- 著者
-
甲斐 健人
- 出版者
- 愛知教育大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 1996
本研究の目的は「底辺校」の運動部員が獲得する文化を通して学歴社会における学校文化を問い、「課外スポーツの経歴」と社会的再生産に関する基礎的知見を得ることにあった。申請者は一農業高校サッカー部を対象とし参与観察を行いながら事例研究を実施した。サッカー部員には積極的入部希望者と1年生は全員部活動に入らなければならないという校則に従った消極的入部者とがいた。実際に活動している人数は部員登録人数よりもはるかに少ない。アルバイト、友人や彼女との約束などの理由で部活動に参加しないのは「当然」であり、練習に何人の部員が参加するかを予測しにくい。さらに、農業高校のカリキュラム上、日常的に実習、当番などで時間を拘束されるために部活動運営はますます厳しい状況にある。彼らにとって部活動は空いた時間に行う「趣味」ともいえるだろう。このような状況においては予定された練習計画を十分に消化することは難しく、現実的には長期の練習計画は作成されていない。結果的には優秀な「スポーツの経歴」を獲得することは困難である。彼らの多くは中学時代の成績によって選別され農業高校に進学し、学校に対してあまり多くを期待していない。彼らの行動は各自がその時々で行動する必要性を感じるか否かによって決定され、校則などは実質的にはあまり意味をもたない。既に彼らは学校文化、学歴社会を相対化していた。その背後には家庭において学校で教えられる価値観とは違う価値観を身につけているなど、家庭の影響を指摘できる。3年生9名の進路は進学4名(短大2、専門学校2)、就職5名。両親の学歴、職業と彼らの進路を考えたとき「スポーツの経歴」が社会的再生産につながっている可能性が示唆された。