著者
園木 一男 高田 豊 藤澤 聖 福原 正代 脇坂 正則 黒川 英雄 高橋 哲 冨永 和宏 福田 仁一
出版者
九州歯科学会
雑誌
九州歯科学会総会抄録プログラム 第65回九州歯科学会総会
巻号頁・発行日
pp.16, 2005 (Released:2006-06-25)

グレリンは、胃から分泌される消化管ホルモンであり、ヒトの摂食行動、エネルギー代謝に深く関与しているホルモンである。一方、口腔外科では術後に経鼻経管栄養が行われているが、この摂食形態は咀嚼することなく栄養摂取ができるもので、無歯顎者の摂食形態に類似していると思われる。そこで摂食形態の変化がグレリン分泌に影響するのか検討するため、入院患者の血中グレリン濃度を術前の経口摂取時と術後の経鼻経管時で比較した。対象者は女性5名、男性1名である(平均年齢53.0歳)。朝食前のグレリン濃度を経口摂取時と経鼻経管栄養時で比較すると、経鼻経管栄養時で有意に低下した(経口時175.5±72.8 (mean±SD) fmol/ml vs 経鼻経管栄養時113.7±42.5 fmol/ml, p‹0.05)。朝食後2時間後のグレリン値は朝食前より低下するが、経口摂取時の朝食後2時間後のグレリン値と経鼻経管栄養時の朝食前のグレリン値はほぼ同程度であった。経鼻経管栄養はグレリン分泌を抑制させる機序があるものと考えられ、咀嚼なしに摂食することは、グレリン低下を介して代謝の面から全身状態と密接に関係している可能性が示唆された。
著者
福原 正代 安細 敏弘 高田 豊 秋房 住郎 園木 一男 竹原 直道 脇坂 正則
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

福岡県内在住の大正6年生まれ(1917)の人を対象に、80歳時に口腔と全身状態の調査をおこなった(福岡県8020調査)。福岡県8020調査の受診者を対象に、平成15年85歳時の口腔と全身状態の調査を施行した。口腔健診には、現在歯数、咀嚼能力を含む。咀嚼能力は15食品の咀嚼可能食品数で表現した(ピーナッツ、たくわん、堅焼きせんべい、フランスパン、ビーフステーキ、酢だこ、らっきょう、貝柱干物、するめ、イカ刺身、こんにゃく、ちくわ、ごはん、まぐろ刺身、うなぎ蒲焼き)。内科健診には、身長、体重、血圧、脈波伝播速度(PWV)、心電図、血液検査を含む。Mini-Mental State Examination(MMSE)を用い認知機能を調査した。現在歯数・咀嚼状態と、認知機能および動脈硬化の関係を検討した。受診者207名のうち205名(男性88名、女性117名)でMMSEを施行した。MMSE得点は23.8±0.3点(30点満点、平均±標準誤差)で、性差はない。MMSE得点は24点以上が正常とされるが、MMSE24点以上の達成率は62.4%。現在歯数は7.3±0.6本で、咀嚼可能食品数は10.7±0.3。MMSE得点と現在歯数の間には有意な相関はなかった。一方、MMSE得点と、咀嚼食品数の間には正の相関の傾向があった(相関係数0.12、p=0.08)。咀嚼食品数を0-4、5-9、10-14、15の4群にわけると、それぞれの群のMMSE得点は、22.7±1.3点、23.6±0.7点、23.9±0.5点、24.4±0.5点であった。PWVはMMSE正常群22.9±0.5m/sec、MMSE低下群24.9±0.8m/secで、有意にMMSE低下群で高値であった(p<0.05)。性別、BMI、収縮期血圧、PWV、脈圧、心電図SV1+RV5、総コレステロール、HbA1c、喫煙、飲酒、教育歴について、MMSE得点との単相関をとると、PWV、SV1+RV5、教育歴が有意となった。重回帰分析でもPWV、SV1+RV5、教育歴のみが有意な説明変数となった(p<0.05)。【結論】口腔衛生状況を改善し咀嚼能力を保つことで、認知症が少なくなる可能性が示唆された。仮に自分の歯がなくても、義歯をつけていれば、咀嚼できる食品数が多く、認知症が少なくなる可能性がある。また、85歳一般住民において、PWVは認知障害の独立した説明変数であった。PWVは動脈硬化性血管病変を反映するひとつの指標であるが、85歳という超高齢者においても、認知機能が、動脈硬化性血管病変の進行にともなって障害されると考えられた。