著者
竹下 徹 山下 喜久
出版者
日本乳酸菌学会
雑誌
日本乳酸菌学会誌 (ISSN:1343327X)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.3-9, 2016-03-15 (Released:2017-04-26)
参考文献数
19
被引用文献数
4 2

口腔には膨大な数の常在微生物が他の微生物や宿主と相互作用しながら複雑な生態系を構築し生息している。近年の細菌 DNA を利用した網羅的細菌群集解析手法の確立と発展によりその全体像を容易に把握することが可能になり、様々な健康状態における口腔常在微生物叢(マイクロバイオータ)の構成の特徴が報告されてきている。本総説では我々の研究成果を中心にこれまでに得られた知見を紹介しながら、口腔マイクロバイオータの捉え方について検討するとともに口腔マイクロバイオータと健康との関連について概説する。
著者
矢田部 尚子 古田 美智子 竹内 研時 須磨 紫乃 渕田 慎也 山本 龍生 山下 喜久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.68, no.2, pp.92-100, 2018 (Released:2018-05-18)
参考文献数
10

歯周疾患検診は平成7年度より老人保健事業の総合健康診査の一環として行われ,平成12年度からは独立した検診として40歳および50歳の者を対象に実施された.平成16年度から対象者が60歳と70歳にも拡大された.現在,歯周疾患検診の受診率は公表されておらず,受診率の実態が把握できない状況である.今回われわれは,歯周疾患検診の受診率を推定し,その推移と地域差について検討した. 平成12~27年度地域保健・健康増進事業報告の歯周疾患検診受診者数と住民基本台帳人口を用いて,歯周疾患検診受診率を試算した.全国値は平成12年度が1.27%,平成17年度が2.74%,平成22年度が3.34%,平成27年度が4.30%であった.都道府県別にみると,平成27年度で最も受診率が高い県では13.33%,最も低い県では0.34%で,都道府県で受診率は大きく異なっていた.都道府県別の受診率と社会・人口統計学的要因の関連性を調べた結果,歯科健診・保健指導延人員が多い,家計に占められる保健医療費割合が高い,貯蓄現在高が多い都道府県で受診率が高かった. 近年,全体の受診率は微増しているが,地域差は拡大している状況である.今後,受診率が低い地域は高い地域の取り組みを参考にすることにより,全体の受診率はさらに向上する可能性があると考えられる.
著者
西原 達次 辻澤 利行 礒田 隆聡 秋房 住郎 山下 喜久 清原 裕 飯田 三雄
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2008

本研究事業では,歯周病原性細菌およびその病原因子(組織傷害性酵素,外毒素,内毒素),宿主組織内で産生される炎症性メディエーターおよびサイトカインの検出系の開発を進めてきた.まず,これまで開発してきたセンサチップを用いてヒトサンプルを測定し,そこで得られた成績の再現性および定量性を検証したところ,生体材料では.数マイクログラムのオーダーまで検出可能であることが明らかとなった.しかしながら,歯周病の病態を把握するためには,感度を向上させていかなければ実用化することは難しいと判断した.そこで,連携研究者である北九州市立大学・国際環境工学部・磯田隆聡准教授と意見交換を行い,センサチップの基板材料として金を用いることで感度の向上が図れないものかということを提案し,工学的な視点から様々な改良を試みた.さらに,歯周病細菌の検出系では,我々の研究グループが作成したモノクローナル抗体の性状を網羅的に解析し,抗体価および特異性の高いクローンを見出し,2種類の異なるエピトープを認識する抗体の組み合わせで,歯周病細菌を100cells/mlのオーダーで検出することができるようになった.今回の礒田准教授が開発した抗原抗体反応を利用したバイオセンサチップを用いることで,複数の歯周病細菌の検出が可能となったものの,生体材料から炎症性サイトカインを検出するという当初の目的に関しては,生体内の塩が静電誘導を基本原理とするセンサチップの感度向上の妨げとなることが判明した.そこで,最終年度は,静電誘導を基本原理とする測定方法に加えて,電気化学的あるいは蛍光法による測定機器の開発が必要であると判断し,他の工学系の研究者とともに,より再現性および感度の高い測定が可能性を探った.一方,ナノテクノロジーの技術活用し,歯周医学の視点に立った研究を進め,微小流路をマイクロチップ上に構築し,顕微鏡観察下で微細な流れを観察する実験系の構築に成功した.この実験系を活用し,歯周病と心筋梗塞の因果関係をin vitroの実験系で検討し,いくつかの興味ある実験結果を得ることができた.
著者
嶋崎 義浩 齋藤 俊行 山下 喜久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.192-197, 2006-04-30 (Released:2018-03-23)
参考文献数
16
被引用文献数
2

