著者
小鹿 勝利 上野 亮介
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
no.33, pp.11-18, 1999-09-30

分収育林事業開始後20年が経過し,国有林で24,642ha,民有林で9,916haが設定され,約12万人が約600億円の育林費用を出資した。しかし適地の減少や応募者の減少などから設定面積は漸減傾向にあり,民有林では費用負担者を募集しない相対契約の比重が高まり,国民参加を前提にした事業の性格も変化しつつある。契約満期を迎えた事例では分収金は出資額の半額で,林地所有者は持分を放棄して出資者に分配した。これは木材価格の大幅な低下や伐出経費の増大に加えて,契約時の立木評価や収穫予想の過大評価も原因している。分収育林面積は全人工林面積の0.3%であり,出資金の使途も限定されない。近年の林業生産活動の動向から見る限り,この制度が森林経営の安定化や森林整備の促進に果たした役割は必ずしも大きいとは言えない。今後契約満了を迎える事業が増加していくが,出資金の元本割れへ対応,大面積の契約地での伐採問題,国民参加の実質的な実現などの諸課題があり,分収育林は大きな転機を迎えつつある。
著者
中家 葵 長島 啓子 田中 和博
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, pp.1-12, 2014-12-25 (Released:2018-07-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

京都ではマツ枯れ後ソヨゴ林が拡大しているとの報告がある。ナラ枯れ後もマツ枯れ後のような植生が広がるとの指摘もある。しかし,ソヨゴの分布状況や拡大の可能性を研究した例はない。本研究では立地環境(表層地質,地形,堆積様式,斜面傾斜,表層土粒径)をもとにソヨゴ林の現況把握と拡大予測を試みた。京都市宝ヶ池公園(96.25ha)の山林内に立地環境を確認した上で,調査地点53ヶ所を設置し毎木調査(胸高直径,樹高)を行った。ソヨゴの優占する立地環境を把握した結果,地形が凸部,堆積様式が残積土,表層土粒径がシルト質でソヨゴは優占する傾向があり,その面積は13.66ha(対象地の面積の14.1%)であった。また,現在,ナラ枯れ被害樹種が優占し,その下層にソヨゴが多く分布する範囲でソヨゴの拡大を予測した結果,コナラが優占する場合5.95ha(6.2%)または5.72ha(5.9%),アベマキの場合3.92ha(4.1%)または5.08ha(5.3%)と小さかった。ソヨゴが優占する立地環境はコナラやアベマキのそれとは異なるため,ナラ枯れの影響によりソヨゴが拡大する可能性は小さいのではないかと考えられる。
著者
西園 朋広 井上 昭夫 細田 和男
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.16-28, 2013-06-28 (Released:2017-09-01)
被引用文献数
3 1

密度管理図に基づいて収量比数R_yと相対幹距S_rとの関係式を理論的に誘導した。誘導した式に含まれる定数を既存の密度管理図から収集して,R_y-S_r関係の挙動を樹種・地域ごとに調べた。また,現実林での観測データを用いて,誘導した関係が現実の観測結果に合致することを確認した。以上の検討から,次の二点がわかった。(1)一般的にR_yが増加するとS_rは減少し,R_y-S_r関係は非線形の曲線で表される。(2)その曲線は林分の生育段階ごとに変異し,変異の大きさは樹種に依存して異なる。この曲線変異の樹種依存性は,最多密度曲線の傾きが樹種によって異なることが強く関与していると考えられた。誘導した式と定数一覧を用いることで,わが国の多くの地域の主要樹種について,収量比数と相対幹距を容易に相互変換できるようになった。
著者
古谷 健司 小池 正雄
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.43-54, 2012

本稿は戦後復興期以降の白樺湖周辺における観光開発の展開に考察を加え,在来住民と移住者による観光開発が地域にいかなる影響を与えたのかを明らかにすることを目的としている。白樺湖周辺の観光開発の展開過程を,戦後復興期,高度経済成長期,成熟期,現代の4段階に分けて検討した。その結果,(1)柏原区民の内発的発展を目指す姿勢と共同体としての開発の限界,(2)柏原区民による財政強化と柏原区民への分配機構の整備,(3)開発主体不在の中での乱開発による白樺湖の環境悪化,(4)成熟期より拡がりつつあった在来住民と移住者の軋轢,が明らかとなった。とくに白樺湖周辺における地域社会での連帯と協調性の欠如を生み出した財産区という村落共同体の存在が大きい。
著者
中川 昌彦
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.33-35, 2018
被引用文献数
2

