著者
大和 広明 浜田 崇 田中 博春 栗林 正俊
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.197-212, 2019 (Released:2019-07-03)
参考文献数
19
被引用文献数
1

本論文の目的は,長野市を対象にヒートアイランド現象と冷気湖および山風との関係について,土地利用から求めた都市化率と標高に着目して明らかにすることである.寒候期の晴天静穏夜間の100事例を対象に日没時刻を基準とした気温のコンポジット解析をした.日没後2時間半以降に気温が都市部で高く郊外で低い,明瞭なヒートアイランド現象の気温分布が見られた.日没後数時間後には冷気湖も発達し,日出前まで冷気湖の底に明瞭なヒートアイランド現象を伴う気温分布が確認された.長野市中心部では山風が吹いている時に,中立に近い都市境界層が形成されていた.山風による力学的混合により都市境界層が維持されていた可能性が考えられた.また,日没後6時間過ぎ以降は郊外から都市に向かう冷気の流れの存在が示唆され,この流れが冷気湖の底でヒートアイランド現象の強さを若干弱めるものの,ヒートアイランド現象の気温分布を維持していたと考えられた.
著者
田中 博春 井上 君夫 足立 幸穂 佐々木 華織 菅野 洋光 大原 源二 中園 江 吉川 実 後藤 伸寿
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2010, pp.83, 2010

<B>I. はじめに</B><BR> 地球温暖化による気候変動は、農作物の栽培適地移動や栽培不適地の拡大、夏季の高温による人々の健康被害等、多くの好ましくない事例が発生することが懸念される。特に都市化に伴うヒートアイランドの拡大は、高温による人的被害をさらに助長する可能性があり、将来の気候変化を見据えた都市・農地の開発計画が必要である。そこで、農研機構が開発した「気候緩和機能評価モデル」に、気候シナリオを再現できる機能を組み込み、将来気候下で農地・緑地等の気候緩和機能を評価できるようにした。<BR><BR><B>II. モデル概要</B><BR> 「気候緩和機能評価モデル」は農研機構中央農業総合研究センターが2004~2006年に開発した領域気候モデルである(井上ほか, 2009)。コアモデルとしてTERC-RAMS(筑波大学陸域環境センター領域大気モデリングシステム)を用いており、サブモデルとして植生群落サブモデルと単層の都市キャノピーモデルを追加している。Windows XP搭載のPCにて日本全国を対象としたシミュレーションが可能であり、計算条件の設定から結果表示まで、すべてグラフィカルユーザーインターフェースによる操作が可能である。計算可能な期間は1982~2004年。計算可能な水平解像度は最大250m。1976,1987,1991,1997年の全国の土地利用を整備しており、それを元にユーザー側で自由に土地利用の変更が可能である。モデル内の都市を農地に変更することで、現在から将来までの農地の持つ気候緩和効果の理解が容易にできる。 2009年は上記モデルの「気候シナリオ版」を作成し、IPCCにより策定されたA1B気候シナリオに基づいた気候値の予測データ(MIROC)を組み込み、気温や降水量の変化を1kmメッシュで再現できるようにした。計算可能な期間は、1982~2004年の現在気候、および現在気候と同条件下の2030年代と2070年代の将来気候である。<BR><BR><B>III. モデル適用事例</B><BR> 現在気候の計算例として、仙台平野を中心とした領域における2004年7月20日の日平均気温分布を示す(図1(a))。この日は東京で史上最高気温(39.5℃)を記録するなど現在気候下で猛暑の事例である。モデル計算により、日平均気温28℃以上の高温域が仙台平野の広い範囲に分布していることが把握できる。<BR> 同じ期間における2030年代の気温を計算すると、計算領域全体で約1.5℃の気温上昇が認められる(図1(b))。仙台市を中心とする平野部が最も高温であり、海岸部では海風の進入によると思われる低温域が形成されている。さらに、同じ期間における2070年代の気温を計算すると、平野部を中心として32度以上の高温域が広範囲に形成されている(図1(c))。<BR> 2004年と2030年代の気温差を計算すると、領域北部で昇温が大きく、海岸部で相対的に小さい特徴的な分布が把握できる(図2)。これに関しては、海岸部では内陸の昇温により海風の進入が強まり、日中の昇温を現在よりも抑制することが考えられる等、将来の気候分布に力学的な解釈が適用可能である。<BR><BR><B>IV. モデルの利用方法</B><BR> 本気候緩和機能評価モデルの利用にあたっては、下記宛てにご連絡下さい。利用申請を頂いた後、500GB以上のハードディスクを郵送して頂くことで、プログラム・データを無償配布している。本気候緩和機能評価モデルは、日本国内の身近な地域の温暖化を予測するツールとして最適であり、大学や研究機関、中学校・高等学校にての教育や、自治体等で利用可能である。<BR><BR><B>連絡先:</B><BR>独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構<BR>東北農業研究センター やませ気象変動研究チーム<BR>田中 博春 宛<BR><BR><B>文献:</B><BR>井上君夫・木村富士男・日下博幸・吉川実・後藤伸寿・菅野洋光・佐々木華織・大原源二・中園江 2009. 気候緩和評価モデルの開発とPCシミュレーション. 中央農研研究報告 12: 1-25.<BR>
著者
田中 博春 小熊 宏之
出版者
日本森林学会
雑誌
日本林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.114, pp.280, 2003

