著者
山口 直孝 竹内 栄美子 福田 桃子 橋本 あゆみ 竹峰 義和 坂 堅太 木村 政樹 石橋 正孝
出版者
二松學舍大學
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2020-04-01

『神聖喜劇』で知られる作家大西巨人(1916~2014)の教養形成と作品の成立過程とを実証的に考察し、西洋の事例と比較しながら、現代の知識人のありようを探る。新日本文学会や記録芸術の会など、関係した文学芸術運動の活動の詳細を明らかにする。研究は、①資料調査、②聞き取り調査、③フィールドワークから成る。①は、大西巨人資料(二松学舎大学寄託)を核としながら、ほかの文学館や図書館についても行う。②はは、大西巨人の家族や知人に対して行う。③は、福岡や対馬で行う。成果は、公開ワークショップで報告する。資料目録や年譜など各種データベースを作成する。自筆資料をデジタルデータ化し、重要なものを翻刻する。
著者
福田 桃子
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

本研究課題の採用最終年度となる本年は、プルーストと19世紀から世紀転換期の作家たちとの間テクスト性の研究を中心に据えた。アナトール・フランスは、若き日のプルーストにとって最愛の作家であり、『ジャン・サントゥイユ』『失われた時を求めて』における作家・芸術家像に投影されるとともに、その美学にも多くの共通点が見られる。パリの家庭で女中を雇うことは、言語、服装、料理、信仰などを介してパリに田舎を見出すことであるが、これはアナトール・フランスの作品に度々登場する女中の役割とも重なっている。これまで論じられることが少なかった影響関係について研究をすすめるなかで、プルーストが女中の言語を称揚するアナトール・フランスの美学に共感を寄せつつも(『失われた時を求めて』において、主人公がベルゴットの作品に共鳴するのは女中の描写を通してである)、パリという土地および時代の変化を通してこうした「美」が破壊される過程を描き、アナトール・フランスのユートピア的な価値観を乗り越える過程が明らかになった(論文3)。土地を介した貴族との呼応という点に関しては、バルベー・ドールヴィイの諸作品がとりわけ重要な参照項となった。「聖女」と「女中」のアナロジーについては、ユイスマンス『大伽藍』およびフロベール『純な心』との比較検討をおこなった。これまで数多のテーマ研究が示してきたように、プルーストは、文学史および同時代のコンテクストや常套句を作品に採り入れる手法の独創性と視野の広さにおいて特異な作家であった。今後も文学史が編み上げた「女中」という主題系の整理・検証と作品読解を相互補完的に行うことで、作家の文学的素地をなす諸作品を新たな視座のもとにとらえ、作家が19世紀および世紀転換期の文学に何を負い、いかにして独自の小説美学を構築するに至ったのかを詳らかにすることを目指したい。