著者
眞鍋 康子
出版者
公益社団法人 日本薬学会
雑誌
YAKUGAKU ZASSHI (ISSN:00316903)
巻号頁・発行日
vol.138, no.10, pp.1285-1290, 2018-10-01 (Released:2018-10-01)
参考文献数
41

Exercise is generally considered to have health benefits for the body, although its beneficial mechanisms have not been fully elucidated. Recent progressive research suggests that myokines, bioactive substances secreted from skeletal muscle, play an important role in mediating the benefits of exercise. There are three types of myokines in terms of the muscular secretion mechanism: those in which the secretion is promoted by stimulation, such as irisin, interleukin (IL)-6, and IL-15; those whose secretion is constitutive, such as thioredoxin, glutaredoxin, and peroxiredoxin; and those whose secretion is suppressed by stimulation, such as by a macrophage migration inhibitory factor. Although dozens of myokines have been reported, their physiological roles are not well understood. Therefore, there currently exists no advanced drug discovery research specifically targeting myokines, with the exception of Myostatin. Myostatin was discovered as a negative regulator of muscle growth. Myostatin is secreted from muscle cells as a myokine; it signals via an activin type IIB receptor in an autocrine manner, and regulates gene expressions involved in myogenesis. Given the studies to date that have been conducted on the utilization of myostatin inhibitors for the treatment of muscle weakness, including cachexia and sarcopenia, other myokines may also be new potential drug targets.
著者
眞鍋 康子
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.535-541, 2017-06-15

はじめに 運動が健康をもたらすことは疑いようのない事実である.世界保健機関が発表した死に至るリスクのなかで,運動せず不活動でいることは,主な死因の4番目に挙げられており(表1),運動が健康促進効果を有することは,さまざまな疫学研究からも明らかにされている. 一般に運動の健康効果は,「運動することで体脂肪が減少し,脂肪細胞から炎症性サイトカインの分泌が減少し,体内で起きている慢性的な炎症が改善することでもたらされる」という説明がされており,運動による健康増進効果は,脂肪が減少したことによる副次的なものとして捉えられている.しかし,運動は脂肪の減少以外に,より積極的な健康効果を有していることも示されている. これまでほとんど運動をしなかったヒトが,毎日20分ほどの運動をすることで,肥満の指標として知られているボディーマス指数(Body Mass Index:BMI)が高くても,死亡に対するリスクが減少する1).つまり,運動は体重減少という目に見える変化を伴わなくとも,積極的に全身性に何らかの健康効果を有していると考えられる. 運動時に中心的役割を果たすのが骨格筋である.骨格筋は,これまで「運動するための器官(運動器)」として捉えられており,過去の骨格筋に関する研究のほとんどが,「運動器の機能」に関するものであった.しかし,最近では骨格筋が全身の代謝に積極的に関与する「代謝調節の器官」として認識されるようになってきた.最も有名なのは,骨格筋が全身の糖代謝に重要な役割を果たしている例である.運動がⅡ型糖尿病の予防や改善に効果があり,全身の糖代謝に関与していることは,複数の疫学調査や動物・ヒトを用いた実験により以前から知られていたが,運動による糖代謝改善のメカニズムについては,長年の間,明らかにされていなかった.それが明らかにされたのは1990年代にadenosin 5′-monophosphate-activated protein kinase(AMPK)が,細胞内エネルギーセンサーとして働き,その活性化が筋への糖取り込み促進の鍵となることが発見されたことによる2).運動(=骨格筋の収縮)により骨格筋細胞内エネルギーが低下すると筋細胞内のAMPKが活性化され,糖取り込みを促進する経路が活性化されることで骨格筋への糖取り込みが増加し,血糖値が低下する3).運動から血糖値低下に至る一連のメカニズムが明らかにされたことで,骨格筋が全身の糖代謝に関与する重要な代謝器官であるとの理解が深まった.また,運動による糖取り込みの経路は,インスリンによる経路とは異なっており,インスリン抵抗性の症状を有するⅡ型糖尿病患者であっても,運動は糖取り込みを促進させる.そのため,Ⅱ型糖尿病予備軍や糖尿病患者に,運動によって糖尿病を予防・改善しようとする「運動療法」の分野でも骨格筋が注目されている. 骨格筋の適切な量の維持が寿命と関連することも報告されている.デンマーク人を対象とした研究では,大腿の直径が大きいほど(大腿の太さ=筋肉量と考える),死亡に対するリスクが減少することが明らかにされている4).また,悪性腫瘍が進行すると筋が萎縮してしまう悪液質の症状を呈するが,実験的に腫瘍を移植したマウスに筋萎縮を抑制する薬剤を投与し続けると腫瘍は成長していくにもかかわらず,薬剤を投与しないマウスに比べ筋量が維持され寿命が有意に延長する5).これらの結果は,筋量の維持が寿命と何らかの関係があることを示している.最近になって,これら筋量の維持による健康効果が,骨格筋から分泌される生理活性因子によりもたらされているのではないかという研究が行われるようになってきた.骨格筋から分泌される生理活性因子は総称してマイオカイン(myokine;ミオカインと記載されているものもあるが,本稿ではマイオカインとする)と呼ばれている.マイオカインは,「骨格筋に発現し,分泌され,作用する蛋白質性のもの」として定義されているが6),最近では,アミノ酸の代謝産物などの低分子量のものもマイオカインとして作用するとの報告もあることから7),蛋白質性分子に限定されるものではないと思われる.これらのマイオカインは,さまざまな臓器とコミュニケーションをとりながら,生体の調節を行っていると考えられているが(図1),マイオカインの研究の歴史はまだ浅く,その全貌はいまだ明らかではない.本稿では,これまでに明らかになっているマイオカインの機能について概説する.
著者
眞鍋 康子 井上 菜穂子 高木 麻由美 藤井 宣晴
出版者
日本比較生理生化学会
雑誌
比較生理生化学 (ISSN:09163786)
巻号頁・発行日
vol.29, no.2, pp.70-75, 2012-04-30 (Released:2012-05-25)
参考文献数
46

AMPキナーゼは,真核生物において高度に保存されたセリン/スレオニンキナーゼである。キナーゼ活性が同定されたのは1970年代初期であるが,その生物学的重要性が認識され始めたのは最近になってからである。細胞内のエネルギー・レベルを感知して,低エネルギー環境に適応するための種々の調節を行う。生命活動のイベントの多くは,細胞レベルであっても個体レベルであっても,何らかの形でエネルギー代謝と関連している。そのため,AMPキナーゼが担う役割も単なるエネルギー・センサーに留まるものではなく,細胞の基本的活動(増殖・分化など)から疾患の生起にまでわたる。本稿では,AMPキナーゼの分子構造および機能を解説する。