I. はじめに 分光日射計データから得られる各種植生指標の季節変化を、CO2吸収量ならびに葉面積指数の季節変化と比較した。データは、国立環境研究所苫小牧フラックスリサーチサイト(カラマツ人工林)のタワーデータを用いた。・各種植生指標:全天分光日射計 英弘精機MS-131WP使用。地上高40mに設置した上向き・下向きの日積算日射量より各種植生指標値を算出。波長帯は、可視(Ch3:590-695nm≒ 赤)と近赤外(Ch5:850-1200nm)の組み合わせ[図1-a]、ならびに可視(Ch2:395-590nm≒青・緑)と 近赤外(Ch4:695-850nm)の組み合わせ[図1-b]の2通りを用いた。・CO2フラックス日中積算値:クローズドパス法非分散型赤外線分析計Li-Cor LI-6262使用。地上高27m 9:00から16:30までの30分値を加算、日中の積算値とした[図1-c]。・葉面積指数(LAI):光合成有効放射計Li-Cor LI-190SB 地上高1.5mと40mの下向き光合成有効放射量(PAR)の日積算値の比から、Lambert-Beerの式を用いPAI(Plant Area Index)を算出。落葉期の測定値を減じLAIとした [図1-d]。II. 日中CO2フラックスと植生指標GEMIの整合性[図1-c] Ch2とCh4から求めた植生指標GEMI(Global Environmental Monitoring Index)の季節変化と、日中積算CO2フラックスの極小値を結んだ包絡線の季節変化の間によい一致がみられた[図1-c]。特にカラマツの萌芽後のGEMI値の急増時期や、展葉に伴うGEMI値の増加傾向が、CO2フラックスの変化傾向とよく一致している。ただし紅葉期は両者は一致しない。これは、光合成活動が低下した葉が落葉せずに残るためと思われる。III. 各種植生指標の季節変化 [図1-a,b] これに対し、植生指標としてよく用いられる正規化植生指標NDVI(Normalized Vegetation Index)は、CO2フラックスの季節変化傾向と一致しなかった。NDVIは春先の融雪に伴う値のジャンプがあり、また6__から__10月の活葉期に値がだいたい一定となる。この特徴は、Ch3とCh5から求めた図1-aの4つの植生指標も同様であった。しかし、Ch2とCh4を用いた図1-bのGEMIと、近赤外と可視の差であるDVI(Difference Vegetation Index)にはこれらの特徴がみられず、CO2フラックスの季節変化傾向と同様に萌芽後に値が急増し、6月にピークを迎えた後なだらかに減少した。IV. 葉面積指数LAIと植生指標GEMIの整合性 [図1-d] 葉面積指数(LAI)が正常値を示す、積雪期以外のLAIの季節変化を、Ch2とCh4によるGEMI(≒CO2フラックスの季節変化)と比較すると、カラマツ萌芽後の展葉期にはGEMIより1__から__2週間ほど遅れてLAIの値が増加した。タワー設置のモニタリングカメラの日々の画像の変化を見ても、カラマツの葉の色の変化が先に現れ、その後に葉が茂ってゆく様子がわかる。 萌芽後、LAIは直線的に増加するが、GEMIの増加は立ち上がりは急なものの徐々に増加量が減ってくる。これは、萌芽後LAIの増加とともに葉の相互遮蔽が生じ、下層まで届く光量が減少するため、群落全体としての光合成活動が低下することが原因と思われる。 他にも、今回の測定方法ではLAIとしてカウントされていない林床植物のCO2フラックスの影響等が想定される。<CO2フラックス・LAIデータ提供: 産業総合技術研究所 三枝 信子・王 輝民>