著者
伊藤 崇志
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.9-11, 2015 (Released:2019-09-20)

我々のグループは主に心臓や骨格筋におけるタウリンの病態生理学的意義を解析する目的でタウリントランスポーター欠損マウスを作製し、解析を行ってきた。その中で、組織タウリン合成能が極めて低い心臓及び骨格筋において組織タウリンの欠乏に伴い機能的及び形態的異常を見出した。また、近年、このマウスが加齢依存的な組織異常を呈し、さらに、寿命が短くなることを見出した。このことから、組織タウリンが寿命と関連する可能性があると考えている。
著者
村上 茂
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.34-36, 2016 (Released:2019-11-11)

さまざまな動物モデルを用いて、タウリンの抗肥 満作用が明らかにされてきた。タウリンの抗肥満作 用には、脂質代謝改善作用、抗炎症作用、ミトコン ドリアの機能維持作用、中枢作用などが関係してい ると考えられる。健常な小型の脂肪細胞はタウリン 合成活性が高いが、肥満動物の肥大した脂肪細胞で はタウリン合成能が低下し、これに伴い血中タウリ ン量も減少することが知られており、タウリン欠乏 と肥満の関連も示唆されている。一方、ヒトにおけ るタウリンの抗肥満作用は研究例が少なく作用も 明確ではない。
著者
薩 秀夫 清水 誠
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.39-41, 2015 (Released:2019-10-01)

筆者らのグループでは、腸管とタウリンの相互作用について研究を進めてきた。腸管上皮モデル細胞を用いて、腸管上皮におけるタウリンの吸収に関わるタウリントランスポーター(TAUT; SLC6A6)の特性ならびに各種要因によるTAUT 制御・調節について明らかにしてきた。またタウリンが腸管上皮モデル細胞と活性化マクロファージモデル細胞を用いたin vitro 炎症モデル系において抗炎症作用を示すことが見出され、実際にデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導大腸炎モデルマウスを用いたin vivo モデル系においてもタウリンは大腸炎を軽減することを明らかにした。これよりタウリンは、腸管においてTAUT を介して吸収されるとともに大腸炎を改善することが示唆された。
著者
伊藤 崇志
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.28, 2021 (Released:2022-09-04)

2020年初めより新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界中で蔓延し、現在、抗ウイルス薬や重症化を抑える治療薬の開発が急務である。タウリンクロラミンは免疫細胞により産生されるタウリン誘導体であるが、広域な抗菌、抗ウイルス作用があり、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2に対する殺傷作用も期待されている。また、タウリンクロラミンは免疫細胞の炎症性サイトカインの産生を抑制する作用があり、COVID-19の重症化を抑える効果が期待できる。
著者
小野 鮎子 川﨑 安都紗 武永 敬明 村上 茂
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.12-14, 2017 (Released:2019-11-11)

非アルコール性脂肪性肝疾患(Non-alcoholic fatty liver disease: NAFLD)モデルとして高脂肪食 負荷マウスを用い、タウリンの肝臓への脂肪蓄積に 対する作用を検討した。また、抗酸化作用に注目し、 タウリンの作用メカニズムを調べた。12 週間の高脂 肪食負荷により、肝機能の低下、肝臓への脂肪蓄積 と酸化ストレスの増加が見られたが、これらの変化 はタウリンの 12 週間混餌投与により改善された。 タウリンは NAFLD抑制作用を有し、抑制メカニズ ムの 1つとして抗酸化作用の関与が示唆される。
著者
八田 秀雄 高橋 祐美子
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.37-39, 2016 (Released:2019-11-11)

