著者
高田 祐輔 中谷 知生 山本 征孝 堤 万佐子 田口 潤智 笹岡 保典 藤本 康浩 佐川 明 天竺 俊太
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Bb0768, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 近年、治療用装具として長下肢装具を積極的に活用することの有用性が認識されつつある。脳卒中片麻痺患者の歩行練習に際し、長下肢装具を使用する利点の一つとして、ターミナルスタンス(以下Tst)における股関節伸展・足関節背屈運動が保障されると考えられており、先行研究においても短下肢装具装着下に比べ足関節背屈運動の可動域が拡大することが明らかとなっている。しかし長下肢装具を装着することによる、股関節伸展運動への影響についてまとまった報告はこれまでなされていない。そこで今回、長下肢装具を装着することが麻痺側立脚期の股関節伸展角度に及ぼす影響を明らかにすることを目的とし、短下肢装具装着下との比較検討を行ったのでここに報告する。【方法】 対象は当院入院中の脳卒中片麻痺患者6名(左片麻痺3名・右片麻痺3名、男性3名、女性3名、平均年齢69±10歳)とした。発症日からの平均経過日数は155±39日で、下肢Bruunstrom Recovery Stageは3が4名、4が2名であった。すべての対象者が当院にて長下肢装具作成後カットダウンを行っており、計測時点では短下肢装具を用いた歩行トレーニングを行っていた。作成した下肢装具はいずれも足継手に底屈制動・背屈フリーの機能を有する川村義肢社製Gait Solutionを使用していた。計測は長下肢装具、短下肢装具それぞれ前後3mの予備路を設けた10mを自由速度で歩行する様子を、矢状面から三脚台に固定したデジタルカメラにて撮影した。すべての対象者は杖を使用し、計測時は転倒防止のため理学療法士が見守った。デジタルカメラは床面から1.2mの高さの位置に歩行の進行方向と垂直になるように、歩行路から4m離れた位置に設置した。股関節角度は倉林らの報告を参照に股関節点(上前腸骨棘点と大転子最外側突出点を結ぶ線上で大転子最外側突出点から1/3の位置)をとり、上前腸骨棘、膝関節外側裂隙を結んだ線のなす角とした。対象者には上記3点にマーカーを貼り付け、静止立位時の角度を基準にそこからの増減角度を計測した。計測は2回実施し、画像解析ソフト(NIH ImageJ)を利用し得られた3歩行周期分の平均角度を、Wilcoxonの符号付順位和検定を用い統計学的処理を行った。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属施設長の承認を得て、対象者に口頭にて説明し同意を得た【結果】 Tstでの股関節伸展角度は、長下肢装具装着下では5.8±2.3°であり、短下肢装具装着下では-0.9±2.1°であった。すべての対象者が長下肢装具装着下ではTstにて股関節伸展位を保持でき、短下肢装具装着下と比べ股関節伸展角度が有意に増大していた。短下肢装具装着下ではTstで股関節伸展位を保持できた者は3名(1±0.4°)であり、屈曲位となった者が3名(-2.7±0.9°)であった。【考察】 脳卒中片麻痺患者の歩行の特徴の一つとして、Tstにおける股関節伸展運動の不足が挙げられる。吉尾らは、股関節伸展運動の不足により股関節屈筋群が十分に伸張されず、遊脚初期に必要な筋力の発揮が困難となると述べている。当院において長下肢装具を積極的に使用する目的の一つは、不足する股関節伸展運動を補い、力学的に有利なアライメント下で歩行練習が行えるという点にある。しかし、実際に短下肢装具装着下と比較しTstでの股関節伸展角度が増大しているのかについては目測の域で終わってしまうことが多かった。今回の調査から、すべての対象者において長下肢装具装着下のTstの股関節伸展角度は有意に拡大し、長下肢装具の有する役割が明らかとなった。一方、短下肢装具装着下ではTstにて股関節伸展位を保持することが可能な者と不可能な者の2群に分けられた。一般的に長下肢装具におけるカットダウンの基準は、立位での麻痺側下肢の支持性、歩行時の下肢アライメントなどが挙げられている。今回、股関節屈曲位となった3名について運動学的見地からはカットダウンの時期でなかった可能性があるが、病棟での生活動作においても使用することを目的に短下肢装具へと変更していた。理学療法場面においては、より有利なアライメント下での歩行練習としては長下肢装具が適していると考えられるが、カットダウンについては症例の個別性も配慮する必要性があると考える。【理学療法学研究としての意義】 本研究は長下肢装具を装着することで、短下肢装具と比較しTstでの股関節伸展角度が有意に増大することを示したものである。このことにより、脳卒中片麻痺患者の歩行練習において長下肢装具を使用することの利点がより明確にされたものと考える。
著者
田口 潤
出版者
日経BP社
雑誌
日経コンピュ-タ (ISSN:02854619)
巻号頁・発行日
no.680, pp.98-103, 2007-06-11
被引用文献数
3

