.中間頭は,最も薄く細いため,その機能的意義は小さいと思われる.しかし,上腕中央部においては外側頭と並走し,遠位部においては内側頭に合流することから,外側頭と内側頭の機能を連携する,文字通り‘中間的な’役割を担うと考えられる.上腕筋は,3頭を有することによって,肘関節屈曲における前腕軸の調整,作用効率の向上,肘関節包の緊張度の調節など複合的な機能を担うと考えられる.また,肘関節屈曲に関しては,主として外側頭が機能することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である.本研究は,上腕筋の筋頭構成を詳細に観察し,肘関節運動に対する関与について考察を加えたものであり,肘関節拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
石原 康成 水池 千尋 水島 健太郎 三宅 崇史 稲葉 将史 久須美 雄矢 堀江 翔太 立原 久義 橋本 恒 山本 昌樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1028, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】小・中学生の投球障害肩・肘症例の中には,棘下筋(以下,ISP)の筋力低下や筋萎縮が生じている例が存在する。これらISPの機能不全は肩甲上腕関節の不安定性に影響をもたらし,永続的な障害の一因となりうるため,早期発見の重要性が高い。しかし,投球障害肩・肘症例の中でもISPの筋力低下や筋萎縮を生じているものと,生じていないものが存在する。そこで今回,小・中学生の投球障害肩・肘症例におけるISPの状態を明らかにすることを目的として,小・中学生の野球選手を対象として調査を行った。併せて投手と投手以外のポジション(以下,野手)で比較し,ISPの状態の差が下肢タイトネスに由来している可能性を考え,これに関しても分析を行ったので,ここに報告する。【方法】対象は,少年野球団,シニアリトル,中学校野球部に所属している小・中学生の男子66名(平均年齢12.7±2.2歳)。肩もしくは肘に疼痛があり病院を受診した障害群は33名(以下S群,平均年齢12.9±2.3歳),で内訳は投手17名,捕手4名,外野手3名,内野手9名であった。投球障害のない対照群は33名(以下C群,平均年齢12.6±2.2歳)で,内訳は投手13名,捕手1名,外野手6名,内野手13名であった。方法は,対象者に対して,ISP筋萎縮の有無,下肢のタイトネスの指標として両側の下肢伸展挙上角度(以下,SLR),股関節内旋角度(以下,Hip IR)を測定した。SLR,Hip IRは投球側と非投球側に分けて検討を行った。ISP筋萎縮の有無の判定は,ISPの触診と視診により行い,投球側上肢と非投球側上肢で比較し判定を行った。統計解析には,ISP筋萎縮の有無についてはχ2検定,2群の測定値の比較には対応のないt検定を用いた。有意水準は5%未満とした。【結果】全体におけるISP筋萎縮は,S群では20名(60.6%),C群では9名(27.2%)であり,有意にS群での割合が高かった。投手におけるISP筋萎縮は,S群17名のうち11名(65%),C群13名のうち3名(23%)で,有意にS群での割合が高かった。野手におけるISP筋萎縮は,S群17名のうち6名(35%),C群13名のうち10名(77%)で,両群間に有意差は認められなかった。投手のSLRは,投球側のISP筋萎縮ありで69.3±9.2°,筋萎縮なしで72.8±8.4°,非投球側の筋萎縮ありで71.1±8.6°,筋萎縮なしで71.6±8.3°と,有意差を認めなかった。Hip IRは投球側の筋萎縮ありで17.9±11.6°,筋萎縮なしで26.3±9.8°,非投球側の筋萎縮ありで17.9±11.9°,筋萎縮なしで26.3±10.1°と,両側Hip IRともに筋萎縮あり群が有意に低値を示した。野手のSLRは,投球側の筋萎縮ありで65.7±11.2°,筋萎縮なしで63.6±11.8°,非投球側の筋萎縮ありで64.3±10.8°,筋萎縮なしで64.2±10.6°と,有意差を認めなかった。Hip IR(投球側)は筋萎縮ありで19.7±7.1°,筋萎縮なし20.1±8.7°,非投球側は筋萎縮ありで20.3±9.7,筋萎縮なしで21.9±9.6°と,有意差を認めなかった。