著者
阿部 晶子 稲葉 大輔 岸 光男 相澤 文恵 米満 正美
出版者
岩手医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

う蝕原性細菌であるミュータンスレンサ球菌は生後19か月から31か月の間に主な養育者が母親である場合、母親を由来として児に定着すると報告されている。しかしながら,我が国における定着時期についての調査は少ない。そこで我々は岩手県平泉町において生後3か月時点から,児のミュータンスレンサ球菌の検出,母親の唾液中ミュータンスレンサ球菌数,齲蝕の発生および育児習慣について追跡調査を行い,これらの関連について検討中である。今回は、2歳6か月時にう蝕の認められた児と、う蝕の認められなかった児について1歳時、1歳6か月時、2歳6か月時の各時期における育児状況のアンケート結果およびミュータンスレンサ球菌の検出状況、母親の唾液中ミュータンスレンサ球菌数との関連について比較検討を行った。その結果、2歳6か月児のう蝕有病者率は21.1%、一人平均df歯数は0.93本であった。2歳6か月時におけるう蝕発症の関連要因を知る目的で、2歳6か月時のう蝕の有無を目的変数としてロジスティック回帰分析を行った結果、1歳時における哺乳瓶による含糖飲料の摂取,大人との食器の共有,2歳6か月時における毎日の仕上げ磨きの有無、1歳時および1歳6か月時におけるミュータンスレンサ球菌の検出状況が有意な関連要因であった。また、ミュータンスレンサ球菌の検出時期と2歳6か月時におけるう蝕発症との関連をみてみると、1歳時からミュータンスレンサ球菌が検出された児は、2歳6か月時に初めてミュータンスレンサ球菌が検出された児に比較して有意に高いう蝕発症率を示した。今回の調査結果から、児の口腔内のシュクロースの存在がミュータンスレンサ球菌の早期定着を促し、その早朝定着がう蝕発症要因の一つであることが示唆された。
著者
相澤 文恵 岸 光男 森谷 俊樹 南 健太郎 米満 正美
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.53, no.5, pp.535-543, 2003-10-30
被引用文献数
6

自己の口臭に対する主観的評価と客観的口臭レベルの関連性を分析するため,2000年5月,宮城県の高校生106名を対象として,口臭に関する質問紙調査を実施した.また,学校歯科健診時にイラストを用いた歯肉炎症程度の生徒自身による評価,揮発性硫化物(VSC)測定機器ハリメーター^[○!R]による口臭の測定,舌苔スコアによる舌苔付着の評価を実施した.本調査の結果,口臭の主観的評価は口腔関連の自覚症状の認識頻度と関連し,口臭の客観的評価であるVSC値とは関連しないことが示された.また,自己の口腔に対して高い関心をもつ人ほど自己の口腔内状態に対する評価が厳しく,口臭の主観的評価も厳しい傾向にあることが示された.さらに,口臭がないにもかかわらず口臭に対する主観的評価が高い人は,自己の口腔状態に敏感であり,ストレスを強く感じる傾向が認められた.これらのことから,口臭を過度に意識する状態は,もともと自己の口腔内状況に対する評価が厳しい傾向にある人が,日常生活におけるさまざまな出来事をストレスと感じるようになった場合に成立する可能性があることが示唆された.
著者
相澤 文恵 岸 光男 南 健太郎 米満 正美
出版者
有限責任中間法人日本口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.189-197, 2000-04-30
被引用文献数
7

1997年5月,宮城県内の某高等学校の生徒529名を対象に口臭,歯科保健行動,一般的保健行動,口腔関連の自覚症状に関する質問紙調査を実施し,口臭が心配になる頻度と状況にかかわる要因を分析した。自分の口臭が心配になることが「よくある人」は全体の11.4%おり,男女間に有意差は認められなかった。また,自分の口臭が気になる状況は「対話中」カ1最も多かった(46.7%)。さらに,対語中に自分および他人の口臭が気になるのは男子より女子に多く,女子のほうが口臭を強く意識する傾向にあることが示された。また,対話中に自分の口臭が心配になる人は,歯や歯ぐきの痛みや口腔内の乾燥感など,口腔関連の自覚症状を強く感じていることが示された。このことを男女別に分析した結果,男子では関連が認められるのに対して,女子では認められなかった。このことから,女子生徒においては口臭への意識と他の口腔状態の自覚とは独立している可能性が強いと考えられた。一方,口臭に対する意識と口腔診査の結果との関連を無作為に抽出した125名について分析した結果,口臭に対する心配が頻繁にある人のPMAおよびDTは,ときどきある人のものに比べて有意に低いことが示された。以上のことから,この年代においては口臭に対する心配には性差があり,口腔に対する関心度が高い人ほど口臭に対する心配が強い傾向にあると考えられた。したがって,口腔に対する過度の関心が自臭症のリスク要因の1つではないかと考えられた。