著者
神谷 亘
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.70, no.1, pp.29-36, 2020 (Released:2021-05-08)
参考文献数
40

コロナウイルスは多くの動物種に感染し,特に,呼吸器あるいは消化器に感染することで病気を引き起こす.コロナウイルスはニドウイルス目に分類され,ヒトのコロナウイルスは一般的に風邪の原因ウイルスの一つである.しかしながら,コロナウイルスにより重篤な肺炎を示す2002年の重症急性呼吸器症候群と2012年の中東呼吸器症候群が発生した.そして,2019年には新型肺炎が中国を発生源として世界各国に感染拡大した.この新型肺炎はCOVID-19,その病原体はSARSコロナウイルス-2である.
著者
林 良雄 今野 翔 ⼩林 清孝 神⾕ 亘 千⽥ 俊哉 千⽥ 美紀 ⼩島 正樹 ⽩坂 善之
雑誌
日本薬学会第141年会(広島)
巻号頁・発行日
2021-02-01

2019年末に発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、パンデミックを引き起こし、世界中に感染が拡大している。この克服には、原因ウイルスであるSARS-CoV-2を標的とする治療薬の開発が不可欠である。ウイルスプロテアーゼ阻害剤は、エイズやC型肝炎の特効薬となっているが、SARS-CoV-2も感染細胞でのウイルス複製に不可欠な3CLプロテアーゼ(3CL-ProまたはM-Pro)を有している。したがって、当該酵素を標的とする選択的阻害剤は、明確な作用機序に基づいたCOVID-19治療薬の候補になると思われる。 我々は、 2002年のSARSの発生を機にSARS-CoVが有する3CL-Proの阻害剤開発を進めてきた。1-6 その結果、 アリールケトン型阻害剤4-Methoxyindole-2-carbonyl-Leu-Ala((S)-2-oxopyrrolidin-3-yl)-2-benzothiazole(YH-53、 Ki = 6 nM against SARS-CoV 3CL-Pro)の創製に至った。本阻害剤は、当該システインプロテアーゼの活性中心にあるSH基に対して、アリールケトン部が可逆的な化学反応を起こし、強力な競合型阻害を示す。 SARS-CoVとSARS-CoV-2における3CL-Proのアミノ酸配列相同性が非常に高いことから、我々はSARS-CoV-2に対するYH-53の効果を現在検討している。最新のデータではYH-53はSARS-CoV-2の3CL-Proに対し、強力な酵素阻害活性を示す。更に細胞ベースの抗ウイルス評価においてSARS-CoV-2の感染を良好に抑制することを確認した。シンポジウムではYH-53の開発経緯と共に評価結果を報告したい。References: 1) Sydnes, O. M., Kiso, Y., et al., Tetrahedron, 2006, 62, 8601-8609. 2) Regnier, T., Kiso, Y., et al., Bioorg. Med. Chem. Lett., 2009, 19, 2722-2727. 3) Konno, S., Hayashi, Y., et al., Bioorg. Med. Chem., 2013, 21, 412-424. 4) Thanigaimalai, P., Hayashi, Y., et al., Eur. J. Med. Chem., 2013, 65, 436-447. 5) Thanigaimalai, P., Hayashi, Y., et al., Eur. J. Med. Chem., 2013, 68, 372-384. 6) Thanigaimalai, P., et al., J. Med. Chem., 2016, 59, 6595-6628 (総説).
著者
神谷 亘
出版者
大阪大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2010

SARSコロナウイルスのnsp1タンパク質は、宿主RNA分解促進と40Sリボゾームに特異的に結合することでタンパク質合成を阻害する。nsp1タンパク質によるRNA分解には宿主のRNA分解機構が関与していると考えられる。さらに、SARSコロナウイルスは、nsp1タンパク質によるRNA分解促進や翻訳阻害の存在下においても、効率よく増殖することができる。そこで、SARSコロナウイルスによるnsp1タンパク質のRNA分解促進や翻訳阻害からの回避機構を検討した。その結果、nsp1タンパク質は、ウイルスRNAの非翻訳領域と特異的に結合し、ウイルス由来のRNAと宿主由来のRNAを区別することで、宿主特異的なRNA分解促進と翻訳阻害を引き起こしていることが明らかとなった。
著者
神谷 亘
出版者
日本豚病研究会
雑誌
日本豚病研究会報 (ISSN:09143017)
巻号頁・発行日
no.66, pp.1-4, 2015-08

