著者
甲斐 智大
出版者
東北地理学会
雑誌
季刊地理学 (ISSN:09167889)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.95-111, 2023 (Released:2023-10-03)
参考文献数
22

2022年度から新学習指導要領に基づき,高等学校において必修科目「地理総合」の実践が始まっている。これまで高等学校で実施されてきた教科「地理」では知識理解に重点がおかれてきた。それに対して「地理総合」では地図などを活用した「知識活用・課題解決」的な学習が強く要求されている。そこで,地理教員の不足を鑑み,地理関連学会では高等学校の教員に向けた支援コンテンツ拡充の試みが展開されている。しかし,一連の支援コンテンツは一部の教員と研究者によって拡充されており,必ずしも高校生や「地理総合」を担当しうる教員の地理に対する理解・認識や実態を踏まえたものではない。そこで,本稿では高校生および高等学校教員の地理や地図に対する認識について検討した。その結果,中学生時代に地図帳を活用した経験を持つ者は限定的であり,地図を用いた考察に対して苦手意識を持つ者が目立つことを示した。そのうえで,こうした状況にある生徒に対して「地理」を指導することになる教員の実態について検討すると,彼らの理解度も低く,なかでも現代的課題に関する理解度はとりわけ低いことが示された。こうした実態を踏まえると,新学習指導要領が要求する目標を達成するためには,一部の教員による地理専門教員に向けた支援コンテンツの拡充に加えて,地理の基本事項や,地図を用いた考察を前提とした主題や問の設定のための支援が求められることが明らかとなった。
著者
庄子 元 甲斐 智大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.22-32, 2023 (Released:2023-01-07)
参考文献数
15

本稿の目的は青森県南部町と秋田県東成瀬村を事例に,特定地域づくり事業協同組合の性格の地域差を明らかにすることである.両地域では地域外からのサポートによって労働者派遣法に対応した運営体制の構築やホームページの整備が進められ,事業協同組合が設立されている.また,南部町では求人のウェブサイト,東成瀬村では地域内のハローワークを通じてマルチワーカーが募集された.そのため,南部町のマルチワーカーは地域外からの新規就農希望者であるのに対し,東成瀬村は地域内居住者が主である.こうした属性の違いから,南部町ではマルチワーカーに対する農業技術の研修を充実させている一方,東成瀬村ではマルチワーカーへの手当を厚くしている.したがって,両地域の事業協同組合は,南部町では新規就農希望者が農業技術を習得する学びの仕組みとして機能しているのに対し,東成瀬村は地域内の居住者が安定して雇用されるための仕組みといえる.
著者
福村 僚 甲斐 智大 塩川 勝行 高井 洋平
出版者
日本スポーツパフォーマンス学会
雑誌
スポーツパフォーマンス研究 (ISSN:21871787)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.145-157, 2022 (Released:2022-07-06)
参考文献数
8

本研究は,サッカーの攻撃方向を伴うボールポゼッショントレーニングにおける集団変数とテクニカルプレーに対する競技水準の影響を明らかにすることを目的とした.22 名の大学男子サッカー選手を,レギュラー群(N = 11)および非レギュラー群(N = 11)に分けて,同一のオーガナイズで攻撃方向を伴うボールポゼッションを行わせた.ポゼッションのオーガナイズは,縦12m 横24m のコート内で4 対4 を行い,両端の短辺に2 人,コート内に1 人のフリーマンを配置した.テクニカルプレー(コントロールミス,パス本数,パッキングレート)は,記述分析で定量した.選手の位置は,ローカルポジショニングシステムによって記録された.選手の位置から攻撃および守備チームの面積を算出した.パッキングレートは,レギュラー群のほうが非レギュラー群よりも高かった.パス本数は,レギュラー群のほうが非レギュラー群よりも多い傾向であった.競技水準に関わらず,攻撃時の面積は守備時の面積よりも広かった.攻撃時の面積は,非レギュラー群よりもレギュラー群のほうが大きく,守備時の面積は,レギュラー群のほうが非レギュラー群よりも小さかった.本研究の結果は,攻撃方向を伴うボールポゼッションを同一のオーガナイズで実施した場合,レギュラー群のほうが非レギュラー群よりもパッキングレートが高く,それは攻撃時にボールを受けるための位置による違いである可能性が示唆された.
著者
甲斐 智大
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Series A (ISSN:18834388)
巻号頁・発行日
vol.93, no.2, pp.61-84, 2020-03-01 (Released:2023-02-19)
参考文献数
33
被引用文献数
5

本稿では多様化する認可保育所の設置主体間の保育士確保戦略について考察することで,保育サービス供給に関わる規制緩和が保育サービス供給の偏在にいかに影響しているのかを明らかにした.東京都内において古くから保育サービスを提供してきた社会福祉法人は,制度的に公的機関から優遇を受けており,養成校や地域との結びつきの中で,優先的に保育士を確保することができていた.一方,規制緩和によって新規参入が認められた株式会社法人は,保育士採用に関する養成校とのネットワークから排除されているため,採用コストをかけ,地方からも保育士を採用することで施設を増設させていた.このことは,地方出身保育士などによって保育サービスの拡充が図られていることを示している.こうした保育労働市場の構造はニーズに合わせた新規施設の立地を阻害する側面を有しており,単一の制度の中でのサービス供給を可能とすることが望まれる.
著者
甲斐 智大
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.149-171, 2021-09-30 (Released:2022-09-30)
参考文献数
45
被引用文献数
1

本稿では,求人票に記載された新卒保育士の待遇と地方養成校出身の新卒保育士の就職動向を分析し,保育士養成校のもつ,保育労働力供給源としての役割について考察した.     これまで各保育所は自宅からの通勤を前提として新卒保育士を募集してきた.東京圏を中心に保育ニーズが拡大するなかで,東京圏の法人は保育士の待遇を改善し,地方圏へと採用エリアを拡大させた.その結果,宮城県では東京圏への労働力の流出が顕在化し,それに歯止めをかけるべく宮城県での保育士に対する待遇は向上し,宮城県の保育士の就職先の選択肢は拡大した.他方,青森県へも東京圏法人の参入がみられるものの,自治体の財政難を背景に青森県では保育士の待遇改善が難しい状況におかれている.そのため,青森県の保育労働市場はインフォーマルな調整によって下支えされており,相対的に待遇の良い東京圏への保育労働力の流出が増加している.その結果,地元で安定して働ける職業として認識されてきた保育士として学生を就職させることを一つの魅力と位置付けて,学生募集をしてきた青森県の保育士養成校への入学者は減少傾向にある.     このように,近年,東北地方の養成校は,保育士が不足する東京圏にも保育士を供給する機能を有しつつある.この機能は縁辺地域でより拡大しており,結果的に地方の保育士養成校の保育士供給機能の低下が懸念されていることが明らかとなった.