著者
白井 睦訓
出版者
山口大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

細胞内寄生性細菌である肺炎クラミジア(我々が同菌日本株の全ゲノムを初めて解読し、種々のユニークな機能を解明)は、肺炎の主要原因菌で動脈硬化病変部にその感染がほぼ100%検出される。クラミジアは約3日間の生活環で動物細胞内で、封入体を形成した後、細胞外へ放出されることから、その生活環とアポトーシスとの関係も解明が期待される。また、同菌は感染細胞内で封入体膜を形成して、数日のlife cycleを経て増殖し細胞外に放出されるが、これまでに我々はアポトーシス制御因子Apaf-1欠失細胞ではクラミジア増殖が高度促進されており、この封入体膜タンパクの1つIncA2(カスパーゼをリクルートするドメインCARDを持つ)がcaspase-9の活性を増強したり、ミトコンドリアタンパクとの相互作用により宿主細胞アポトーシスを制御して菌の増殖を制御していることを発見している。21年度では封入体膜タンパクIncA2がApaf-1やcaspase-9などからなる宿主アポトゾームをいかなる機構により制御されていることがわかった。すなわちApaf-I欠失細胞で肺炎クラミジア感染増幅、caspase9欠失で感染低下があり、caspase9阻害剤による肺炎クラミジア増殖抑制機序の解明ができた。また、クラミジア封入体膜・IncA2と宿主アポトソームの相互作用も確認できた。22年度はさらにApaf-1のクラミジア感染抑制に機能するドメインの同定を試みたが、とくに特定の部位としてクラミジアに特異的に作用するものではなく、Apaf-1のもつカスパーゼ活性化の制御によるアポトーシスの制御によってクラミジアの増殖が影響されることが解明された。またクラミジア封入体内にcaspase9の存在が形態的にとらえることができ、クラミジアが増殖にcaspase9を利用しているか、細胞質内のcaspase9を減少させてアポトーシスを制御することがクラミジアの増殖に関係していることが示唆された。caspase3やcaspase8の変化は2時的なものでクラミジアの増殖に直接的に関与するものでないことも示された。
著者
宮﨑 照雄 佐々木 誠一 豊田 淳 白井 睦 池上 正 本多 彰
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.19-22, 2019 (Released:2020-09-20)

タウリン生合成能がないネコでは、タウリン枯渇食の供与により生体中のタウリンが欠乏状態に陥る。タウリンの欠乏により、タウリンの胆汁酸抱合率が顕著に減少する。さらに、胆汁中の胆汁酸濃度の有意な減少と胆汁酸組成の変化が生じる。そこで、タウリンの欠乏が、肝臓における胆汁酸合成過程に及ぼす影響について、胆汁酸合成経路の中間代謝物である酸化ステロールの変化について検討した。その結果、タウリン欠乏ネコの肝臓において、胆汁酸合成経路のClassic pathway の酸化ステロールの有意な増加とAlternative pathway の酸化ステロールの有意な減少が確認された。タウリン欠乏による胆汁酸組成の変化は、胆汁酸合成経路で異なる中間代謝物の変化に伴っており、タウリンが胆汁酸合成系の代謝に関与する可能性が示唆された。
著者
白井 睦訓 三浦 公志郎 東 慶直
出版者
山口大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

