著者
藤本 泰文 星 美幸 神宮字 寛
出版者
公益財団法人 宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団
雑誌
伊豆沼・内沼研究報告 (ISSN:18819559)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.81-90, 2009 (Released:2017-11-10)
参考文献数
13
被引用文献数
13

定期的に調査を行なっていた宮城県北部の溜め池にオオクチバスが侵入した.すぐに捕獲作業を行ない,82個体のオオクチバスを捕獲した.環境調査の記録から,オオクチバスが侵入して13日が経過した段階で捕獲したと考えた.胃内容物を調査した結果,オオクチバスは1個体あたり3.0個体の水生生物を捕食していた.溜め池に生息する水生生物の個体数推定を行ない,オオクチバスによる水生生物に対する捕食数と捕食率を算出した.その結果,オオクチバスは溜め池に生息した13日間で,溜め池に生息する約9,000個体の水生生物のうち,タナゴ1,687個体,トウヨシノボリ400個体,エビ類718個体,アメリカザリガニ267個体を捕食したと推定された.これは生息個体数のそれぞれ37.9%, 31.0%, 35.0%, 21.2%に相当する.侵入初期のオオクチバスによる水生生物への影響を報告した事例はこれまでになく,本研究の結果は,オオクチバスが水生生物を大量に捕食する性質を持ち,今回のように生息する水生生物の約1%に相当する個体数が侵入した場合においても,強い捕食圧を与え,その水域の水生生物を急減させることを示した.
著者
神宮字 寛 森 誠一 柴田 直子
出版者
Ecology and Civil Engineering Society
雑誌
応用生態工学 (ISSN:13443755)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.169-177, 2003-02-28 (Released:2009-05-22)
参考文献数
22
被引用文献数
8 3

秋田県の農業用水路を対象に,維持管理作業がイバラトミヨ雄物型の営巣場所の環境条件に与える影響を調査し,営巣場所保全のための維持管理方法を検討した.維持管理作業を5月の上旬に1回実施した1999年と5月~8月まで月1回実施した2000年とで比較した結果,1999年に形成された総営巣数が36個であったのに対して,2000年は14個と大きく減少した。維持管理回数の多い条件下では,営巣場所の水位低下,流速増加,営巣の支柱となる水生植物が限定されるなど営巣場所の環境条件が変化した.以上のことから,営巣場所の保全と水路の流下能力を維持するための条件的管理方法として,保全区域を設定した維持管理方法を提示した.保全区域は,繁殖の想定される植生帯を有する50~60m区間および50~72m区間の右岸側のセキショウ群落帯とする.
著者
神宮字 寛 上田 哲行 角田 真奈美 相原 祥子 齋藤 満保
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.78, no.3, pp.219-226, 2010-06-25 (Released:2011-06-25)
参考文献数
18
被引用文献数
1

本研究では,フィプロニル系殺虫剤を播種時と移植時に施用した水田において,育苗箱施用殺虫剤がトンボ科アカネ属におよぼす影響を調査した.さらに薬剤の散布時期の違いが害虫防除効果におよぼす影響について検証した.圃場実験では,移植時処理区,播種時処理区および無処理区をそれぞれ3区画ずつ,合計9区画の実験区を用意した.水田のフィプロニル最高濃度値は,播種時処理区で1.20ppb,移植時処理区で1.45ppbを示した.フィプロニルを散布した区では,無処理区に比べてアキアカネの羽化個体数が大きく減少することが明らかとなった.また,その影響はアキアカネ以外のトンボ類にも及び,移植時処理区では無処理区に比べ,アカネ属とアオイトトンボ科のトンボ成虫が減少した.アキアカネの羽化個体数,アカネ属幼虫および他のトンボ類成虫の出現個体数から,移植時処理に比べると播種時処理では,殺虫剤によるトンボ類の減少がわずかに抑えられた.
著者
神宮字 寛
出版者
養賢堂
雑誌
農業および園芸 (ISSN:03695247)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.256-266, 2015-02
著者
神宮字 寛 上田 哲行 五箇 公一 日鷹 一雅 松良 俊明
出版者
公益社団法人 農業農村工学会
雑誌
農業農村工学会論文集 (ISSN:18822789)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.35-41, 2009 (Released:2010-10-15)
参考文献数
20

フィプロニルやイミダクロプリドを成分とする育苗箱施用殺虫剤は,稲の吸汁性害虫を対象とした殺虫剤であり,育苗箱に用いる.本研究では,本薬剤がアキアカネ幼虫の死亡率,羽化数,羽化行動に及ぼす影響を小型ライシメータにより検証した.各ライシメータは,フィプロニル区,イミダクロプリド区および無処理区とし,それぞれ3反復で実験を行った.アキアカネ卵は,それぞれのライシメータに300卵散布した.そして,各ライシメータ中のアキアカネ幼虫の死亡率,羽化数を求めた.アキアカネ幼虫の死亡率が最も大きい値を示したのはフィプロニル区となり,羽化個体が観察されなかった.イミダクロプリド区では,フィプロニル区に比べて死亡率は低い値を示したが,幼虫の平均成長率および成虫の後翅長が無処理区よりも低下した.また,羽化異常を示す個体が無処理区に比べて高い割合で発現した.フィプロニルやイミダクロプリドを成分とする育苗箱施用殺虫剤の使用は,アキアカネ幼虫の大きな減少を招くことが示唆された.
著者
神宮字 寛 露崎 浩
出版者
日本雑草学会
雑誌
雑草研究 (ISSN:0372798X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.55-62, 2008-06-30

ガムシ科の甲虫コガムシHydrophilus affinis Sharpは,卵のうを形成する際に生の雑草の葉を利用する。近年,コガムシの個体数の減少が各地で報告され,絶滅危惧種に指定した県が複数ある。筆者らは,コガムシの個体数の減少には,卵のうを形成するために必要な水田内および畦畔雑草の減少が関与していると考えた。そこで,本種の保全を図るためにコガムシの産卵と雑草の関係を調査した。コガムシは主に畦畔の雑草の葉身を卵のう形成に用いた。平均卵のう数は,水田内区の0.5個/m^2に比べて畦畔隣接区で9.3個/m^2と有意に多かった。畦畔隣接区で確認された草種の18科40種のうち,11科16種が卵のう形成に利用された。Jacobsの選択指数から,生の選択指数を示す種(ツユクサ,クサヨシなど),畦畔辺によって正あるいは負の選択指数を示す種(ヤナギタデ,イヌタデなど),および負の選択指数を示す種(スズメノテッポウなど)に分類できた。卵のう形成に用いられた葉身の76%は,畦畔水際から30cmの範囲内に存在し,葉身の切除位置は水面下1cm〜水面であった。葉身の大きさは,長さ23mm〜34mm,幅9〜20mmの範囲に分布した。卵のう内の平均卵数は69〜81卵数を示し,草種ごとに大きな差は認められなかった。以上の結果を基に,卵のう形成に用いる草種の選択性および利用様式について考察するとともに,保全生物学的な観点から畦畔雑草の管理を考えた。