【考察】本調査の結果,小・中学生の投球障害肩・肘症例において,ISP筋萎縮は投手に多いことが明らかとなった。次に,筋萎縮のある選手の下肢のタイトネスは,SLRにおいて投手と野手とで両群間に有意差を認めなかったが,Hip IRにおいて投手が有意に低値を示した。投球動作は全身の運動連鎖から成り立つため,上肢帯だけでなく下肢の柔軟性が必要とされる。投手は野手に比べて投球数が多い。ISPはフォロースルー時に加速された上肢の減速のために遠心性収縮を強いられることが要因として考えられた。ISPの負担を軽減するには,フォロースルー時の上肢の減速に非投球側のHip IRが関わる可能性が考えられる。したがって,股関節の内旋制限のある投手は,投球動作の中で生じるISPへの負担が大きい可能性が示唆された。【理学療法学研究としての意義】小・中学生の野球選手に対して潜在的に投球障害肩・肘を評価する方法としてISPの筋萎縮の有無が有用である可能性がある。SLRとHip IRは投球障害の機能的検査法である原テストの検査項目でもある。本研究により小・中学生の投手における投球障害肩・肘症例に関してはSLRよりHip IRを優先的に改善する機能強化やアプローチが投球障害をより早期に改善させる一助になる可能性がある。
著者
佐藤 剛章 山本 昌樹 野田 恭宏
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0256, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】高齢者の下肢外傷後は,膝関節拘縮を呈することが多く,受傷前の関節可動域(ROM)を獲得できない症例も経験する。今回,大腿骨骨幹部骨折の術後症例において,大腿骨前脂肪体(PFP)と内側広筋(VM),外側広筋(VL)との癒着瘢痕形成によって膝関節伸展拘縮を呈した症例を経験した。超音波検査装置(エコー)を用いた癒着瘢痕部位の同定と,エコーの動態観察による運動療法が奏効した。本症例における理学療法経過と,エコー所見を踏まえた病態について報告する。【方法】症例は70歳代の女性で,受傷前の日常生活活動が自立し,畑仕事も可能で,下肢の機能障害を認めていなかった。自宅敷地内にて転倒受傷し,他院へ救急搬送され,受傷1週間後に髄内釘による観血的骨接合術が施行された。術後3週(受傷4週間後)で当院に転院となり,当院での初期理学療法評価は,ROMが膝関節屈曲100°,伸展-15°,徒手筋力検査(MMT)が膝伸展4,Extension lagが陽性。VMとVL,PFPに圧痛を認め,膝関節屈曲時に大腿内側に伸張痛を呈していた。視診・触診において,膝蓋骨高位と外側偏位が確認され,膝蓋骨の長軸移動が制限されており,膝蓋大腿関節でのROM制限が顕著であった。大腿遠位部をエコーにて観察すると,全体的に高エコー像を呈していた。膝関節屈曲時のエコーによる動態観察では,VM及びVL,PFPの側方移動が低下していた。VMとVL,PFP間での動きが乏しく,これら組織間での癒着瘢痕形成や滑走性低下がうかがわれた。運動療法は,VMとVLの柔軟性改善を目的に,同筋の反復収縮やストレッチングを実施した。VMとVL,PFP間とでの癒着剥離と滑走性改善を目的に,膝蓋骨上部の軟部組織の持ち上げ操作と大腿四頭筋セッティングを実施した。さらに,膝関節屈曲最終域で,大腿遠位部軟部組織の側方グライディング操作を実施した。【結果】当院運動療法開始後2週で,膝関節屈曲が135°まで改善した。伸張痛は,内側から外側に変化し,VLを中心に治療を行ったがROMの改善が得られなかった,大腿骨顆部外側付近のエコーにて,プローブによるコンプレッションテストでは,膝関節屈曲最終域で動きの少ない一部のVLが存在し,同部の癒着瘢痕と柔軟性低下がうかがわれた。運動療法開始後9週の膝関節屈曲が160°,伸展0°,MMT膝伸展5,Extension lag陰性となった。独歩やしゃがみ動作も可能となり退院となった。【結論】本症例の初期エコーではPFPとVM間の癒着によって,膝関節屈曲時のVMの側方移動,屈曲135°以降ではVLの癒着瘢痕と柔軟性低下によるVLの側方移動の低下が観察できた。本症例ではVMとVL,PFP間の癒着瘢痕と柔軟性低下に対して介入することで膝関節屈曲制限の消失に至った。エコーによる動態観察は,癒着瘢痕部位の同定や状態を視覚的に把握でき,理学療法評価の客観性と治療効果の検証に有効な手段であると考える。
