- 著者
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久保 秀一
畠中 泰彦
松井 知之
長谷 斉
村田 博昭
久保 俊一
- 出版者
- 公益社団法人日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
- 巻号頁・発行日
- vol.2004, pp.C0018, 2005
【目的】大腿軟部腫瘍患者の腫瘍摘出術後の歩行能力は、前面であれば大腿四頭筋の有無、後面であれば坐骨神経の温存状態により大きく左右される。歩容では四頭筋部分切除患者は立脚期に困難を示し一見し異常に気づくがハムストリングスのみ切除した患者の場合正常歩行と見分けがつかない。しかし、「歩けるが走れない」と言った訴えを聞く。<BR>そこで、われわれは「走れない」ことに着目し、ハムストリングスを切除した患者の自由歩行,早歩き,ジョグにおいてハムストリングス切除が下肢に与える影響について検討した。<BR>【対象】対象は左半腱様筋,半膜様筋,大腿二頭筋を切除した左大腿部軟部腫瘍の男性1名(51歳、身長168cm、体重61kg)。坐骨神経は温存。術後左膝関節の可動域に制限はなく、ハムストリングスの筋力はMMT4レベルであった。術後1.5ヶ月時の化学療法施行中に測定した。<BR>【方法】両肩峰,大転子,膝関節裂隙,足関節外果,第5中足骨頭に赤外線反射マーカーを貼った被験者に床反力計(kistler社:9281B1)を2枚設置した7mの歩行路を自由歩行、早歩き、ジョグを行わせ、三次元動作解析装置(BTS社:ELITE Plus)にて撮影し、十分な練習後、測定した。<BR>この時の床反力データおよび空間座標データを生体力学常数とともに臨床歩行分析研究会の提唱する数学モデル,力学モデルに代入し下肢関節角度,関節モーメント、関節パワーを計算し床反力データと供に比較検討した。<BR>【結果】健側と患側を比較すると、床反力垂直成分に明らかな差異を認めなかった。関節角度変化は若干の変動を認めるが、肉眼では跛行を感じなかった。遊脚後期の膝関節屈曲モーメント極値(Nm)は歩行-早歩き-ジョグと速度が速まるにつれ,患側:3.7,5.3,9.1、健側:11.5,20.7,27.8と各々増加するが患側のジョグ時は健側自由歩行時よりも少なかった。また、遊脚後期の膝関節パワー極値(Watt)では、患側:-17.2,-24.5,-41.8、健側:-56.2,-115.4,-137.4と関節モーメントと同様に患側のジョグ時は健側の歩行時よりも少ない結果となった。<BR>【考察】患側健側ともに通常歩行よりも早歩き、ジョグへと歩行速度の増加に伴いハムストリングスの活動も大きくなった。また、その歩容は見かけではどちらが患側か判別できない状態であったが、患側ではモーメント、パワーともに著明に少なくハムストリングス切除の影響の反映と考えた。歩行中のハムストリングスの活動は関節モーメントから大よその見当がつくが関節パワーを求めた事により、膝関節屈筋として遠心性収縮による仕事が明確になった。ハムストリングス切除の影響は遊脚後期の下腿の制動すなわちターミナルインパクトの回避が最も困難であり、走行出来ない理由であると考えた。