- 著者
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石橋 正孝
- 出版者
- 日本フランス語フランス文学会
- 雑誌
- フランス語フランス文学研究 (ISSN:04254929)
- 巻号頁・発行日
- vol.93, pp.139-152, 2008-08-25 (Released:2017-08-04)
ジュール・ヴェルヌ(1828-1905)の最も有名で最も人気のある作品である『八十日間世界一周』(1872年)には,数多くの先行研究が存在しているが,その大半はメッセージレヴェルの解読が中心になっているように思われる.それに対し,本論では,極めて特異な作品構造に注目した上で,連作『驚異の旅』全体のプロジェクトとして「地球の描写」が浮上する際に,この作品が果たした決定的な役割を示したい.まず第一部で,『八十日間世界一周』以前の小説が二系列に分類可能であり,両者の統合が「地球の描写」というプロジェクトを生んだことを論じる.続く第二部では,この統合が『八十日間世界一周』によって実現された事実を明らかにすると共に,小説版に先立って戯曲版が書かれ,小説刊行後に再度新しく戯曲化されるというその成立過程を通じて,この作品の特異性を再確認する.