タウリンが持久的運動後のエネルギー代謝に与 える影響を検討した。マウスに 25m/min の速度で 90 分のトレッドミル走行を行わせ、運動直後にタ ウリンを与えた条件で自由運動を行わせたところ、 回復 3 時間までの総自由運動量がタウリン投与群 で水投与群より有意に高かった。そこでタウリンが 持久的トレーニング運動後の代謝に対して影響を 与え、疲労回復を促進する可能性が高いことがわか った。これを受けて同じ 90 分間の持久的運動後に タウリンを与えて安静を保ち、回復期に筋など組織 を採取して検討した。その結果、回復 2時間におけ る前脛骨筋のグリコーゲン濃度がタウリン群が対 照群よりも有意に高かった。また運動後にグルコー スを与えた条件で回復 1 時間の血中グルコース濃 度の低下がタウリン群で有意に早かった。さらに同 条件での回復 2 時間の前脛骨筋中基質濃度につい てメタボローム解析を行った結果、解糖系の律速段 階の1つであるホスホフルクトキナーゼ以降の中 間基質がタウリンで有意に低かった。したがって持 久的運動後のタウリン投与で筋グリコーゲンの再 合成が促進されることがわかった。そしてこのこと にはタウリンによって糖取り込みの促進や糖分解 の低下が起きていることが関係していることが示 唆された。
著者
浅野 敦之 牛山 愛
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-15, 2020 (Released:2021-09-20)

精子や卵子は制限時間内に様々な体内環境を通過し受精や発生を完了しなければならない。この間、あらゆる変化はストレスに変換され細胞に襲いかかる。これに対し、転写翻訳機能を欠く精子は、自己に予め組まれた機能あるいは細胞外因子を防御機構に利用する。 タウリンは雌雄の生殖器道内腔液に豊富に存在する主要アミノ酸であり、細胞内浸透圧調整、細胞内シグナリング、細胞膜安定化、細胞内カルシウムなど様々な機能があることは知られている。また古くから体外培養系に添加剤として用いることで受精発生機能の向上が認められるが、その分子メカニズムはよく分かっていない。本稿では生殖を中心にタウ リンの機能的役割を紹介する。
著者
宮﨑 照雄
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.33-35, 2015 (Released:2019-10-01)

空腹時や持久性運動時では、肝臓の脂質代謝が亢進し、肝臓にて酢酸が生成され、骨格筋等でエネルギー産生に利用される。近年、アルコール代謝にて生じる酢酸により、タウリンがアセチル化され、N-acetyltaurine(NAT)として尿へ排泄される事が明らかとなった。そのため、持久性運動時でも同様に、NATが生成され、尿へ排泄される事が推測される。フルマラソンや持久走による検討の結果、持久性運動により血中NAT濃度が上昇した。上昇したNATの血清濃度は、運動1日後までに元の値に回復しており、運動後にNATが尿へ排泄されるためである事が確認された。培養細胞の検討により、NATは、細胞外から取り込まれた酢酸がタウリンをアセチル化して排泄する事が確認され、運動中のエネルギー消費の中心的組織である骨格筋でもNATを生成する可能性が示唆された。持久性運動中には、脂質代謝が亢進し、酢酸(アセチル基)が過剰に生じる。タウリンは、この運動中に過剰に生じた酢酸からNATを生成し、速やかに酢酸を体外へ(尿)排泄させる役割を果たしている事が考えられる。
著者
羅 成圭 崔 英珠 赤澤 暢彦 大森 肇 前田 清司
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.40-42, 2016 (Released:2019-11-11)

本稿では、健常者における経口タウリン摂取が血 管内皮機能に及ぼす効果を、安静時および運動時に 分けて概説する。我々はまず、2週間の経口タウリ ン摂取(6 g/day)は、健常者の血管内皮機能を僅か ながら、有意に向上させることが初めて見出した。 次に、運動誘発性血管内皮機能の低下に対するタウ リン摂取の効果を検証したものの、2週間のタウリ ン摂取(6 g/day)では高強度レジスタンス運動によ る血管内皮機能の低下を抑制できないことが明ら かになった。本稿で示すこれらの結果は、少なくと も安静時においては、健常者においてもタウリン製 剤、もしくはタウリンを多く含む魚介類や海藻類の 摂取は血管内皮機能を良好に保つために有効であ ることを示していると考える。
著者
松岡 慶弥 川ノ口 潤 長岡 伸征 有馬 寧
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.26, 2021 (Released:2022-09-04)

