著者
三保 貴裕 古川 浩二郎 大坪 諭 岡崎 幸生 伊藤 翼
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.18, no.5, pp.559-562, 2009-08-25 (Released:2009-09-01)
参考文献数
9

鈍的外傷による胸部大動脈損傷は,受傷直後より30分以内に大半が死亡する重篤な疾患である.好発部位としては通常は内膜,中膜の断裂により大動脈峡部に限局する仮性瘤の形成を引き起こすことが多い.しかし,今回,画像上も病理学的所見上も通常のB型解離と同様の形態を呈した稀な症例を経験したので報告する.症例は72歳女性で1999年交通事故にて外傷性急性大動脈解離(Stanford B)を発症した.大動脈最大径は35mm程度で多発外傷もあり,降圧加療を行ったが大動脈径の拡大,破裂の兆候等なく,その後外来にて経過観察となった.2005年 2 月,背部痛出現し,CTにて大動脈径は55mmに増大を認め,手術の方針となった.部分体外循環下に下行大動脈人工血管置換術を施行した.術後は対麻痺など認めず良好に経過した.病理組織では,通常の解離と同様の中膜の外側 2 / 3 の部位で解離を認めた.
著者
野村 竜也 古川 浩二郎 福田 倫史 平田 雄一郎 恩塚 龍士 田山 栄基 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.35-38, 2022

<p>急性大動脈解離に対するオープンステントグラフト(以下OSG)を併用した全弓部置換術後の脊髄障害は重篤な術後合併症の1つであり,わが国の多施設研究でその発生率は3.5%と報告されている.脊髄障害の原因には多くの要因があると考えられるが,その1つとして肋間動脈閉塞の関与が考えられる.症例は71歳女性.Stanford A型急性大動脈解離に対し弓部大動脈置換+OSG挿入術を施行した.術後より対麻痺を認め,脳脊髄液ドレナージ等を行ったが,改善を認めなかった.術前の造影CTで確認できた肋間動脈10対のうち7対が偽腔起始であり,術後に6対の肋間動脈が閉塞した.術前の造影CTで肋間動脈の多くが偽腔起始であり,かつリエントリー所見に乏しい症例においてOSGを使用した場合,術後偽腔閉塞に伴い肋間動脈が閉塞し,脊髄虚血のリスクが増大し得ると考えられる.</p>
著者
新崎 義人 嶺井 陽 砂田 和幸 上門 あきの 仲榮眞 盛保 古川 浩二郎
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会 九州ブロック会
雑誌
九州理学療法士学術大会誌
巻号頁・発行日
vol.2021, pp.105, 2021

<p>【はじめに】</p><p>近年、重症下肢虚血(chronic limb-threatening ischemia 以下CLTI)症例に対する治療は、血行再建、創傷治癒、再生医療の発展により切断部位を最小限とし下肢を温存する救肢が求められている。CLTIをはじめとした足部潰瘍は難治性とされ、一度治癒に至っても再発率が高く、装具や足底圧計測器等を用いて再発予防を念頭に置いた評価、運動療法を行う必要がある1)2)。今回、閉塞性動脈硬化症によるCLTI に対し左下肢総大腿動脈- 膝窩動脈バイパス術、左第3-5 趾切断を施行された症例に対し歩行や足底圧の評価、短下肢装具の作成と患者教育を実施したので報告する。</p><p>【経過】</p><p>症例は70 代男性で既往歴に左被殻出血による右片麻痺(Brunnstromstage 上肢III、手指II、下肢III)を呈している。歩行時に左足をぶつけ、足趾に創傷及び潰瘍を形成した。精査の結果、CLTI と診断され、左下肢総大腿動脈- 膝窩動脈バイパス術、左第3-5 趾切断および植皮を施行された。術後1 日目(1POD)より理学療法を開始し、2POD より歩行を開始した。歩行はT-cane を使用しており、その特徴として術側である非麻痺側の立脚期に術創部への荷重が過多となっていた。歩行による再潰瘍形成が懸念されたため、足圧分布測定システム(go-tec 社:GP mobile date)を使用して裸足の状態、短下肢装具及び除圧パットを装着した状態での各々の歩行時の左下肢前足部への荷重負荷量を測定した。荷重負荷量の最大ピーク圧は裸足では1.6N/cm2、短下肢装具及び除圧パットでは、0.1N/cm2 であった。患者指導の際には、歩行指導として術側前足部に圧が集中しないように、揃え型歩行を促した。術創部の自己管理指導としては、毎日の創部観察を促した。その後53POD で創部管理の為、他院への転院となり、60POD で自宅退院となった。84POD の当院外来時では患部の創傷は無く、歩行を含むADL は自立していた。</p><p>【結語】</p><p>CLTI に対する運動療法についての報告は稀少であり、現時点では画一されたプロトコールや介入手法は確立されていない。またフットケアにおいても同様であり、対象者に応じた評価・介入が重要である。本症例においては、足圧分布測定システムを用いた評価、創部管理の介入が再潰瘍形成防止の一助となったと考える。</p><p>【参考文献】</p><p>1) 榊 聡子:重症下肢虚血の理学療法 トータルフットマネジメントの実際. PTジャーナル・第50 巻第9 号827-832, 20162) 松本純一:足部潰瘍の自己管理指導の実際. PTジャーナル・第50 巻第9 号 833-838, 2016</p><p>【倫理的配慮,説明と同意】</p><p>症例およびその家族に理学療法介入および本学会への症例報告に関する説明を実施し、同意を書面で得た。</p>
著者
比嘉 章太郎 永野 貴昭 安藤 美月 喜瀬 勇也 仲榮眞 盛保 古川 浩二郎
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.30, no.5, pp.291-294, 2021