コロナウイルスは、RNAをそのウイルスゲノムとして持つエンベロープウイルスである。コロナウイルスはニドウイルス目に分類され、その中にコロナウイルス科、そして、コロナウイルス亜科とトロウイルス亜科に分類される。コロナウイルス亜科はさらに、アルファコロナウイルス属、ベータコロナウイルス属、ガンマコロナウイルス属の3つの属に分類される。アルファコロナウイルス属には、ヒトコロナウイルス229Eや豚流行性下痢ウイルスなどが含まれる。ベータコロナウイルス属には、2002年度に流行した重症急性呼吸器症候群(Severe Acute Respiratory Syndrome: SARS)コロナウイルスが含まれる。また、SARSコロナウイルスの発生から、おおよそ10年後の2012年度より中東で感染が拡がっている、中東呼吸器症候群(Middle East Respiratory Syndrome: MERS)コロナウイルスなどが含まれる。ガンマコロナウイルス属には、主に鳥類由来のコロナウイルスが含まれる。ヒトにおいて、コロナウイルス感染症は、SARSコロナウイルスの発生以前では、風邪の原因ウイルスの1つとして考えられており、強い病原性を示すウイルス感染症ではなかった。そのため、SARSコロナウイルス発生以前のコロナウイルス研究はマウス肝炎ウイルスの研究が牽引してきた。一方、獣医学領域においては、牛コロナウイルス、猫コロナウイルス、犬コロナウイルスなどそれぞれの動物種で固有のコロナウイルスが存在している。また、豚流行性下痢ウイルスも重要なウイルス感染症の1つであり、最近では2013年より日本国内において発生している。コロナウイルスのウイルス学的特徴は、ウイルス粒子表面に特徴的な王冠様の構造物(スパイクタンパク質)が存在することであり、このウイルス粒子の外殻構造がコロナウイルスの由来である。コロナウイルスのウイルス粒子は主に3つの構造タンパク質(Sタンパク質、Mタンパク質、Eタンパク質)から構成されており、その中に、おおよそ30,000塩基のRNAがウイルスゲノムとして取り込まれている。このウイルスゲノムは、RNAウイルスの中で最長であり、これがコロナウイルスの1つの特徴である。しかしながら、このように長いウイルスRNAゲノムを有するため、他のRNAウイルスで用いられている逆遺伝子操作系の取り扱いが非常に複雑で煩雑である。そのため、コロナウイルスの分子ウイルス学的な解析は、他のRNAウイルスに比べて遅れているように思われる。
著者
神谷 亘
出版者
大阪大学
雑誌
研究活動スタート支援
巻号頁・発行日
2009

重症急性呼吸器症候群の原因ウイルスであるSARSコロナウイルスnsp1タンパク質が、宿主のRNA分解と翻訳阻害をすることで宿主遺伝子の発現抑制を行っていることが知られている。このnsp1タンパク質による宿主遺伝子の発現調節機構は、他のウイルスでの報告がない、新しい調節機構であると考えられている。しかしながら、その具体的な機序は、いまだ不明である。nsp1タンパク質によるRNA分解に関しては、nsp1タンパク質単独では、RNAを分解しないとの知見を得ている、このことより、nsp1タンパク質によるRNA分解には、RNA分解に関わる宿主因子が関与していると考えられる。そこで、当該年度は、nsp1タンパク質と相互作用する宿主因子の検索を行い、その相互作用を明らかにするとともに、相互作用の意義を明らかにすることを目的として研究を行った。まず、nsp1タンパク質と結合する宿主因子を同定するためにYeast-two hybrid法を試みた。しかしながら、酵母内においてnsp1タンパク質は非特異的にプロモーターを活性化させるために、酵母を用いた宿主因子の同定は困難であると分かった。今後、Tandem Affinity Purification法を用いて宿主因子の同定を行う予定である。