北海道の十勝平野は春耕期に風害を受けやすい地帯であり,カラマツを中心とした耕地防風林が発達した。春耕期におけるカラマツの耕地防風林の防風効果については,開葉前や開葉直後のため充分ではないという意見があり,赤間らは,「防風林の多面的機能と造成管理のための解説書」の中で,防風林の適樹種としてトドマツまたはアカエゾマツと思われる常緑針葉樹の写真を掲載し「春先の十勝風に効果を発揮する針葉樹(鹿追町)」と解説している。一方で,大島らや北海道立林業試験場は,冬季に耕地防風林の調査を行い,落葉期のカラマツ耕地防風林の周囲にもトドマツと同程度の雪丘がみられることから,落葉期のカラマツにも常緑樹であるトドマツと同程度の防風効果があるとしている。このような相反する見解がある中,最近になって中川は,十勝平野の郷土資料におけるカラマツ耕地防風林に対する防風効果の認識についての記述を収集し,十勝平野の農家や農業関係者は春耕期におけるカラマツの耕地防風林の防風効果を高く評価していたことを明らかにした。耕地防風林の土地所有者はそれぞれの農家であるが,その普及指導は北海道十勝支庁(現十勝総合振興局)林務課職員が担ってきた。このため,林務課職員が春耕期におけるカラマツの耕地防風林の防風効果についてどのように認識していたのかは,非常に興味のあるところである。そこで本調査では,1998年に北海道十勝支庁が発行したパンフレット「防風林を見直そう」)と,1994年度に十勝支庁林務課が北海道農林土木コンサルタント(株)に委託して実施した防風林実態調査の結果から,20年前の十勝支庁林務課職員の認識を明らかにした。
著者
小林 繁男
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.16, pp.159-170, 1991 (Released:2017-09-01)
被引用文献数
1
著者
露木 聡
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.37-47, 1998
参考文献数
5
被引用文献数
1 1

人口密度と緑地面積(自然面積)との関係を都市の発展段階と対応させることにより,都市の発展段階から見た場合,現存する緑地がどのような位置にあるかを類型化するための手法の開発を行った。国土数値情報の3次メッシュを単位とし,各メッシュから半径5km内における人口密度と自然面積それぞれを大きい順に並べた降順曲線をクラスタ分類することにより,緑地環境のタイプ区分を行った。千葉県を対象に分類を8クラスで行った結果,クラス8:人口稠密な都市域,クラス7:クラス8に準ずる都市域,クラス5:都市への発展が強く進んだ地域,クラス6:農村または海浜工業地帯,クラス2:クラス6より開発度合いが少ない地域,クラス3:都市への発展が弱く進んだ地域,クラス4:開発がやや進んだ地域,クラス1:自然が最も残された地域に類型化が可能であった。また,都市の発展段階に対応させた場合,森林が開発され都市へと向かう方向と,農村や工業地域に向かう方向とが示され,この手法によりマクロな視点からの緑地環境の評価が可能であることがわかった。
著者
小林 裕之
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.69-79, 2020-05-19 (Released:2020-08-08)
参考文献数
11
被引用文献数
3

小林裕之:撮影高度とDTMの違いがUAV­SfMによる森林計測に及ぼす影響,森林計画誌53:69~79,2020 UAV­SfMによる森林計測法の確立を目指し,3種類の撮影高度(80,100,120m)と3種類のDTM(0.5,5,10m メッシュ)を組み合わせて,一般向けのUAVによりスギ林の空撮を行った。SfMおよびGISソフトウェアにより樹頂点を決め,樹高,樹冠面積を計測し,胸高直径および材積を推定した。計測精度が最も高かったのは,撮影高度100mと0.5m メッシュDTMの組み合わせであり,立木本数は86本(地上調査は92本),平均樹高は25.29m(同24.81m),プロット材積は104.5m3(同107.6m3)であった。
著者
村上 拓彦 篠原 朋恵
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.89-93, 2020-05-19 (Released:2020-08-08)
参考文献数
2
著者
牧野 耕輔 岡 勝 加治佐 剛 寺本 行芳 芝 正己 中島 徹 長濱 孝行
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.53-62, 2020

