著者
柳 茂樹 田村 暢成 田中 厚寿 瀧 智史 中津 太郎 許 敞一
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.139-143, 2016 (Released:2016-04-19)
参考文献数
11

要旨:症例は87 歳の男性.炎症反応高値を伴う多房性囊状の下行胸部大動脈瘤を認め,感染性大動脈瘤を疑い抗生剤治療を開始した.しかし経過を通じて発熱はなく血液培養・プロカルシトニンとも陰性で,CT では瘤の形態変化や周囲の軟部陰影も乏しいため,感染瘤は否定的であり,瘤破裂の可能性を考慮し胸部大動脈ステントグラフト内挿術(TEVAR)を施行した.術後第1 日目からWBC の異常高値が認められ,患者のWBC は最大112800/μl まで上昇する類白血病反応を呈し,急速に進行する両鼠径部の壊疽性膿皮症を発症した.経過中抗生剤治療には反応せず,多臓器不全に至り術後21 日目に死亡した.剖検にて骨髄の過形成,幼若球の増加を認め,慢性骨髄単球性白血病が背景にあり手術を契機に急性転化したことが示唆された.TEVAR が低侵襲とはいえ,術前の炎症については十分な検討を行い手術適応を評価することが重要であると考えられた.
著者
八板 静香 野口 亮 蒲原 啓司 柚木 純二 諸隈 宏之 古賀 秀剛 田中 厚寿 古川 浩二郎 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.277-280, 2016-11-15 (Released:2016-12-10)
参考文献数
10

中枢性尿崩症(central diabetes insipidus : CDI)は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が消失あるいは減少することにより尿量増加をきたす疾患である.一般的にCDIに対しては抗利尿ホルモン(ADH)補充により治療を行うが,手術侵襲により体液量や電解質などが変動する周術期のCDI患者の管理法に関しては報告も少なく確立したものはない.今回,われわれはCDIを合併した弁膜症の手術症例を経験したので報告する.症例は下垂体腫瘍の摘出術後に続発性のCDIを発症していた72歳の女性で,大動脈弁置換術と僧帽弁形成術が施行された.CDIに関しては酢酸デスモプレシン内服で術前の尿崩症のコントロールは良好であった.術直後よりバソプレシンの持続静注を開始し術翌日よりバゾプレシンの内服を再開したが術後3日目頃より急激な尿量増加をきたした.バソプレシンの静注から皮下注射に切り替え,尿量に応じたスライディングスケールで投与量を決めてコントロールを図った.経過中,バゾプレシン過剰による水中毒を認めたが,日々の尿量と電解質バランスを注意深く観察しつつスライディングスケールに従ってバゾプレシンを漸減することで酢酸デスモプレシン内服へ切り替ることができた.尿量に応じたバゾプレシン皮下注のスライディングスケールは開心術後のCDIのコントロールに有効であった.