著者
西原 達次 辻澤 利行 礒田 隆聡 秋房 住郎 山下 喜久 清原 裕 飯田 三雄
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究事業では,歯周病原性細菌およびその病原因子(組織傷害性酵素,外毒素,内毒素),宿主組織内で産生される炎症性メディエーターおよびサイトカインの検出系の開発を進めてきた.まず,これまで開発してきたセンサチップを用いてヒトサンプルを測定し,そこで得られた成績の再現性および定量性を検証したところ,生体材料では.数マイクログラムのオーダーまで検出可能であることが明らかとなった.しかしながら,歯周病の病態を把握するためには,感度を向上させていかなければ実用化することは難しいと判断した.そこで,連携研究者である北九州市立大学・国際環境工学部・磯田隆聡准教授と意見交換を行い,センサチップの基板材料として金を用いることで感度の向上が図れないものかということを提案し,工学的な視点から様々な改良を試みた.さらに,歯周病細菌の検出系では,我々の研究グループが作成したモノクローナル抗体の性状を網羅的に解析し,抗体価および特異性の高いクローンを見出し,2種類の異なるエピトープを認識する抗体の組み合わせで,歯周病細菌を100cells/mlのオーダーで検出することができるようになった.今回の礒田准教授が開発した抗原抗体反応を利用したバイオセンサチップを用いることで,複数の歯周病細菌の検出が可能となったものの,生体材料から炎症性サイトカインを検出するという当初の目的に関しては,生体内の塩が静電誘導を基本原理とするセンサチップの感度向上の妨げとなることが判明した.そこで,最終年度は,静電誘導を基本原理とする測定方法に加えて,電気化学的あるいは蛍光法による測定機器の開発が必要であると判断し,他の工学系の研究者とともに,より再現性および感度の高い測定が可能性を探った.一方,ナノテクノロジーの技術活用し,歯周医学の視点に立った研究を進め,微小流路をマイクロチップ上に構築し,顕微鏡観察下で微細な流れを観察する実験系の構築に成功した.この実験系を活用し,歯周病と心筋梗塞の因果関係をin vitroの実験系で検討し,いくつかの興味ある実験結果を得ることができた.
著者
安細 敏弘 笠井 幸子 仲山 智恵 濱嵜 朋子 粟野 秀慈 秋房 住郎
出版者
KYUSHU DENTAL SOCIETY
雑誌
九州歯科学会雑誌 (ISSN:03686833)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.321-325, 2000-08-25 (Released:2017-12-20)
被引用文献数
2

リチウム電池内蔵電子歯ブラシ, 逆の電流回路を形成する電子歯ブラシ, 電子歯ブラシから電池を除去した歯ブラシのプラーク除去効果を評価することを目的として, 27名を対象に6週間の臨床試験を行った.その結果, リチウム電池内蔵電子歯ブラシは, 対照とした電池のない歯ブラシに対して有意にプラーク除去効果が認められた.逆の電流回路を形成する電子歯ブラシには有意なプラーク除去効果は認められなかった.これらの結果は, リチウム電池内蔵電子歯ブラシの植毛部がマイナスに帯電することによりプラーク除去効果が得られることを示している.
著者
福原 正代 安細 敏弘 高田 豊 秋房 住郎 園木 一男 竹原 直道 脇坂 正則
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

福岡県内在住の大正6年生まれ(1917)の人を対象に、80歳時に口腔と全身状態の調査をおこなった(福岡県8020調査)。福岡県8020調査の受診者を対象に、平成15年85歳時の口腔と全身状態の調査を施行した。口腔健診には、現在歯数、咀嚼能力を含む。咀嚼能力は15食品の咀嚼可能食品数で表現した(ピーナッツ、たくわん、堅焼きせんべい、フランスパン、ビーフステーキ、酢だこ、らっきょう、貝柱干物、するめ、イカ刺身、こんにゃく、ちくわ、ごはん、まぐろ刺身、うなぎ蒲焼き)。内科健診には、身長、体重、血圧、脈波伝播速度(PWV)、心電図、血液検査を含む。Mini-Mental State Examination(MMSE)を用い認知機能を調査した。現在歯数・咀嚼状態と、認知機能および動脈硬化の関係を検討した。受診者207名のうち205名(男性88名、女性117名)でMMSEを施行した。MMSE得点は23.8±0.3点(30点満点、平均±標準誤差)で、性差はない。MMSE得点は24点以上が正常とされるが、MMSE24点以上の達成率は62.4%。現在歯数は7.3±0.6本で、咀嚼可能食品数は10.7±0.3。MMSE得点と現在歯数の間には有意な相関はなかった。一方、MMSE得点と、咀嚼食品数の間には正の相関の傾向があった(相関係数0.12、p=0.08)。咀嚼食品数を0-4、5-9、10-14、15の4群にわけると、それぞれの群のMMSE得点は、22.7±1.3点、23.6±0.7点、23.9±0.5点、24.4±0.5点であった。PWVはMMSE正常群22.9±0.5m/sec、MMSE低下群24.9±0.8m/secで、有意にMMSE低下群で高値であった(p<0.05)。性別、BMI、収縮期血圧、PWV、脈圧、心電図SV1+RV5、総コレステロール、HbA1c、喫煙、飲酒、教育歴について、MMSE得点との単相関をとると、PWV、SV1+RV5、教育歴が有意となった。重回帰分析でもPWV、SV1+RV5、教育歴のみが有意な説明変数となった(p<0.05)。【結論】口腔衛生状況を改善し咀嚼能力を保つことで、認知症が少なくなる可能性が示唆された。仮に自分の歯がなくても、義歯をつけていれば、咀嚼できる食品数が多く、認知症が少なくなる可能性がある。また、85歳一般住民において、PWVは認知障害の独立した説明変数であった。PWVは動脈硬化性血管病変を反映するひとつの指標であるが、85歳という超高齢者においても、認知機能が、動脈硬化性血管病変の進行にともなって障害されると考えられた。