著者
内山 茂 田中 栄爾 田中 千尋 黒木 秀一 川畑 喜照 盛口 満 金城 典子
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.18, 2006 (Released:2007-06-05)

1999年から2005年にかけて,宮崎県内及び鹿児島県内の数箇所で,森林生のエサキクチキゴキブリSalganea esakiiに生じた冬虫夏草(仮称ヒュウガゴキブリタケ)を採集して形態学的観察及び分子系統学的検討を行った. 本種の子実体は宿主の腹部から1-2本生じ、根棒状から太針状、長さ11-70mm、太さ1.3-5mm、全体が淡褐色から褐色.先端はやや尖り,ビロード状の不捻部となる.子のう殻は卵形、325-370×100-140μm、子実体の中間部では埋生し,明褐色の捻果部を形成する.子のうは,長さ150-200×10-11μm.子のう胞子は,細長い紡錘状,72-100×2.8-3.6μm, 8細胞,二次胞子に分裂しない。不稔部表面にHirsutella様のアナモルフを疎らに形成する。分生子はレンズ状,淡褐色,7-7.2×5μm.分生子形成細胞はペン先状,先端は細長く尖り,4-6×1-1.5μm,基部で折れ曲がる. 本種の子実体及び子のう胞子を発芽させて得られた培養株を用いて,rDNAのITS領域と26Sサブユニット D1/D2領域の塩基配列に基づく分子系統学的解析の結果,本種は独自のクラスターを形成した. ゴキブリ目昆虫を宿主とするCordeceps属菌としてはセイロン島(スリランカ)で採集された標本に基づいてPetchがCordyceps blattaeを1924年に報告している.両者は子のう胞子の形態から,共にOphiocordyceps亜属に属するが,本種はC.blattaeと比べると子実体,子のう殻,子のう,子のう胞子などの大きさが明らかに異なるため,新種とするのが妥当と考えている。
著者
河村 史紀 馬場崎 勝彦 山田 明義
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.160, 2006 (Released:2007-06-05)

外生菌根菌にはマツタケやホンシメジなどの優秀な食用菌が多く含まれている.これらの菌はこれまで菌根合成実験が多数報告されているが,子実体の発生まではほとんど調べられていない.また,菌根合成実験においては限られた植物-菌の組み合わせしか行われておらず,各菌種の菌根形成能をある一定の基準のもとに相対的に評価することは行われていない.本研究では,多様な外生菌根菌を用いて菌根形成能と菌根実生の順化に関する基礎データの蓄積を目的として実験を行った. 研究室保有の外生菌根菌41種64菌株,腐生菌10種11菌株を実験に供試した.宿主植物には無菌発芽させたアカマツ(Pinus densiflora)とユーカリ(Eucalyptus dives)を用いた.菌根合成実験は,セロファンを敷いた寒天培地上で行う簡易合成系と,バーミキュライトを支持体としてガラスビンで行う長期合成系を用いた.簡易合成系で75,90日,長期合成系で120日間培養(20-22°C, 5000lux)を行った.その後,アカマツの長期合成系で作出した菌根苗は有機層又は無機層土壌(共に滅菌土壌)を含む500mlガラスビンへ移植して順化を試み,上記と同様の条件で6ヶ月間培養した. アカマツの簡易菌根合成系において20種27菌株で菌根が形成され,長期合成系においては31種51菌株で菌根が確認された.長期菌根合成系では高頻度で菌根の形成が見られたが,採取植生がアカマツ林であるキアブラシメジ,ヤマドリタケモドキ,シラタマタケ,ケロウジ,アカハツなどでは菌根が形成されなかった.ユーカリの長期合成系においてアシナガヌメリ,ガンタケ,オオキツネタケなどで菌根が形成された.菌根苗順化実験では供試した31種51菌株のうち,28種48菌株において菌根の順化に成功した.土壌条件間での比較では,有機層で地上部の成長が良好で,無機層で地下部の成長が良好な傾向が認められた.
著者
折原 貴道 大藪 崇司 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.67, 2006 (Released:2007-06-05)