<p>牧野耕輔・岡勝・加治佐剛・寺本行芳・芝正己・中島徹・長濱孝行:<b>鹿児島県大隅地域を対象にしたスギ材の幹曲線式の算定と素材品質の実態分析-鹿児島大学高隈演習林を事例にして-,森林計画誌53:53~62,2020</b> 素材生産現場では,収益性が高くなるよう施業が行われているが,品質等級や素材歩留りを決定する採材は,作業者の経験則に依るところが大きいのが実態である。本研究では,生産現場でリアルタイムに情報を収集し,得られた丸太情報の活用可能性について検討した。プロセッサ造材時に伐倒木の端材長,素材長,梢端部長および各末口の鋸断径の計測結果から幹曲線式を作成することで,伐倒木の形状を解析するとともに,素材歩留りと素材の品質等級を推定した。その結果,スギ材の素材歩留りが大隅地域における既往文献の値と矛盾しないことが判明した。また,形状比を指標に品質等級の出現頻度を分析したところ,BC 材は形状比との相関がみられたが,A 材は相関が無く有意差が認められなかった。</p>
著者
高嶋 敦史 大島 順子
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.59-65, 2019

<p>大径木は,亜熱帯性照葉樹林の保全において重要な指標であると考えられている。そこで本研究では,沖縄島やんばる地域に広がる約65年生の二次林において,大径木の分布と地形の関係を小流域レベルで調査した。その結果,胸高直径30cm以上の大径木の密度は全樹種合計で91.0本/haであり,そのうちイタジイが65.2%,イジュが20.9%,オキナワウラジロガシが6.4%を占めていた。やんばる地域の非皆伐成熟林を調査した既往の研究と比較すると,大径木の密度は半分以下に留まっていた。調査対象の小流域を尾根,中間斜面,谷の3つの地形に区分して大径木の密度やサイズを比較したところ,尾根では大径木の密度が谷や中間斜面の半分以下であった。また,イタジイやイジュは,尾根より谷でサイズが大きくなっていた。このように,やんばる地域の約65年生の二次林では,谷を中心にサイズの大きな幹が分布していた。また,谷から中間斜面にかけては過去の伐採を免れた老齢な大径木も僅かながら残っており,谷や中間斜面は二次林においても生態系管理や生物相保全の面で大きな役割を果たす重要な立地である可能性が示唆された。</p>
著者
小鹿 勝利 清野 年
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.26, pp.73-84, 1996
参考文献数
26
被引用文献数
3

エゾマツの資源造成は1900年代初めより取り組まれ,30年代から60年代半ばまでは人工造林もある程度実行されてきた。しかしその造林地は不成績地が多く,60年代後半以降は造林も極めて少ない。その結果既往のエゾマツ造林面積は3〜4万ha程度に過ぎず,天然更新技術も未確立である。エゾマツ造林の停滞の理由は苗木生産の困難さ,初期成長の遅さ,気象害・虫害等の多発等とされているが,苗木生産上の技術的問題は実質的には解決済みであり,天然林内の小面積補助造林地では被害発生も少なく,他樹種と大差ない成長を示している。エゾマツは環境条件の影響を受けやすい樹種であるが,樹種特性に対応した生育環境の造成や植栽方法の選択で成林は十分可能である。北海道の自然条件に適応し生態的に安定した森林造成や持続的な森林経営の実現のため,エゾマツ資源造成の積極的な取り組みが不可欠である。
著者
行武 潔 吉本 敦
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.81-98, 2002-09-30 (Released:2017-09-01)
参考文献数
23

