著者
田中 由浩 佐野 明人
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.47-52, 2014 (Released:2016-04-16)
参考文献数
38
被引用文献数
1

触覚は,体表全体に備わっているが,特に手が果たす役割は大きい.人は触れることで,対象の形状や質感を知覚することができる.また,滑りの予知など巧みな操作に不可欠な知覚もある.触知覚は,対象と皮膚との力学的相互作用による皮膚の変形や熱の移動を機械受容器が取得することで行われている.皮膚は,機械受容器にとって一種の力学的フィルタであり,人の手や指,皮膚の構造には,触知覚のための巧妙な力学的メカニズムが仕組まれている.多くの触知覚メカニズムがまだ未解明で断片的ではあるが,本稿では,機械受容器に有益な触覚増強をもたらす皮膚構造や知覚対象に適切な指や手の構造について概観し,触覚の観点から人工の手を考察する.
著者
田中 由浩
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.21-26, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
34

振動は触覚において様々な感覚に関わり極めて重要な情報である.我々の触覚は,対象と皮膚との力学的相互作用により皮膚で発生した変形や振動,熱の変化に基づく.また,触覚の受容と運動の間には双方向の関係がある.したがって,触覚には皮膚の力学的特性や運動特性が大きく関与する.本稿では,これらの観点のもと,振動と触覚との関係を,皮膚特性,触知覚,運動特性から,概観したい.皮膚特性では皮膚で生じる振動の周波数特性や,指紋や皮下組織の構造と振動との関係を,触知覚では粗さの感覚と振動との関係を,運動特性では個人差や粗さ知覚における運動調整を主に紹介する.
著者
駒﨑 掲 久原 拓巳 田中 由浩 渡邊 淳司
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.91-100, 2023 (Released:2023-06-30)
参考文献数
25

In viewing contents that do not require user’s active involvement, such as sports games and music concerts, the video and audio are often viewed from third-person view instead of a first-person view. However, this type of viewing experience explicitly divides the viewer and player into the viewer and the viewed. Therefore, the authors have developed a new type of experience that generates a different type of empathy: “Becoming-player sports viewing,” in which the player’s movements can be perceived as viewers’. This experience uses a third-person video, but also uses the viewer’s own movements and tactile vibrations presented to multiple bodily parts, allowing the viewer to feel a sense of becoming a player in the video. In this paper, we report on the actual implementation of “Becoming-player sports viewing,” and experiments that demonstrate the principle of it.
著者
早川 裕彦 大脇 理智 石川 琢也 南澤 孝太 田中 由浩 駒﨑 掲 鎌本 優 渡邊 淳司
出版者
特定非営利活動法人 日本バーチャルリアリティ学会
雑誌
日本バーチャルリアリティ学会論文誌 (ISSN:1344011X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.412-421, 2020-12-25 (Released:2020-12-25)
参考文献数
18

This paper presents “Public Booth for Vibrotactile Communication”, an interactive audio-visual-haptic media that allows us to feel the vibrations of the other people who share the same desk and face each other. The purpose of this research is to observe what kind of behavior people take when a higher presence is presented by tactile sensation in telecommunication. As the interface, we designed a pair of frames consisting of a curved screen to show the upper body and the hand of a life-size person, a haptic system to share tactile sensation, and a sound system. By installing the frames in multiple remote places and transmitting audio-visual-tactile sensation interactively, we observed what kind of behavior faced people do and what kind of communication was created between them. As a result, various haptic plays were created. Since the tendency in the development of haptic communication observed in the developmental phase of infants was also observed through this approach, it was clarified that the heightened presence provided by haptics for telecommunication contributes to the promotion of friendship.
著者
友永 雅己 酒井 基行 田中 由浩 佐野 明人
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第31回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.94, 2015-06-20 (Released:2016-02-02)

霊長類の比較認知研究においては、視覚を対象とした研究が圧倒的に多く、聴覚や嗅覚の研究は視覚に比べると少なく、さらに触覚に関する研究はきわめて少ないのが現状である。そこで今回は、触覚の中でも力触覚に関する研究をチンパンジーを対象に実施した。力(触)覚とは、触覚の中でも物体と接触したときの反力に対する感覚を指す。今回の実験では、モータを利用して力覚(摩擦力)を精密にフィードバックすることのできるトラックボールを開発し、これを用いて条件性弁別課題をチンパンジーに訓練した。課題はまずカーソルを画面上に提示し、トラックボールを用いてこれを一定距離動かすことが要求される。この時の力覚フィードバックの量(8N対0.5N)に応じて、その後画面の上下に提示されるキイのいずれかにカーソルを移動させると報酬を得ることができる。4個体のチンパンジーが実験に参加した。この課題は、これまでに経験していない力触覚の弁別であるということ、また、各刺激に対して異なる反応を要求する条件性弁別課題を導入せざるを得なかったこと、の2点から、きわめて難しい課題であり、すべてのチンパンジーで最終的な学習基準に至ることができなかった。しかしながら、各個体の課題遂行を詳細に分析したところ以下のことが明らかとなった。まず、8N条件と0.5N条件を数試行ずつのブロックとして提示したところ、ブロックが切り替わった試行での正答率が弁別が成立していないと仮定した場合に予測される正答率よりも有意に高いことが明らかとなった。また、摩擦の小さい条件から大きい条件に切り替わる場合の方が逆の場合よりも正答率が高いことが明らかになった。これらの結果から、チンパンジーにおいても力触覚を手がかりとした条件性弁別が成立する可能性が示唆された。