著者
稲泉 三丸
出版者
日本応用動物昆虫学会
雑誌
日本応用動物昆虫学会誌 (ISSN:00214914)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.29-38, 1970-03-25 (Released:2009-02-12)
参考文献数
17
被引用文献数
4 5

従来,わが国のワタアブラムシは卵態でクサギ,ムラサキシキブ,ムクゲに越冬することが知られていたが,筆者は胎生雌越冬もすることを確かめた。また,クサギ,ムラサキシキブに卵を産むアブラムシはワタアブラムシとは異なる,ほかのAphisの1種であることをつきとめた。さらに,卵越冬する植物として,アカネ,ツルウメモドキ,クロウメモドキを,胎生雌越冬する植物として,オオイヌノフグリ,タチイヌノグリ,イヌノフグリ,ナズナ,タチアオイ,キク,イチゴ,オオバコなどを記載した。また,野外について,これらの冬寄主上に春はじめて有翅虫の羽化する時期と,中間寄主へはじめて有翅虫の飛来する時期とを調査し,その結果からワタアブラムシの冬から夏にかけての伝播の経路を推察した。そのほか,世界各地のワタアブラムシの越冬法についての知見をもとにして,卵および胎生雌越冬と気候,地理との関係を論じた。
著者
稲泉 三丸
出版者
[宇都宮大学農学部]
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.28-66, 2000 (Released:2011-03-05)
著者
小林 隆人 稲泉 三丸
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.20-30, 2003-01-10

オオムラサキの幼虫の越冬期の死亡率とその要因を明らかにする試みの一つとして,栃木県真岡市において1999年11月下旬から2000年3月末にかけて以下の実験を行った.幼虫が越冬している林床の枯葉に,天敵の捕食活動を防止するための1mm,5mm,40mmメッシュのネットを地表に被せた区,風などの物理的要因による枯葉の移動を防ぐために枯葉に重りをつけた区,および無処理区を設けた.いずれの区においても死亡個体数は11月下旬から12月末までは少なかったが,越年後の1-2月には増加した.調査終了時のこれら5つの試験区での幼虫の生存率は64-70%で,全ての調査日において試験区間の生存率の差は有意でなかった.ペンキで標識を付けた枯葉に,越冬幼虫1個体,2個体,3個体に相当する重りをつけ,11月下旬に林床に設置し,翌年3月に再確認したところ,枯葉はすべて設置した地点から見つかった.調査期間中の真岡市における最低気温は-9.3℃,12月の最低気温は-8℃であった.越冬期前半(12月)の越冬幼虫を室温5℃から-5,-10℃まで徐々に低下させた条件,あるいは急激に低下させた条件に置いた場合の生存率はいずれも90%以上の高い値を示し,処理間で有意な差はなかった.幼虫が越冬する枯葉に対する給水頻度を実験的に変えたところ,毎日,4日に1度,7日に1度,15日に1度の間隔で給水した区での幼虫の生存率は高い値を維持したが,30日に1度の給水区,および全く給水しなかった区では,3月初めより他の区に比べ有意に低くなった.野外において幼虫の死亡率を調べた期間において1日当たり10mmを越える降水があった日は1月上旬と3月中-下旬に限られ,20日以上の間降水がない期間が3回あった.以上の結果から,越冬期に捕食者によって死亡するオオムラサキ幼虫の個体数,枯葉の移動による幼虫の消失数は少なく,低温による死亡数も越冬期前半に関しては少ないと考えられた.本種幼虫の越冬期の死亡要因の1つとして枯葉に対する給水頻度が働いている可能性が示唆された.
著者
稲泉 三丸
出版者
東京昆蟲學會
雑誌
昆蟲
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.219-240, 1981
被引用文献数
3

春季および秋季における越冬寄主と中間寄主間で有翅虫を移す飼育実験, 秋季における中間寄主上の無翅虫の個体飼育による両性生殖個体の出現経過に関する実験, 秋季の気象条件下における卵越冬個体と胎生雌越冬個体の飼育実験, 周年にわたる野外観察, などの結果から総合的に判断して, ワタアブラムシは次の四つのバイオタイプがあると考えられた.1)秋季になっても両性生殖個体はまったく出現しないで, オオイヌノフグリやナズナなどの雑草類で胎生雌のまま越冬する不完全生活環; 2)ムクゲを主寄主とする完全生活環で, この中にはムクゲだけで周年経過するものと, コスモスやヒャクニチソウなどを中間寄主として寄主転換するものが含まれる; 3)クロツバラやクロウメモドキ, ツルウメモドキを主寄主として, サトイモやツユクサなどの中間寄主の間を行き来する完全生活環; 4)アカネだけで周年経過する非移住型の完全生活環.
著者
奥田 誠一 前田 忠信 松澤 康男 稲泉 三丸 福井 糧 菅原 邦生
出版者
宇都宮大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

1.環境保全型農業に関する研究:病害虫防除のための新技術開発のため,有用土壌微生物を利用した土壌病害の防除法を検討するとともに,害虫の生息種及び生態について比較研究した.在来家畜の飼養管理技術に関して,卵用の在来種である紹興鴨種畜場を調査した.飼料は専用の配合飼料と川に生えているホテイアオイなどを用い,排泄物は川に流すという粗放的であるが,立地条件を生かした飼養管理を行い,3人で8000羽を管理していた.現状では環境保全型農業に近い方式であるが,多数羽飼育が求められたときの対応は今後の課題である.2.遺伝資源の開発と利用に関する研究:イネの多収技術,高品質化に関わるハイブリツドライスについて,中国では既に作付の約50%がハイブリッド品種で占められており,籾収量で1t/10a以上のかなりの多収が予想される.採種のために,細胞質雄性不稔維持系統を4列,回復系統を1列の5列-1m幅で繰返し栽植され,種子収量は150〜300kg/10a程度であるので1/100〜1/200の採種圃場が必要と推定される.浙江省から安徽省にかけての河川沿いの中山間地〜山間地では,河川敷から緩やかな斜面における水田と山の裾野部の畑にトウモロコシ,大豆,サツマイモが栽培され,トウモロコシの後に麦を入れ3年4作の輸作体系が取られ,農家の自給食糧を持続的に確保し得る生産方式が認められた.その他,ゴマ,ヘチマ,小菊(薬用茶)などの作付もあり,茶は近年の輸出用茶の需要拡大に伴い新植園が多く,きつい斜面でも開墾されていた.