老人保健法による歯周疾患検診を想定し,歯周ポケット保有者をCPIを用いた部分診査法で検出する有効性を検討することを研究目的とした.対象は,九州大学病院口腔ケア・予防科受診患者のうち20歯以上歯がある者とした.全顎の歯周ポケット診査結果から4mm以上の歯周ポケットを1歯以上もつ歯周ポケット保有者をCPIコードを用いて検出した場合と,全顎診査法によって検出した場合との一致率を求めた.その結果,CPI代表歯10歯の診査で個人コード3以上を歯周ポケット保有者として検出した場合,全顎診査法との一致率は97.2%であった.老人保健法による歯周疾患検診の基準と全顎診査法との一致率は88.9%であった.検査を簡略化するために臼歯部4分画のなかで第二大臼歯だけを対象とした方法では,全顎診査法との一致率が93.1%であった.また, CPI代表歯10歯の診査でCPIコード3以上の分画数と歯周ポケット4mm以上の歯数との関係を調べたところ,コード3以上の分画数が増えるに従って歯周ポケット保有歯数が増え,CPIの結果から歯周疾患の広がりの程度を示すことができた.これらのことから,CPIを用いた歯周ポケット保有者の検出は,全顎診査法との一致率が高いことが示唆された.また,実際の検診で時間的な制約がある場合には,CPIをさらに簡略化できる可能性が示唆された.
著者
山下 喜久
出版者
一般社団法人 日本ヘルスケア歯科学会
雑誌
日本ヘルスケア歯科学会誌 (ISSN:21871760)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.20-26, 2021 (Released:2022-03-23)
参考文献数
16

唾液中には口腔の様々なニッチ(隙間)に由来する細菌種が検出される.歯周ポケットもそのニッチの一つであり,歯周病の進行に伴い,増殖した歯周ポケット特異細菌が唾液中に増加することが考えられる.このような仮説に立ち,唾液を検体として11細菌種からなる歯周ポケット特異細菌の唾液細菌叢中の比率と歯周病との関係を次世代シーケンサーによる解析結果に基づき調べた.その結果,歯周ポケット特異細菌の唾液細菌叢中の比率のカットオフ値を0.139%とすることで,深さ4mm以上の歯周ポケットが10~15部位以上ある歯周病患者を感度0.88,特異度0.7程度で検出できた.これまで,歯周病患者を集団検診の場でスクリーニングする際には,歯周プローブで歯周ポケットの深さを手間と時間を掛けて診査する必要があったが,以上の結果から,従来の歯周病検査に代わって唾液を検体とした細菌検査が歯周病患者の新たなスクリーニング法になることが期待される.
著者
豊嶋 優子 齋藤 俊行 嶋崎 義浩 山下 喜久
出版者
一般社団法人 口腔衛生学会
雑誌
口腔衛生学会雑誌 (ISSN:00232831)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.156-160, 2006
参考文献数
12
被引用文献数
1

某プロ野球球団に所属する選手84名を対象に,歯と歯周組織の診査,および咬合圧測定用感圧フィルムを用いた咬合力や咬合の左右のバランスの測定を行った.本研究では,咬合状態と歯や歯周組織の状態との関連性について調べた.対象者の1人平均DMF歯数は,歯科疾患実態調査における同年齢層とほぼ同様であった.咬合状態とDMF歯数との関連については,D歯数やM歯数が多いほど総咬合面積や総咬合力は小さく,平均圧力は大きい傾向にあった.特にC_4 の歯数と総咬合力との間には,有意な負の相関関係が認められた(r=-0.225, p<0.05).咬合状態の左右のバランスについて調べたところ,片側のみにD歯のある着では,齲蝕側は健康側に比べ総咬合面積(p=0.01)と総咬合力(p=0.02)が有意に小さく,最大圧力(p=0.03)は有意に大きかった.このことから,齲蝕が左右側の片側のみに存在する場合,齲蝕側の咬合面積が減少する一方で,咬合圧は増加し,齲蝕側に負担加重を生じる可能性が示唆された.
著者
安細 敏弘 宮﨑 秀夫 吉田 明弘 山下 喜久 邵 仁浩 粟野 秀慈
出版者
九州歯科大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2012-04-01

侵襲性歯周炎は若年者に特異的に発症する歯周炎であるが、発症に関して環境要因としての栄養摂取状況、遺伝学的要因などを包括的に解明した研究はない。本研究では疫学調査ならびに遺伝学的調査を行うことによりその環境要因を解明することにした。疫学的調査ではモロッコ王立大学の1年生を対象に、口腔内診査、唾液・歯肉縁下プラークの採取、採血、質問紙調査(年齢、性別、社会経済的背景、現病歴、既往歴、服薬情報、喫煙習慣、保健行動、食事内容(BDHQに準じる)とした。遺伝学的研究では侵襲性歯周炎が疑われる歯肉縁下プラークのA. a JP2株の有無、血球ミトコンドリアDNAの塩基配列を用いた分子人類学的解析を行った。