著者
堀江 翔太 水池 千尋 水島 健太郎 三宅 崇史 稲葉 将史 久須美 雄矢 石原 康成 立原 久義 山本 昌樹
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0411, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに】足部の動的アライメントの異常は,有痛性下肢疾患の原因の1つとされている。足部アライメント異常によるToe Outの蹴り出しでは,上行性運動連鎖により膝がKnee Inを呈することが知られている。このようなアライメントを呈する症例への理学療法に対して,体幹や股関節筋力の強化によって治療効果が得られた先行研究も散見される。しかし,日常診療においては,足部筋力が低下している症例を多く経験する。我々が渉猟した限りでは,足部の動的アライメント異常と母趾筋力の関係について不明な点が多い。そこで本研究の目的は,足部の動的アライメント異常と母趾筋力の関係を明らかにすることである。【方法】対象は,下肢に整形外科的疾患を有さない健常成人17人33足を,立脚後期にToe Outで蹴り出しを行う群(以下,TO群)14人14足(男性:7人7足,女性7人7足,平均年齢:33.3±5.2歳)と,立脚後期にToe Outで蹴り出しを行わない群(以下,C群)19人19足(男性:12人12足,女性:7人7足,平均年齢:29.5±5.3歳)の2群とした。これら2群は,動的アライメントで分類し,対象者の裸足歩行をデジタルビデオカメラで撮影し,立脚後期での蹴り出し時の足部の状態で判断した。除外条件は膝伸展位での足関節背屈角度が5°以下,フットプリントより外反母趾,扁平足や凹足などのアライメントを呈する者とした。筋力の測定肢位は,端坐位で股関節と膝関節を90°屈曲位とし,母趾屈曲および母趾外転筋力をハンドヘルドダイナモメーター(マイクロFET2,日本メディック社製)を用いて測定した。母趾屈曲筋力は,足関節底背屈中間位と最大底屈位での2条件とし,母趾外転筋力が足関節底背屈中間位で測定した。対象者に方法を十分に習得させた後,3秒間の最大努力で2回測定し,平均値を体重で除した値を採用した。統計処理には,足部の動的アライメントによる比較を対応のないt検定を用いて行った。なお,有意水準は危険率5%未満とした。【結果】足関節底背屈中間位での母趾屈曲筋力は,TO群が0.08±0.03kgF/kg,C群が0.11±0.03kgF/kgであり,TO群が有意に低値を示した(p<0.05)。足関節底屈位での母趾屈曲筋力は,TO群が0.04±0.01kgF/kg,C群が0.06±0.02kgF/kgであり,TO群が有意に低値を示した(p<0.05)。母趾外転筋力はTO群が0.03±0.01kgF/kg,C群が0.04±0.02kgF/kgであり,2群間に差を認めなかった。【考察】足部の動的アライメント異常の原因は,局所や全身の問題など様々な要因がある。本研究の結果,TO群の母趾屈曲筋力は,足関節底背屈中間位と足関節底屈位の両条件において低値を示した。TO群では,デジタルビデオカメラで撮影した歩行において蹴り出し時の母趾伸展が少ないことが確認できた。歩行では,蹴り出し時に強制的に母趾が伸展されるため,母趾屈筋力が必要となる。Toe Outの蹴り出しでは,母趾の伸展角度が少なくなることから,母趾屈筋群の活動が低下することが予想される。すなわち,母趾屈筋群の筋力低下がある場合,Toe Outによる代償的な蹴り出しを行う可能性がある。また,TO群における長母趾屈筋や短母趾屈筋の筋力低下は,これを反映した結果であると考えられる。母趾外転筋の筋力は,動的アライメントによる差を認めなかった。これは,Toe outによる母趾外転筋の活動に与える影響が少ないことを示唆しているものと考えられた。本研究は,母趾のみを対象とした研究であり,足趾および足部の筋力や機能,脛骨の外捻角度や体幹・股関節機能など,動的アライメント異常を呈するその他の要因との関連性は不明である。今後,これらについても検討していく予定である。【理学療法学研究としての意義】立脚後期にToe Outでの蹴り出しを行っている例では,母趾機能が低下していた。すなわち,足部の動的アライメントの異常は,足部機能の低下が原因の一つとなっている可能性が示唆された。このことから,足部の動的アライメント異常に対する理学療法において,足部の局所的な評価や治療の必要性を示したものと考えられる。