<p>急性B型解離の偽腔破裂は致死的疾患で救命が最優先される.しかし対麻痺を発症するとADLが低下し予後にも影響する.今回われわれは術中に運動誘発電位(MEP)をモニタリングし,MEP変化に対応することで対麻痺を回避し得た1例を経験したので報告する.症例は60歳男性.近位下行大動脈のエントリー近傍の偽腔より縦隔内にextravasationを認めた.ステントグラフト留置(Zone2~Th8)直後にはMEP変化はみられなかった.偽腔血流制御の手技中,ステント展開後から51分後からMEPが低下し,78分後にはMEPが消失した.平均血圧を上昇させてもMEPが回復しなかった.左鎖骨下動脈へベアステント留置し順行性血流を確保したところ,MEPの回復がみられ,術後も対麻痺は認めなかった.緊急手術であっても可能な限りMEPをモニタリングし,MEP変化に適切に対処することで対麻痺発症の予防に努めることが肝要である.</p>
著者
内山 光 古川 浩二郎 福田 倫史 平田 雄一郎 恩塚 龍士 田山 栄基 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.235-239, 2021

<p>冠動脈大動脈起始異常症は比較的稀な先天性冠動脈異常である.心筋虚血や心室性不整脈が問題となるが,初発症状が心停止である例が約半数との報告もある.しかし,かかる病態に対する手術適応や手術術式に関して不明な点も多い.今回,右冠動脈大動脈起始異常症に対して外科治療を行い良好な結果を得たので報告する.繰り返す胸部圧迫感を主訴とする47歳男性に精査を行ったところ,右冠動脈が左バルサルバ洞より分岐する右冠動脈大動脈起始異常症であった.血液検査,心電図,心臓カテーテル検査を含め客観的な心筋虚血所見を認めなかったものの,右冠動脈の比較的急峻な大動脈からの起始角度,両大血管間に挟まれた走行形態が胸部症状に関与している可能性と,突然死の可能性が否定できなかったため,手術の方針とした.手術は右冠動脈移植術を施行した.画像上良好な結果が得られ,術後一年の現在,胸部症状の再燃なく外来経過観察中である.</p>
著者
八板 静香 野口 亮 蒲原 啓司 柚木 純二 諸隈 宏之 古賀 秀剛 田中 厚寿 古川 浩二郎 森田 茂樹
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.277-280, 2016-11-15 (Released:2016-12-10)
参考文献数
10

中枢性尿崩症(central diabetes insipidus : CDI)は下垂体後葉からの抗利尿ホルモン(ADH)の分泌が消失あるいは減少することにより尿量増加をきたす疾患である.一般的にCDIに対しては抗利尿ホルモン(ADH)補充により治療を行うが,手術侵襲により体液量や電解質などが変動する周術期のCDI患者の管理法に関しては報告も少なく確立したものはない.今回,われわれはCDIを合併した弁膜症の手術症例を経験したので報告する.症例は下垂体腫瘍の摘出術後に続発性のCDIを発症していた72歳の女性で,大動脈弁置換術と僧帽弁形成術が施行された.CDIに関しては酢酸デスモプレシン内服で術前の尿崩症のコントロールは良好であった.術直後よりバソプレシンの持続静注を開始し術翌日よりバゾプレシンの内服を再開したが術後3日目頃より急激な尿量増加をきたした.バソプレシンの静注から皮下注射に切り替え,尿量に応じたスライディングスケールで投与量を決めてコントロールを図った.経過中,バゾプレシン過剰による水中毒を認めたが,日々の尿量と電解質バランスを注意深く観察しつつスライディングスケールに従ってバゾプレシンを漸減することで酢酸デスモプレシン内服へ切り替ることができた.尿量に応じたバゾプレシン皮下注のスライディングスケールは開心術後のCDIのコントロールに有効であった.
著者
伊藤 学 古川 浩二郎 岡崎 幸生 大坪 諭 村山 順一 古賀 秀剛 伊藤 翼
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.132-135, 2006-05-15 (Released:2009-08-21)
参考文献数
6

鈍的外傷による心破裂の救命率は低い.救命率の向上のためには診断,治療方針を明確にする必要がある.われわれは鈍的外傷による心破裂例8例を経験した.来院時,全例経胸壁心エコーにより心嚢液貯留を認め,心タンポナーデの状態であった.受傷から来院までの平均時間は186±185分,来院から手術室搬入までの平均時間は82±49分.術前に心嚢ドレナージを行ったのは2例,経皮的心肺補助装置を使用したのは2例であった.破裂部位は,右房3例,右房-下大静脈1例,右室2例,左房1例,左室1例であった.4例に体外循環を用い損傷部位を修復した.8例中6例を救命することができた(救命率75%).診断において経胸壁心エコーが簡便かつ有効であった.多発外傷例が多いが,心タンポナーデによるショック状態を呈している場合,早急に手術室へ搬送すべきである.手術までの循環維持が重要であり,心嚢ドレナージ,PCPSが有効である.