本報告は国産材製材品とそれと競合する国内挽き米材製材品及びその他外材も含む製材品を対象に,東北,関東,北陸,中部,近畿,中国,四国,九州の8地域における木材需給構造の特徴を価格弾性値によって把握しようというものである。推定に際しては,各品目毎に需給の部分均衡モデルを作成し,推定結果の一致性が得られるよう2段階最小二乗法,3段階最小二乗法を用いて係数の推定を行った。また,それらの結果と普通最小二乗法により得られる推定結果とを比較検討した。分析の結果,製材品需要の価格弾性値については,全需給関数に関わる外生変数を操作変数推定に用いた2段階,3段階最小二乗法による推定結果が普通最小二乗法によるものよりも各地域とも価格弾性値が大きくなる結果となった。特に東北,関東,北陸,近畿,四国が2.0以上となった。また各地域とも国産材よりも米材の供給価格弾力性の方がより弾力的,即ち,国産材は市況に対する供給反応が敏感ではないことを示していることが分かった。この傾向は普通最小二乗法,2段階,3段階最小二乗法によった場合いずれも同様であった。
著者
吉田 茂二郎 松下 幸司
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
no.33, pp.19-27, 1999-09-30
被引用文献数
1

日本の民有林の森林簿データの更新には,各県が調整した簡易林分収穫表が利用されている。したがってこれらの林分収穫表は,日本の森林情報の最も重要な基礎資料である。そこで西日本の28府県のスギ,ヒノキおよび広葉樹の林分収穫表の特性をリチャーズ成長関数のパラメータをもとに明らかにした。リチャーズ関数はすべての収穫表の幹材積によくあてはまり,型のパラメータmがすべて1より小さいことから幹材積の増加はミッチャーリッヒ型を示した。パラメータkとmの全平均は,スギとヒノキでは比較的似通った値であった。最終到達量Aは,地方間では国有林収穫表の総収穫量(地位中60年生時)と弱い正の関係が認められたが,地方内では各県の林地生産力との関係は明らかではなかった。最終到達量Aの全平均は,スギ,ヒノキおよび広葉樹で,それぞれ589.3m^3/ha,451.6m^3/ha,172.7m^3/haであり,さらに総平均成長量最大の林齢は,それぞれ38.3年,40.1年,31.8年,そして同成長量はそれぞれ8.9m^3/ha,6.4m^3/haおよび2.9m^3/haであった。
著者
伊藤 太一
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
no.21, pp.57-68, 1993-12
被引用文献数
2

アメリカの国有林におけるレクリエーション展開過程を,第一次大戦後に初代「レクリエーションエンジニア」として採用されたカーハートの活動を通じて明らかにした。彼はまずホワイトリバー国有林の一部において別荘開発を行なわないという非開発型計画案を提示し実現させた。スペリオル国有林においては一層広大なカヌー地域としての保全を提案した。また,サンイサベル国有林レクリエーション計画策定においては,地域住民によるキャンプ場整備をその中に取り込み,住民参加による国有林レクリエーション開発の先例を打ち立てた。同時に,さまざまな雑誌にレクリエーションを推進する論説を掲載し,森林官のみならず一般民衆にもその支持を訴えた。だが,森林官によって構成される組織の中でレクリエーションに対する合意を短期間で形成することは困難であった。一部の森林官はレクリエーション需要の増大を認識し,その予算や専門家による計画の必要を認識したが,森林局としてレクリエーション政策を確立するまでには至らなかった。彼は森林局内部の合意形成に限界を感じ,辞職したが,その後の国有林レクリエーション展開の基盤を作った。
著者
大河 和夏 増谷 利博 石垣 逸朗
出版者
森林計画学会
雑誌
森林計画学会誌 (ISSN:09172017)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.211-219, 2006-12-31

神奈川県丹沢山地内の中津川流域(3,544ha)を対象とし,1947年にみられた崩壊地の残存傾向と地形要因の関係について数量化II類により解析した。崩壊地は1993年までに植生回復したものを回復型,1993年もなお残存しているものを残存型と分類した。また,地形因子には標高,斜面方位,傾斜,横断形状,傾斜変換点の5つを用いた。その結果,偏相関係数・レンジはともに標高>斜面方位>傾斜変換点>横断形状>傾斜の順となり,特に標高と斜面方位の影響が大きくなった。標高区分900m以上で残存傾向となり,標高が高い区分になるほどその傾向も強くなった。斜面方位は南,南東,西向き斜面に残存傾向がみられた。こうした高標高エリアの南と南東向き斜面は,凍結・融解作用により表土の移動が激しく崩壊地に侵入した植生が定着しにくいため,崩壊地の残存期聞か長期化したのではないかと考えられる。このようなエリアでは土壌保全を優先し,天然林を主とする森林管理が適当であると考えられる。