肺炎クラミジアの冠状動脈硬化部における感染状況を調べたところ、軽度、高度狭心症計50人の冠動脈硬化部の平滑筋細胞組織の100%で動脈壁平滑筋細胞に肺炎クラミジアの高密度感染を検出し、局所炎症の惹起に関与していた。肺炎クラミジアの約100遺伝子は真核生物の遺伝子に類似する。これら主要な病原因子と相互作用するヒト大動脈遺伝子を2ハイブリッド法を用いてcDNAライブラリーから検出した。肺炎クラミジアset遺伝子(ヒトクロマチン関連因子ホモローグ)やmpg1遺伝子は肺炎クラミジア自身か宿主のクロマチン構造に関連すると考えられ、ある種の細胞外マトリックス蛋白質(大動脈壁平滑筋層で弾性を制御している細胞外マトリックスタンパクファミリーフィブリンのEGF様Ca結合ドメイが相互作用ドメインであった)との相互作用が同定された(クラミジア感染患部で、大動脈弾性繊維の断裂病変形成に関与?)。この肺炎クラミジアのキネシン/ミオシン類似因子であるKhc蛋白質や封入体膜構成蛋白質であるIncA2をベイトにすると、それぞれミトコンドリア膜に局在する蛋白質ATP6,NADH dehydrogenaseとamine oxidaseが同定された(大動脈平滑筋細胞の増殖や脱分化制御に関与?)。この封入体膜遺伝子をHeLa細胞に導入・発現させたところ、発現タンパク質の局在はミトコンドリアに一致しており同膜電位を変化させて透過性に関与することがわかった。同遺伝子導入細胞はアポトーシスを起こしやすいことを解明した。これら相互作用因子の結合ドメインも解明した。それらの相互作用による宿主細胞変化をさらに解析中である。その他約80の全く新しい肺炎クラミジア菌?宿主間タンパク相互作用を検出している。50種程度の薬物スクリーニングの結果、アスピリンなど数種の薬物が肺炎クラミジア感染排除に働くことも判明した。肺炎クラミジア近縁種のクラミジア・フェリスの全ゲノム構造を決定したので両菌遺伝子の比較解析により動脈硬化関連因子探索の手がかりとなることが期待される。ヒト正常大動脈由来平滑筋細胞とHEp2細胞(対照)それぞれに肺炎クラミジア、クラミジア・フェリス菌を感染させて、ヒト3万遺伝子発現をマイクロアレイ解析して動脈硬化・心筋梗塞関連遺伝子データベースと比較することにより、肺炎クラミジア感染大動脈由来平滑筋にユニークな動脈硬化症関連遺伝子16コと新たな動脈硬化関連候補遺伝子合計224個を検出した)。
著者
白井 睦訓 三浦 公志郎
出版者
山口大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2003

アモキシリン(AMOX)耐性ピロリ菌の耐性機構を世界ではじめて詳細に解明できた。すなわち、アモキシリンをアビジンラベルして菌体成分中のアモキシリンと結合する分子を同定した結果、そのアモキシリン耐性は、アミノ酸変異を起こしたペニシリン結合タンパク1(PBP1)によって引き起されるごとが分かった。世界でAMOX耐性ピロリ菌の分離は極めて少数で、日本全国をネットする大学病院と主要病院に呼びかけ40以上の施設の協力を得てAMOX耐性ピロリ菌研究のコンソーシアムを組織した結果、全国から数十の耐性株候補が山口大学に集積された。我々はこれらの菌株のAMOX最小増殖阻止濃度(MIC)などの薬剤耐性検定やペニシリン結合蛋白群のうち既に解明している耐性原因遺伝子でAMOX親和結合の主体であるPBP1遺伝子の塩基配列全長を解読して、耐性特異的変異アミノ酸を確定し、さらに同耐性遺伝子を感受性株に導入後耐性への形質転換を確認した。その結果、これまで少数の耐性株の解析に基づいて判明していた変異箇所をより限定化でき、PCR配列解析と感受性株の耐性転換による耐性診断率の上昇、診断の簡便化と迅速化に対応できる成果につながった。開発した診断法の対象患者は背景に示したように膨大である。我々は既にこの診断対象となる遺伝子配列とそれを利用した診断法の考案の特許を出願中で、優位性は確保されている。この耐性診断方法に関連した製品は皆無で、本成果は新製品や新技術に直結し、商品化された場合の優位性は極めて高い。既出の特許内容を追加し、協力企業と商品化を検討中である。また、耐性遺伝子産物を利用した治療薬の合成とスクリーニングも実施し、薬剤耐性菌に感受性のアモキシリン誘導体も数種類探索し得た。