著者
山本 昌樹 山本 良次 古川 和徳 柴田 修志 高見 郁子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2006, pp.C0961, 2007

【はじめに】<BR>交通外傷は多発外傷にて治療が難渋、予後不良であることも珍しくない。今回、交通外傷にて多発骨折、皮膚裂傷や欠損が広範囲に多数、植皮を要した症例において特にその影響が顕著であった右足関節と、左足関節の関節可動域(以下ROM)の変化を若干の考察を加えここに報告する。尚、本症例には今回の発表の主旨を説明し同意を得た。<BR>【症例紹介】<BR>49歳、男性。05/4/3交通外傷、右上腕骨頸部骨折、右大腿骨開放骨折、右腓骨骨折、右下腿開放創多数、右足舟状骨・第1楔状骨開放性脱臼骨折、左足関節内果骨折、左腓骨骨折、左下腿開放創多数等と診断され入院。開放創を病巣郭清、右足脱臼整復後に経皮pinningにてリスフラン関節を固定した。右下腿、左下腿、左足部の開放創を縫合し下腿~足部をシーネ固定。4/14右上腕骨頸部骨折、右大腿骨骨折、左足関節内果骨折に対して観血的骨接合術施行。4/26右下腿創部MRSA検出、4/27~VCM使用開始。4/28右下腿感染創病巣郭清、右足部皮膚壊疽を切除。5/6MRSA陰性。5/9右下腿後面病巣郭清後に創閉鎖・縫合、右足外側・内側・踵後方を右鼠径部より全層植皮。5/12理学療法開始(以下PT)。5/24右下腿・足部植皮部抜糸、右足ROM exercise開始。8/31PT終了、基本動作・ADL自立、歩行は片松葉杖歩行自立、独歩自立レベルにて自宅退院。<BR>【足関節ROMの推移】<BR>左足関節ROM(背屈/底屈)の推移はPT開始時0°/55°、1週4日目10°/55°、3週目15°/55°、5週目20°/60°、終了時25°/60°。右足関節は開始時-15°/40°、1週目-10°/45°、3週目0°/45°、10週目10°/45°、終了時15°/45°であった。<BR>【考察】<BR>本症例は右足部が皮膚壊疽、植皮を要する等のPT開始時期の遅延要因を呈していた。PT開始後も右下腿植皮部dressing、両下肢共に裂傷が多数存在、把持・操作が困難であったが、皮下の癒着瘢痕化を防ぐ目的で足趾・足関節の筋収縮をできる限り促した。裂傷の治癒、植皮生着が得られた時から積極的操作を加え、左足関節はほぼ正常なROMが獲得されたが、右足関節が15°/45°と十分なROM獲得に至らなかった。背屈制限はAnkle mortisへの距骨の入り込みが不十分で、足関節前方でのimpingement様の疼痛を認め、靭帯を中心とした後側方要素の拘縮と共に前方組織の滑走・滑動障害が混在した状況が窺われた。底屈制限は開始時と最終で変化無く、足関節前方植皮部による制限が他覚的・自覚的にも認めた。これはPT開始時期遅延と共に植皮部を中心とした皮膚性の制限がmajor factorであることを示唆するものであった。退院時には歩行・ADLに支障がなく、必要な機能回復は図られたと考えるが、皮膚性要素がROMに多大な影響、改善が難渋することを痛感する症例であり、軟部組織性の要素として皮膚を重要視すべきことが再確認できた。
著者
山本 昌樹 林 省吾 鈴木 雅人 木全 健太郎 浅本 憲 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100444, 2013