日本のIT人材育成策が進展し始めた。情報処理技術者試験制度の抜本的な見直しや、IT専門の大学院大学を設置するなど、「官」と「学」、そして「産」が連携してIT人材の高度化を図る。「日本のIT人材は崖っぷち。このままでは基幹産業の競争力に悪影響が出る」(経団連の張富士夫副会長)という、産業界の強い危機感を受けてのことだ。
著者
中谷 知生 田口 潤智 笹岡 保典 堤 万佐子 谷内 太 土屋 浩一 藤本 康浩 佐川 明 天竺 俊太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0228-Ca0228, 2012

【はじめに、目的】 通常歩行においてプレスイングは体重が反対側へ移動する時期であり、この時の足関節底屈トルク(以下セカンドピーク)は遊脚期に必要な振り出しの初速を形成するとされている。そのため、プレスイングにおけるセカンドピークの減少は歩行速度の低下を引き起こすと考えられており、脳損傷後片麻痺者では強いセカンドピークを得られる者ほど速い歩行速度を得られるという報告がある。一方で、大腿骨近位部骨折術後患者におけるセカンドピークが歩行能力にどういった影響を与えるかについては明らかにされていない。本研究の目的は、大腿骨近位部骨折術後患者におけるセカンドピークの有無が歩行能力、特に歩行スピードに与える影響を明らかにすることである。【方法】 対象は、当院に入院中の大腿骨近位部骨折術後患者12名(平均年齢77.3±6.0歳、男性2名、女性10名)とした。術式の内訳は観血的骨接合術6名・人工骨頭置換術5名・人工股関節全置換術1名であった。術後の炎症やそれに起因する疼痛による歩行能力への影響を避けるため、疼痛の訴え無く10m以上介助なしで歩行可能な者を対象とした。計測時の術後経過日数は平均81.6±25.5日であった。効果判定の指標は川村義肢社製Gait Judge System(以下GJ)を使用した。GJは短下肢装具Gait solitionの油圧ユニットに発生する足関節底屈方向の制動力を計測する機器であり、これによりセカンドピークの定量的な評価が可能となる。今回の調査では対象者の術側下肢にGJを装着し、快適速度歩行および最大速度歩行を測定した。その結果、最大速度歩行においてセカンドピークを発揮している群と発揮していない群の2群に分割し、快適速度および最大速度で歩行した際の歩行速度・ケイデンス・歩数の差をt検定で比較した。さらにセカンドピークのトルク値と歩行速度との関連をSpearmanの順位相関係数を用い算出した。統計学的有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究は所属施設長の承認を得て、対象者に口頭にて説明し同意を得た。【結果】 対象者12名中、最大速度歩行時にセカンドピークを発揮した者が5名、発揮していない者が7名であった。セカンドピークを発揮した5名の術式は、観血的骨接合術2名・人工骨頭置換術3名、セカンドピークを発揮していない7名の術式は、観血的骨接合術4名・人工骨頭置換術2名・人工股関節全置換術1名であった。両群ともに快適速度に比較して最大速度では有意に歩行速度・ケイデンスが増大し、歩数は有意な変化は見られなかった。両群間を比較すると、セカンドピークを発揮している群は比較していない群よりも最大速度が有意に高かった。セカンドピークのトルク値と最大速度の間には-0.6と有意な負の相関関係が認められた。【考察】 大腿骨近位部骨折術後患者においても、セカンドピークを発揮できる群では発揮できない群に比べ歩行速度を向上させることが可能であるという特徴が明らかとなった。一方で、セカンドピークのトルク値と最大速度の間には負の相関関係が認められた。脳損傷後片麻痺者ではセカンドピークの減少は歩行速度の低下を引き起こすため、セカンドピークのトルク値と歩行速度に正の相関関係が認められている。しかし、変形性股関節症に対して人工股関節置換術を施行した患者におけるプッシュオフに関する先行研究では、立脚中期から後期にかけての強い足関節底屈運動は股関節伸展運動の不足を補うための代償的手段として用いられるという報告がある。よって今回の研究結果から、大腿骨近位部骨折術後患者においてもセカンドピークは遊脚期に必要な振り出しの初速を形成するという意味で歩行速度向上に貢献する一方で、トルク値の増大は股関節の機能低下を補うための代償動作という意味も含んでいるという可能性が推察された。今後は更にデータ数を増やし、大腿骨近位部骨折術後患者における最適なセカンドピークのトルク値、またそれを発揮させるためのトレーニング法を明らかにすることを目的に、特に股関節伸展運動の可動域、下肢筋力などの指標を用いた多角的な評価を行っていきたい。【理学療法学研究としての意義】 本研究は、歩行時の足関節運動が大腿骨近位部骨折術後患者の歩行速度を決定する要因の一つであることを示すものである。また従来、主に脳損傷後片麻痺者の評価で用いられることの多かったGJによる足関節底屈トルクの計測が大腿骨近位部骨折術後患者の歩行能力を評価する上でも有用であることを明らかにしている。以上2点において、本研究は大腿骨近位部骨折術後患者の理学療法の発展において重要な示唆を与えるものと考える。