高血圧をはじめとする生活習慣病は現代社会において大きな問題となっている。厚生労働省が発表した2019年の我が国における死因では、心血管疾患や脳血管疾患の占める割合は20%を超えている1。近年、このような動脈硬化病変を含む循環器疾患や血管機能に対して、タウリンが多彩な作用を示すことが明らかになっている。 ヒトの生体内に豊富に存在する遊離アミノ酸であるタウリン(2-アミノメチルスルホン酸)は魚介類に多く含まれており、摂取したタウリンはタウリントランスポーターにより細胞外から細胞内に取り込まれる2。生体内におけるタウリンの作用は多岐にわたるが、近年の研究では抗癌作用や抗癌剤の副作用も明らかになってきている3,4。 本稿では、先行研究による文献的調査をもとに、現時点でわかっている血管機能に対するタウリンの影響についてまとめたので報告する。
著者
石倉 恵介
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.32, 2021 (Released:2022-09-04)

骨格筋のグリコーゲン量には限りがあることから、長時間運動中の脂質代謝への割合を高める戦略は有効である。タウリンは、身体活動に不可欠であり、タウリン投与によって運動パフォーマンスを向上させる可能性が指摘されている。ヒトへのタウリン投与は、慢性投与より一過性の投与によって長時間運動中の脂質代謝を高める報告がある。直前のタウリン投与による、高い血漿タウリン濃度が重要であるかもしれない。
著者
竹内 俊郎
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.25-27, 2015 (Released:2019-10-01)

海水魚は淡水魚とは異なり、システインスルフィン 酸脱炭酸酵素(CSD)活性が弱く、メチオニンからタ ウリンを合成する能力が劣ることから、飼料へのタウ リン添加が必須である。飼料中にタウリンが少ないと ヒラメでは摂餌行動に異常がみられ、マダイでは体色 が黒ずんでしまう。また、これまで海水魚はカゼイン などの精製飼料では成長や飼料効率が劣り、飼育でき ないとされてきたが、飼料中にタウリンを添加するこ とにより、優れた成長を示し、精製飼料にタウリンを 添加する必要があることが明らかになった。
著者
宮﨑 照雄 佐々木 誠一 豊田 淳 白井 睦 池上 正 本多 彰
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.19-22, 2019 (Released:2020-09-20)

タウリン生合成能がないネコでは、タウリン枯渇食の供与により生体中のタウリンが欠乏状態に陥る。タウリンの欠乏により、タウリンの胆汁酸抱合率が顕著に減少する。さらに、胆汁中の胆汁酸濃度の有意な減少と胆汁酸組成の変化が生じる。そこで、タウリンの欠乏が、肝臓における胆汁酸合成過程に及ぼす影響について、胆汁酸合成経路の中間代謝物である酸化ステロールの変化について検討した。その結果、タウリン欠乏ネコの肝臓において、胆汁酸合成経路のClassic pathway の酸化ステロールの有意な増加とAlternative pathway の酸化ステロールの有意な減少が確認された。タウリン欠乏による胆汁酸組成の変化は、胆汁酸合成経路で異なる中間代謝物の変化に伴っており、タウリンが胆汁酸合成系の代謝に関与する可能性が示唆された。
著者
砂田 芳秀 大澤 裕 太田 成男
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.8-10, 2019 (Released:2020-09-20)

MELAS は繰り返す脳卒中様発作を特徴とするミトコンドリア病であり、tRNALeu(UUR)をコードするミトコンドリアDNA の3243A>G 変異に起因する。この変異によりtRNALeu(UUR)の1 番目のアンチコドンクレオチドのタウリン化学修飾が欠損し、コドン認識障害が惹起される。われわれは、タウリン高用量投与でMELAS モデル細胞のミトコンドリア機能障害が改善し、2 例のMELAS 患者で脳卒中様発作が9 年以上完全抑制されることを報告した。これを基に、タウリンによるMELAS 脳卒中様発作の再発抑制効果を検証するため多施設共同・オープン・第Ⅲ相医師主導治験を実施した。1 年間のタウリン投与により10 例中6 例で、脳卒中様発作再発が完全抑制され、100%レスポンダー率は60%であった。また80%の患者では脳卒中様発作の頻度が50%以下に減少した。末梢血白血球のミトコンドリアtRNALeu(UUR)タウリン修飾率は測定した9 例中5 例で有意に増加した。タウリン大量投与は、MELAS 患者のミトコンドリアtRNALeu(UUR)タウリン修飾欠損を修復し、脳卒中様発作再発を抑制する。
著者
山下 剛範 加藤 俊宏 磯貝 珠美 具 然和 馬 寧
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.4, no.1, pp.32-34, 2018 (Released:2019-11-11)