【はじめに】上腕筋は,上腕骨前面下半部に単一の筋頭を有するとされるが,Gray&rsquo;s Anatomy(2005)においては「2 〜3 部からなる変異が見られる」と記載されている.一方,Leonello et al.(2007)は,「上腕筋は,全例において浅頭と深頭の2 頭を有する」と報告している.我々は,第16 回臨床解剖研究会(2012)において,上腕筋が3 頭から構成されることを明らかにするとともに,肘関節屈曲拘縮との関連について報告した.今回,これら3 頭の形態的特徴と機能について考察する.【対象および方法】愛知医科大学医学部において,研究用に供された解剖実習体15 体24 肢を対象とした.上肢を剥皮後,上腕二頭筋,腕橈骨筋,長・短橈側手根伸筋を展開した.上腕筋を起始部より分離して筋頭を同定し,筋頭の走行や配列を詳細に観察した.【倫理的配慮,説明と同意】本研究は,死体解剖保存法に基づいて実施し,生前に本人の同意により篤志献体団体に入会し研究・教育に供された解剖実習体を使用した.観察は,愛知医科大学医学部解剖学講座教授の指導の下に行った.【結果】全肢において,上腕筋は,三角筋後部線維から連続する筋頭(以下,外側頭),三角筋の前方の集合腱から連続する筋頭(以下,中間頭),上腕骨前面から起始する筋頭(以下,内側頭)に区分することができた.外側頭は,上腕骨の近位外側から遠位中央に向かって斜めに,かつ,浅層を走行して腱になり,尺骨粗面の遠位部に停止していた.中間頭は,最も薄く細い筋束であり,内側頭の浅層を外側頭と平行して走行し,遠位部は内側頭に合流していた.内側頭は,最も深層を走行し,停止部付近においても幅広く厚い筋腹から成り,短い腱を介して尺骨粗面の近位内側部に停止していた.これら3 頭は,上腕中央部においては,外側から内側へ順に配列していた.しかし肘関節部においては,外側頭と中間頭は浅層に,内側頭は深層に配列していた.また,内側頭の縦断面を観察すると,一部の線維が肘関節包前面に付着する例が存在した.これらの例において肘関節を他動的に屈曲させると,内側頭とともに関節包の前面が浮き上がる様子が観察された.【考察】上腕筋を構成する3 頭は,内側から外側へ配列しているだけではなく,各頭が特徴的な走行や形態を呈するため,それぞれ異なる機能を有することが推測される.上腕筋外側頭は上腕骨の近位外側から遠位中央へ,一方の上腕二頭筋は近位内側から遠位中央へ斜走する.そのため肘関節屈曲時,上腕筋外側頭は前腕近位部を外上方へ,一方の上腕二頭筋は内上方へ牽引すると考えられる.すなわち肘関節屈曲時,外側頭と上腕二頭筋は共同で,前腕軸の調整を行うと考えられる.また外側頭は,3 頭の中で最も遠位に停止し,肘関節屈曲における最大のレバーアームを有するため,肘関節屈曲における最大の力源になることが示唆される.さらに,外側頭は三角筋後部線維から連続するため,三角筋の収縮によって,作用効率が変化する可能性がある.換言すれば,外側頭の作用効率を高めるためには,三角筋後部線維を収縮させた上で肘関節屈曲を行うことが有効であると思われる.内側頭は,肘関節部において深層を走行し,幅広く厚い筋腹を有する.したがって,肘関節屈曲時に収縮して筋の厚みが増すことによって,外側頭のレバーアームを維持または延長し,その作用効率を高める機能を有すると考えられる.また,肩関節の腱板が上腕骨頭を肩甲骨へ引き寄せる作用と同様に,内側頭は,尺骨滑車切痕を上腕骨滑車に引き寄せ,肘関節の安定性向上に寄与すると考えられる.さらに,内側頭が関節包前面に付着する例があることから,肘関節運動に伴う関節包の緊張度を調節する機能が示唆される.換言すれば,内側頭の機能不全によって,関節包前面のインピンジメントや肘関節屈曲拘縮が惹起される可能性が推測される.中間頭は,最も薄く細いため,その機能的意義は小さいと思われる.しかし,上腕中央部においては外側頭と並走し,遠位部においては内側頭に合流することから,外側頭と内側頭の機能を連携する,文字通り'中間的な&rsquo;役割を担うと考えられる.上腕筋は,3頭を有することによって,肘関節屈曲における前腕軸の調整,作用効率の向上,肘関節包の緊張度の調節など複合的な機能を担うと考えられる.また,肘関節屈曲に関しては,主として外側頭が機能することが示唆される.【理学療法学研究としての意義】根拠に基づく理学療法を行うためには,とくに筋骨格系に関する機能解剖学的かつ病態生理学的な研究が不可欠である.本研究は,上腕筋の筋頭構成を詳細に観察し,肘関節運動に対する関与について考察を加えたものであり,肘関節拘縮の病態理解や治療の発展にも寄与すると考える.
