著者
石原 正仁 藤吉 康志 田畑 明 榊原 均 赤枝 健冶 岡村 博文
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.73, no.2, pp.139-163, 1995-04-25
参考文献数
42
被引用文献数
19

「集中豪雨のメカニズムと予測に関する研究」の一環として1988年の梅雨期に九州北部を中心として実施された特別観測期間中に、梅雨前線に沿ってメソスケール降雨帯が発生し、最大総降水量178mmの大雨が発生した。2台のドップラーレーダーによる観測結果をもとに、この降雨帯のレーダーエコーと循環の3次元構造を解析し、その構造と維持過程を中心に議論する。降雨帯は1988年7月17日に発生し、7時間維持された。発生環境を見ると、大気下層の水平温度傾度が大きくはなく、熱力学的不安定度は熱帯と中緯度の中間であった。降雨帯の長さは170kmに達し、内部は対流性領域と層状性領域から構成されていた。降雨帯の走向は北西-南東であり、大気中層と下層の間の風の鉛直シヤーとほぼ平行であった。対流性領域にある既存の対流セルは降雨帯の走向に沿って移動し、周囲の南西風が入り込む降雨帯の南西端に新しい対流セルが次々と発生した。降雨帯の中には次のような特徴的な流れが確認された。:1)降雨帯の前部にある対流規模上昇流、2)降雨が最も強い領域にある対流性下降流、3)後部中層のエコーのノッチ(切れ目)からの乾燥空気の流入、4)この後部流入に接続するメソ下降流、5)対流規模下降流の下の大気最下層の前方と後方に進む発散流。これら最下層の発散流は周囲より4℃程度低温の寒気プールを作り、この寒気プールと降雨帯前方の暖湿な南西流との間にガストフロントが作られた。降雨帯後方にあった中層の総観規模の乾燥域は、最下層の暖湿気流とともに、降雨帯を維持するために重要な役割を果たした。高層データによると、雨滴の蒸発冷却によると思われる低温域が対流規模下降流とメソ下降流の中に存在した。後部流入にともなう乾燥空気は対流性領域の最下層まで達していた。こうした熱力学特徴は、ドップラーレーダー解析から得られた運動学的構造とよく適合した。降雨帯は中緯度の前線帯に発生したとはいえ、対流圏下層に限れば降雨帯の前後の熱力学的条件の差異は非常に小さかった。この降雨帯は、西ヨーロッパや北米太平洋岸の寒帯前線にともなって観測されるメソ対流システムよりも、熱帯や中緯度のスコールラインのような「自立型対流システム」に属するであろう。
著者
石原 正仁
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.59, no.7, pp.563-577, 2012-07-31
被引用文献数
1

2008年8月5日に首都圏では多数の積乱雲が発生し,東京都豊島区雑司が谷では局地的大雨による被害が生じた.第1部(石原2012)ではこの日に首都圏で発生した積乱雲群のレーダーエコーの形態を統計的に調べた.この第2部では,この日大雨警報が発せられた地域に発生した積乱雲を対象として,気象庁の3次元レーダーデータを用いて降雨のピークの時刻と量を直前に予測することを試みた.「上空における降水のコア」,「鉛直積算雨水量」,「エコー頂高度」,「雷放電」,「降水セル強度と鉛直積算雨水量の変化」の5つの指標を検討したところ,各積乱雲においてこれらの手法のうちのいくつかには効果が認められたが,効果の程度や有効な手法の組み合わせは降水セルによって異なった.「上空における降水のコア」は雑司が谷に局地的大雨をもたらした積乱雲においては有効であった.
著者
山下 順也 石原 正仁
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.52, no.7, pp.539-547, 2005-07-31
参考文献数
7
被引用文献数
2

2004年8月29日から31日にかけて各地に大きな被害をもたらした台風第0416号に伴う上空の風の場を, 局地的気象監視システム(WINDAS)を構成する各地のウィンドプロファイラが観測した.各ウィンドプロファイラで観測されたデータによって, 九州では直立していた台風の中心付近の回転軸が緯度の増加とともに進行方向前方に傾斜し, さらに北海道では中緯度トラフとの結びつきが強まるといった, 温帯低気圧化にともなう中心付近の風の場の構造の変化を捉えることができた.
著者
榊原 均 石原 正仁 柳沢 善次
出版者
公益社団法人 日本気象学会
雑誌
気象集誌. 第2輯
巻号頁・発行日
vol.63, no.5, pp.901-922, 1985
被引用文献数
11