がん治療や原発事故は放射線被ばくの危険につな がる。電離放射線への曝露は照射された細胞で ROS とフリーラジカルを生成し、フリーラジカル生成は 酸化的ストレスにつながる。電離放射線への曝露は、 放射線誘発細胞傷害を引き起こす可能性がある。放 射線誘発細胞傷害の原因は、サイトカインと ROS に関連した炎症過程が関与しているとの報告がある。 タウリンは、抗酸化活性、抗炎症活性および細胞 内カルシウムレベルの調節を含む、いくつかの重要 な生理学的機能を有する硫黄含有有機酸である。タ ウリンは、放射線防護剤および放射線緩和剤として 使用するための魅力的な候補であるように思われる が、現時点では放射線誘発細胞傷害をどのように保 護するかは知られていない。 今回は、放射線による細胞傷害とタウリンの放射 線防護効果および放射線緩和効果について我々自身 の知見を含めて説明する。
著者
福野 修平 長井 克仁 小西 廣己
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.15-17, 2017

我々のグループは主に抗がん剤で誘発される副作 用の軽減に関する研究を行ってきた。その中で、ア ントラサイクリン系の抗腫瘍性抗生物質であるドキ ソルビシン (DOX) による急性肝障害は、タウリン を併用することにより軽減されることを見出した。 また、タウリンによる肝保護効果には酸化的ストレ スおよびアポトーシスの抑制が関与している可能性 を示した。
著者
笠岡(坪山) 宜代
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.47-49, 2015 (Released:2019-10-01)

我々は、近年の日本における肥満・生活習慣病増加の解決策を見いだす事を目的として、魚介類に含まれる栄養素であるタウリンと肥満・生活習慣病発症の関連を検討してきた。生体内でのタウリン合成系の律速酵素であるシステインジオキシゲナーゼ(cysteine dioxygenase, CDO)の遺伝子5’転写調節領域には、脂肪細胞の分化に関わる転写因子のコンセンサス配列が存在することを見出した。また、マウスの脂肪組織ではCDO mRNAが高レベルで発現していること、脂肪細胞にCDO を強制発現させると培養液中のタウリン量が増加する事を示した。さらに、肥満動物では脂肪組織のCDO mRNAが減少し、タウリン不足状態であり、食事にタウリンを添加すると肥満発症が抑制され、基礎代謝が増加、脂肪組織での脂肪の分解に関わる遺伝子発現が増加している事を見出した。このことから、脂肪組織でもタウリンが合成される事、脂肪組織に脂肪が蓄積しすぎるとタウリン合成が低下してタウリン不足の状態になり、タウリンが持つ脂肪燃焼作用が発揮出来ずに肥満が更に加速するという悪循環が生じる可能性があると考えている。
著者
豊田 淳 後藤 達彦 友永 省三
出版者
国際タウリン研究会
雑誌
タウリンリサーチ (ISSN:21896232)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.42-44, 2017 (Released:2019-11-11)

日本はストレス社会であり、うつ病患者数が増加 傾向にあるが、抗うつ薬の開発は苦戦していると言 われる。私共は食によるうつ病予防法を確立するた め、うつ病の栄養および代謝特性の解明を目指して おり、うつ病モデルである慢性社会的敗北モデルを 用いて研究している。本研究では、社会的敗北モデ ルマウスやラットのメタボローム解析を中心に行っ た。その結果、社会的敗北ストレスはタウリン代謝 に影響する可能性が示唆された。そこでラットへタ ウリンを 4 週間投与したところ、海馬の MAP キナ ーゼなどのリン酸化シグナルが影響を受け、行動実 験では抗うつ作用が認められた。よって、本研究に より、うつ病発症とタウリンの関係が推察された。