著者
水島 健太郎 久須美 雄矢 水池 千尋 三宅 崇史 稲葉 将史 吉川 友理 石原 康成 堀江 翔太 村岡 泰斗 水田 有樹 立原 久義 山本 昌樹
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.43 Suppl. No.2 (第51回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.0061, 2016 (Released:2016-04-28)

【はじめに,目的】オスグッド・シュラッター病(OSD)は,大腿四頭筋の過緊張による膝蓋靭帯への牽引力が発症要因とされている。近年,大腿四頭筋の滑走に影響を与える膝関節周囲脂肪体の柔軟性低下が発症要因の一つとして重要視されている。我々は,OSDが健常者と比べて,大腿骨前脂肪体の柔軟性が低下していることを報告した。諸家の報告より,OSDの疼痛に膝蓋下脂肪体(IFP)の柔軟性低下が関与するとあるものの,その詳細は明らかになっていない。そこで本研究の目的は,OSDにおけるIFPの柔軟性について超音波エコー(US)を用いて評価し,膝屈曲ROMとの関係性を検討することとした。【方法】対象は,健常(N)群8例16膝(男性5例,女性3例,平均年齢13.9歳),OSD群8例16膝(男性4例,女性4例,平均年齢12.9歳)の2群とし,IFP治療前後におけるIFP組織弾性,膝屈曲ROMを測定した。IFP組織弾性は,US(ACUSON S3000,SIEMENS社製)のShear Wave Elastography(VTIQ)にて,膝伸展位(E)と120度屈曲位(F120)を各3回測定し,その平均値を算出した。IFP組織弾性を群間比較し,OSD群における治療前IFP組織弾性と治療前膝屈曲ROMとの相関,IFP治療前後のIFP組織弾性および膝屈曲ROMを比較した。IFPの治療は,IFP柔軟性改善操作を5分間施行した。統計処理は対応のあるt検定,マンホイットニー検定を用い,有意水準を5%未満とした。【結果】IFP組織弾性(N群:OSD群)は,Eが2.23m/s:2.30m/s,F120が1.95m/s:3.12m/sであり,OSD群がN群に比べF120においてIFP組織弾性が高値を示した(p<0.01)。OSD群におけるF120IFP治療前組織弾性と治療前屈曲ROMの相関は,-0.48(p<0.05)と負の相関が認められた。IFP治療前後(治療前:治療後)のF120におけるIFP組織弾性は,3.12m/s:2.06m/sであり,治療後に有意な低下を示した(p<0.05)。膝屈曲ROMは,143.8°:150.9°であり,治療後に有意な改善を示した(p<0.01)。【結論】今回の結果より,IFP組織弾性はN群と比べてOSD群が有意に高値を示し,治療前F120 IFP組織弾性と治療前屈曲ROMに負の相関が認められた。これは,IFP柔軟性低下に伴い膝屈曲ROMが制限されることを示唆している。また,OSD群においてIFP柔軟性改善により,膝屈曲ROM拡大が認められた。このことから,IFP柔軟性低下がOSDにおける膝屈曲ROM制限の一要因として挙げられ,IFP柔軟性改善操作がOSDの運動療法として有効であるものと考えられる。