著者
石井 知章
出版者
日本政治学会
雑誌
年報政治学 (ISSN:05494192)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.1_181-1_203, 2019 (Released:2020-06-21)

中華人民共和国の成立 (1949年) とともに、主権理論は共産主義イデオロギーとして、現行憲法においても社会主義 (共産主義) 原理の根幹をなす 「人民主権」 として規定されてきた。だが、1990年代以降、グローバリゼーションの急速な展開にともない、主権理論が再び脚光を浴びると、人権、人道的干渉、途上国への民主化支援、グローバル・ガヴァナンス、経済グローバル化などの展開とともに、国際関係・国際法における 「伝統的主権」 論が大きく動揺していった。こうしたなかで、主権の時代遅れ論、主権の再配分、ウェストファリア体制の終焉といった考え方が登場すると、主権理論をめぐる論争が展開され、新しい主権理論の探究も急速に広がってきた。それらのことを象徴的に示しているのが、現在、習近平体制が精力的に推し進めている中国主導による 「逆グローバリゼーション」 としての経済外交戦略、すなわち 「一帯一路」 構想である。本稿は、一党独裁体制下における 「伝統的主権」 論が、とりわけ現代中国で影響力を強めているC. シュミットの憲法論・政治論との関連で理論的にどのようにとらえられ、かつどのように変化してきたのかについて概観する。
著者
鈴木 賢 高見澤 磨 石塚 迅 坂口 一成 宇田川 幸則 崔 光日 川島 真 石井 知章
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

国家と市場の間の市民社会に射照することにより、中国の権威主義的政治と市場経済という組合せが、いかなる構造によって接合されているかを解明した。民間組織は意図的に不安定な法的地位におかれ、自主的活動空間を偶然的にしか与えられず、社会は政治に飼い慣らされている。共産党が国家、市場ばかりか、社会にまで浸透し、国全体を覆い尽くす存在として君臨し続けている。しかし、悪化する環境、労働、差別、弱者、食品安全の問題など、政治制度と経済システムの軋みは、外部不経済となって拡大し、有効な処方箋の提示が急務である。政治の民主化によるミスマッチ解消というシナリオはなお見通せず、宛てなく徘徊を続けている。
著者
鈴木 賢 高見澤 磨 宇田川 幸則 崔 光日 石井 知章 坂口 一成
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

2009年段階で正式に登記された社会組織は43万1069団体(うち社会団体23万7847、民営非企業事業体19 万479、基金会1843)に上るが、これを遙かに上回る未登記の団体が闇で活動しており、不安定な法的状態にある。設立に当たっての業務主管部門での設立許可と民政部門における登記という二重の管理体制を取ることにより、法人格取得へのハードルを高くしていることがその背景にある。結社については「許されていないことは、禁止される」というのが実態であり、憲法の結社の自由規定とは裏腹に「結社禁止」が原則となっている。目下、社会団体法制の整備に向けて議論が続いているが、いかに社会団体の活性化を図りつつ、他方でその反体制化を避けるべく上からの政治的統制も緩めないという二律背反を具体的な制度に表現するかは容易な課題ではない。厳しい法制環境、共産党組織による統制のなかでもすでに民間団体は、市場経済化のなかで多元化しつつある利益の調整機能、社会の自律調整機能、行政には困難なサービス提供機能、ある種の政治的「参加」機能、社会的公益機能を果たすことによって、政治の民主化を欠く中国で一種の緊張放散的効果をもたらしている。