ユーカリ属Eucalyptus の多くはオーストラリア大陸原産であり、成長が早く、また乾燥や塩害等にも強いことから、世界中の多くの地域で植林が試みられている。近年では更にパルプ材としての利用や葉から抽出・精製したオイルの利用など、幅広い用途可能性を有する樹木として注目されている。ユーカリ属の樹種は外生菌根を形成することが知られており、オーストラリアやブラジルを初めとする多くの地域からその菌根菌相が報告されているが、日本におけるユーカリ外生菌根菌相ついては未解明な点が多い。本研究では、三重県亀山市の王子製紙森林資源研究所ユーカリ試験植林地において、植栽後8-9年が経過したE. globulus 植栽地に2箇所、及びE. camaldulensis 植栽地に1箇所の方形コドラート(10×10 m)を設置し、2004年7月より月1回の間隔で外生菌根菌の子実体発生状況の定点調査を行った。その結果、Laccaria fraterna, Scleroderma cepa, S. sp. 及びPisolithus sp. の計4種の子実体発生が現在までに確認された。また、子実体発生量及び種数は9月から12月にかけて多くなった一方、1月から8月にかけては常に少ない状態であった。主要な原産国であるオーストラリアでは約660種の外生菌根菌が確認されており(Bougher, 1995)、日本におけるユーカリ植栽地の外生菌根菌相の種多様性は著しく低いことが示唆された。本発表では、これら4種の子実体の形態的特徴及び発生状況の季節変動について考察するとともに、現時点までに演者らが観察した、オーストラリアのユーカリ林及び日本国内の他地域で採集された同種標本との比較も行い、日本におけるユーカリ外生菌根菌の種多様性と、ブナ科樹種の菌根菌相との共通性に関しても考察を行った。本研究の主旨に賛同し、試験植林地の利用を快く承諾してくださった、(株)王子製紙 森林資源研究所に心より御礼申し上げます。
著者
谷亀 高広 大和 政秀 鈴木 彰 岩瀬 剛二
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.175, 2006 (Released:2007-06-05)

ヒメノヤガラ (Chamaegastrodia sikokiana)は本州、四国、九州のモミ林や、カシ林に自生する無葉緑ラン科植物の1種である。本研究では、ヒメノヤガラの生活様式の解明と増殖・保全を目的とし、菌根菌の種同定とその性質について研究を行った。供試植物は千葉県天津小湊町清澄山(優占樹種 モミ)産の3株と、高知県越智町横倉山(優占樹種 アカガシ、スギ)産の1株とした。菌根菌の分離培養では、一般にラン型菌根菌の分離に使用されるCzapek・Dox+酵母エキス寒天培地ではコイル状菌糸からの菌糸の伸長が見られなかったことから、外生菌根菌培養用の培地として知られるMMN培地を用いた。その結果、計17系統の菌根菌が分離された。これらの培養菌株からCTAB法によりDNAを抽出し、rDNAのITS領域をPCRにより増幅し、得られた塩基配列をもとに相同性検索を行い、系統解析を行なった。その結果、分離菌株は担子菌類のCeratobasidiaceae、いわゆるRhizoctoniaと相同性があることが確認された。また、自生地の状況や分離菌株がMMN培地で生育したことから、これらの菌根菌が樹木に外生菌根を形成するのではないかと考えられた。そこで、得られた菌株の内、清澄山産の供試植物より分離された2系統について、同自生地における優占種のモミに対し、接種試験を行った。分離菌株を液体MMN培地で培養し、滅菌土壌で生育させたモミ苗の根元に埋設させたところ、1ヶ月後に外生菌根が形成された。さらに、形成された外生菌根から得られたDNAを解析したところ、接種した菌株であることが確認された。このことから、ヒメノヤガラは、樹木に外生菌根を形成するRhizoctonia属菌を菌根菌として生育することが明らかとなった。外生菌根を形成するRhizoctonia属菌と無葉緑ラン科植物との共生関係については、海外では数例が報告されているが、日本国内では初めての報告である。
著者
青池 蕗子 玉井 裕 宮本 敏澄 矢島 崇
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会50周年記念大会
巻号頁・発行日
pp.177, 2006 (Released:2007-06-05)

食用として栽培されているきのこを中心とする担子菌類のセンチュウに対する捕捉能力を調査した。シャーレ内の2.0%素寒天平板上にPDAを用いて培養した菌を接種し、インキュベートし、菌糸伸張を確認した後、センチュウを接種し、センチュウと菌糸の挙動を顕微鏡下で継続的に観察した。センチュウはシイタケほだ木からベールマン漏斗装置を用いて採取し培養したものを用いた。供試菌のヒラタケ(Pleurotus ostreatus)4菌株は全てセンチュウを捕捉したが、菌株による捕食能の差は顕著ではなかった。同じくPleurotus属であるウスヒラタケ(Pleurotus pulmonarius)1菌株もセンチュウ捕捉能を示した。この2種5菌株にセンチュウを接種した際には、24時間以内にほとんど全てのセンチュウが動かなくなり、その後、2_から_3日のうちにセンチュウの体内に菌糸が伸長し、内容物が消失した。菌糸は体内の一部ではなく全体に伸長した。センチュウが動かなくなる時点での特別な捕捉器官は確認できなかっ た。シイタケ(Lentinula edodes)6菌株、サケツバタケ(Stropharia rugosoannulata)3菌株はいずれもセンチュウ捕捉能を示さなかった。ハタケシメジ (Lyophyllum decastes)2菌株に関してはセンチュウ捕捉能が認められた。ハタケシメジの菌糸が伸長した寒天培地に接種したセンチュウはおよそ7日後にはほとんどのものが動かなくなった。センチュウ体内への菌糸の伸長が確認できるまでに7日以上の日数を要した。菌糸のセンチュウ体内への伸長の様子はPleurotus属と同様、全体へ伸長していた。ハタケシメジにおいても特別な捕捉器官の確認はできなかった。