著者
田村 藍 安 然 大西 裕子 石川 智久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.270-274, 2007 (Released:2007-10-12)
参考文献数
20
被引用文献数
2 3 1

「ポルフィリン」という名称は,古代紫(ポルフィラ)に由来する.古代紫という色は,紫草という多年草の根から染料として創り出された色で,日本の伝統色の中でも特別な意味を持っていた.特に平安時代には賛美され,高い位の象徴であると同時に,気品や風格,艶めかしさといった様々な美を体現していた.21世紀の今,ポルフィリン研究において,温故知新の新しい潮流が起きようとしている.ポルフィリンはヘモグロビン,ミオグロビンのほか,我々の体内細胞におけるチトクロムの補欠分子族ヘムの基本骨格であり,生命維持に不可欠な生体物質である.一方,ABC(ATP-Binding Cassette)遺伝子は,細菌から酵母,植物,哺乳類に至る広い生物種に分布して,多様な生理的役割を担っている.ヒトでは現在までに48種のABCトランスポーターが同定されており,それらはタンパク質の1次構造の特徴に基づいて7つのサブファミリー(AからG)に分類される.これまでの臨床的研究結果から,ヒトABCトランスポーター遺伝子の異常によって様々な疾患が引き起こされることが判明した.例えば,ABCC2(cMOAT/MRP2)の遺伝子変異はビリルビン抱合体の輸送障害を起こしDubin-Johnson症候群を引き起こす.さらに最近の研究によって,ヒトABCトランスポーターのうちABCB6,ABCG2,ABCC1,ABCC2がポルフィリン生合成やヘム代謝に密接に関与していることが明らかになった.ヒトABCトランスポーターの遺伝子多型や変異とポルフィリン症などの疾患との関連が示唆される.この総説では,当該分野での最新の知見を紹介しつつ,ポルフィリン生合成やヘム代謝におけるヒトABCトランスポーターの役割を議論する.
著者
石川 智久 Wanping Aw Alexander Lezhava 林崎 良英
出版者
一般社団法人 日本アレルギー学会
雑誌
アレルギー (ISSN:00214884)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.98-108, 2010-02-28 (Released:2017-02-10)
参考文献数
30

ヒトゲノム解析が完了し,それに伴い個々の遺伝子多型に基づくテーラーメイド医療(個別化医療)の実現が期待されている.特に,薬物の標的,薬物代謝酵素,薬物トランスポーター等の遺伝子多型を調べて薬の副作用や体内動態,薬物の効果および副作用の可能性を予測することは,個別化医療の実現において必須である.理化学研究所で開発されたSmart amplification process(SmartAmp)法は,ミスマッチ結合蛋白質の存在下,遺伝子型特異的なプライマーを用いてDNA等温増幅を行う高速かつ簡便なSNP検出技術である.本綜説では,薬物輸送に関与するABCトランスポーターABCB1,ABCC4,ABCC11の遺伝子多型をSmartAmp法によって検出する方法と,それを用いて薬の副作用を予測する臨床応用の可能性を示す.
著者
石川 智久 中山 貢一
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.128, no.4, pp.208-213, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
16

グルコースによるインスリン分泌機構として,グルコース代謝によるATP/ADP比の上昇によりATP感受性K+チャネル(KATPチャネル)が閉口して膜が脱分極し,電位依存性Ca2+チャネルが活性化されてインスリン開口放出が惹起されるというKATPチャネル依存性の機序が知られている.しかし,インスリン分泌がこのKATPチャネル依存性の機序によってのみ生じるわけではない.特に,グルコース誘発インスリン分泌の第2相には,KATPチャネル非依存性の機序の関与が示されている.この機序として,マロニルCoA/長鎖アシルCoA仮説,グルタミン酸仮説,ATP仮説などが提唱されているものの,これらの仮説とは矛盾する報告も為されており,未だその全容解明には至っていない.著者らは最近,こうした因子とは少し性質を異にした新たな機序を提唱した.すなわち,グルコース刺激によりβ細胞の構成型NO合成酵素が活性化されてNOが産生され,そしてNOが低濃度ではcGMP産生を介してインスリン分泌を促進し,それ以上の濃度になるとcGMP非依存性の機序によりインスリン分泌を抑制することを示した.また,高濃度グルコースによりβ細胞が膨張することに着目し,低浸透圧刺激を利用して細胞膨張応答機構を解析した.そして,β細胞の膨張が伸展活性化カチオンチャネルを活性化して膜を脱分極させ,インスリン分泌を惹起することを示した.以上の結果から,NOがグルコース誘発インスリン分泌においてその濃度によって促進的あるいは抑制的に働く調節因子として機能すること,また,高濃度グルコースによるインスリン分泌に細胞膨張による伸展活性化カチオンチャネルの活性化を介した機序が寄与する可能性を示した.こうしたKATPチャネル非依存性の機序は,糖尿病治療薬の新たなターゲットとなる可能性を秘めており,研究のさらなる展開が期待される.
著者
田村 藍 安 然 大西 裕子 石川 智久
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 : FOLIA PHARMACOLOGICA JAPONICA (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.130, no.4, pp.270-274, 2007-10-01
被引用文献数
3

「ポルフィリン」という名称は,古代紫(ポルフィラ)に由来する.古代紫という色は,紫草という多年草の根から染料として創り出された色で,日本の伝統色の中でも特別な意味を持っていた.特に平安時代には賛美され,高い位の象徴であると同時に,気品や風格,艶めかしさといった様々な美を体現していた.21世紀の今,ポルフィリン研究において,温故知新の新しい潮流が起きようとしている.ポルフィリンはヘモグロビン,ミオグロビンのほか,我々の体内細胞におけるチトクロムの補欠分子族ヘムの基本骨格であり,生命維持に不可欠な生体物質である.一方,ABC(<u>A</u>TP-<u>B</u>inding <u>C</u>assette)遺伝子は,細菌から酵母,植物,哺乳類に至る広い生物種に分布して,多様な生理的役割を担っている.ヒトでは現在までに48種のABCトランスポーターが同定されており,それらはタンパク質の1次構造の特徴に基づいて7つのサブファミリー(AからG)に分類される.これまでの臨床的研究結果から,ヒトABCトランスポーター遺伝子の異常によって様々な疾患が引き起こされることが判明した.例えば,ABCC2(cMOAT/MRP2)の遺伝子変異はビリルビン抱合体の輸送障害を起こしDubin-Johnson症候群を引き起こす.さらに最近の研究によって,ヒトABCトランスポーターのうちABCB6,ABCG2,ABCC1,ABCC2がポルフィリン生合成やヘム代謝に密接に関与していることが明らかになった.ヒトABCトランスポーターの遺伝子多型や変異とポルフィリン症などの疾患との関連が示唆される.この総説では,当該分野での最新の知見を紹介しつつ,ポルフィリン生合成やヘム代謝におけるヒトABCトランスポーターの役割を議論する.<br>