著者
谷 正和 田上 健一
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2016-04-01

平成29年度は、前年度までに作成した暫定的な鉄骨の編年の妥当性を検証するため、建設年代が分かっている建築の部材を分析した。分析対象は、バングラデシュ・ナラヤンガンジ県のパナムナガール地区の建造物群である。パナムナガールは綿布の輸出を扱う裕福な商人がおよそ1870年から1930年代にかけて多くの邸宅を建設してきた地区であり、49棟が残存する。ここに残る建築物を対象として、平成29年9月に鉄骨部材の形状的特徴と建築物の建築年代を調査した。調査の結果、10棟の建物で鉄骨が用いられていた。その鉄骨の刻印から確認できた製鉄会社は、GLENGARNOCK IRON & STEEL、FRODINGHAM IRON & STEEL、CARGO FLEET IRON Co、DORMAN, LONG & Co Ld、TATA STEEL IRON & STEEL Co Ld の5件であり、これらの会社に関する文献と照合することで年代特定を行い、鉄骨の製造時期が明らかとなった。そして1887年から発刊されたDORMAN LONG社とイギリスの工業規格であるBritish Standard のカタログを用いて、実測した鉄骨断面の寸法とカタログに掲載された鉄骨の型番を照合することで、製造年代の範囲を特定することができた。一方、実建築物に残された銘板からわかる建設年と、鉄骨の製造年代特定の結果が一致しない建物があり、建物の改修時に鉄骨が導入された可能性が示唆された。このことから、鉄骨の状態や建物の図面・文書から、建設の際に構造部材として用いられたと判断できた鉄骨を、建物の年代特定の手がかりとして建物の編年方法の確立を進めていく必要があるという課題も明らかとなった。また、ケーススタディとして、イギリスから一定量の鉄骨が輸入されたと考えられる旧英領インド東部の港湾都市チッタゴン(バングラデシュ)を対象として、英領期バナキュラー建築物の分布を把握した。