1981年10月22~23日に台風8124号内の日本中部(~36&deg;N/140E)に大雨が起きた。この大雨を主にドップラーレーダーのデータを使って調べた。本研究の主な目的はそれが台風のらせん状降雨帯なのか,それとも他の型の降水系なのかを知ることである。<br>台風は長波の谷の南東部にあり,温帯低気圧に変りつつあった。この大雨は台風中心の北側にある幅の広い雲の帯の南東端で起きた。ドップラーレーダーで観測されたこの大雨の構造で最も顕著な特徴は南東側下層から北西側上層に傾いた強風軸である。これは傾いた中規模上昇流を意味する。傾いた上昇流の軸より下では対流規模の垂直運動が中規模上昇流の中に含まれていた。傾いた上昇流の軸より上では対流規模の垂直運動はほとんど存在しなかった。この大雨の南部では中層の空気が北西側から侵入した。この侵入した空気は降水粒子の蒸発により冷却し,中規模下降流を形成したと思われる。この大雨には顕著な地上収束線が伴っていたが,南部を除き大雨への効果は二次的なものであった。この大雨の構造は台風のらせん状降雨帯,眼の壁雲および中緯度スコールラインとそれぞれ少しずつ似ていた。しかしながら,この構造は温帯低気圧に変化しつつある台風の北側に発生する大雨に特徴的なものと考えられる。<br>大雨の中での降水粒子の生成と輸送の相対的重要性を調べるために,降水粒子の中規模水収支解析の結果とその解釈も示される。
著者
石原 正仁
出版者
一般社団法人 日本風工学会
雑誌
日本風工学会誌 (ISSN:09121935)
巻号頁・発行日
vol.34, no.3, pp.322-328, 2009-07-31 (Released:2011-03-31)
参考文献数
12
著者
石原 正仁 田畑 明
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.43, no.4, pp.215-226, 1996-04-30
参考文献数
24
被引用文献数
3

対流雲の雲底付近に発生するダウンバーストは, 地上の人や建物などに被害を与えるだけでなく, 離陸や着陸の態勢にある航空機に大きな影響を及ぼす. こうしたダウンバーストの発生を予測する因子として, レーダーエコーの強い部分 (降水コア) が上空から地上に向かって降下する現象が以前から指摘されていた. 今回, この予測因子の有効性を実測データをもとに検討した. 1987年9月7日, 千葉県佐倉市付近に発生した対流雲を2台のドップラーレーダーを用いて観測したところ, その雲底下に小規模なダウンバーストが認められた. ほぼ7分間隔で得られた反射強度の鉛直分布を見ると, ダウンバーストが地上付近に出現する約20分前に, 高度3.5 km 付近に降水コアが現れた. その後降水コアは6 ms^<-1>の速度で降下し, ダウンバーストの発生とほほ同時刻に地上付近に達した. こうした現象は, 1987年7月25日の羽田空港付近に発生した大型の対流雲においても確認された. これらのことから, レーダーによって対流雲内の反射強度の鉛直分布を連続的に観測し, 降水コアの降下を自動検出することで, ダウンバーストの発生をある程度予測できる可能性のあることが分かった.
著者
石原 正仁 藤吉 康志 新井 健一郎 吉本 直弘 小西 啓之
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.56, no.9, pp.727-742, 2009-09-30

1998年8月7日にメソスケール降雨帯が大阪湾上を南下し,その中で特に発達した積乱雲が関西国際空港(「関西空港」という)に近づいた.同空港において低層ウィンドシアーを監視している空港気象ドップラーレーダー(DRAW)は,この積乱雲が同空港に到達するまでの間にマイクロバーストを延べ24回自動検出した.このとき低層ウィンドシアーに関する共同調査を実施中であった関西航空地方気象台と北海道大学低温科学研究所は,この積乱雲を対象としてDRAWと同研究所の可搬型ドップラーレーダーによるデュアル観測を行った.この積乱雲は少なくとも4つのマイクロバースト(MB)を,7〜9分間隔で発生させていたことがわかった.このうちの2つのMBについて,その振舞いと内部・周辺の風の3次元分布を詳細に解析した.2つめのMBについては,DRAWの自動検出では水平距離4kmで17m/sの風の水平シアーが測定され,デュアル解析によると高度3kmで7m/sの下降流,及び高度500mで14m/sの水平風が形成されていた.またMB 3が到達した関西空港では21m/sの瞬間風速が記録された.これらのことから,DRAWの自動検出はMBの位置,形状,風の水平シアーの強さを精度よく算出していることがわかった.同時に,MBの非軸対称性が水平シアーの測定に誤差を生じさせる可能性のあることも分かった.MBの微細構造として,1つめのMBにともなう地上付近の発散流は非軸対称的な分布を示し,MBの移動方向の右前方に強く吹き出していた.このMBにともなう発散流の先端のガストフロントでは上昇流が作られ,その上昇流によって上空に形成された降水コアが着地するとともに,2つめのMBが発生した.MBの生成には,降水粒子の蒸発による下降流内の空気の冷却,及び落下する降水粒子が空気を引きずり下ろす力の両者が作用していたと推測された.航空機がこのMBに進入した場合,飛行経路に沿った風の水平シアーにともなう揚力減少の効果は,下降流が航空機を直接降下させる効果より2.7倍以上であったと見積もられた.