著者
松木 邦裕 大山 泰宏 立木 康介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

日本の精神力動的心理療法のトレーニングの質を高めるための具体的な方策を検討すべく,米国,ドイツ,イギリス,フランスの力動的心理療法家養成のシステムおよびその実態に関して,養成に関わる人物の招聘やシンポジウム,および研究者による現地の訪問での参与観察や資料の収集を行ない,日本におけるトレーニングの問題点を明らかにした。とりわけ日本では,スーパービジョンや実地研修の不足,事例を見立てる上での構造の不在が指摘された。そして,日本の文化的文脈等を自覚化しつつ,その改善の方向を具体的に討議し,より適切な訓練のモデルを構想した。また,見立て,臨床像記述の方法論等を検討し,実際の訓練に適用した。
著者
立木 康介 TAJAN NICOLAS
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2015-04-24

本研究の目的は、身体的および心理学的な「傷」(traumaというギリシャ語はもともと身体的な傷を意味する)が文明の発展に及ぼした影響、もしくは果たした役割を明らかにすることである。歴史的文書、出版された文献、ならびにフィールド・インタビューを中心とする一次資料の調査を通じて、人文学、社会科学、生物科学、及びエンジニアリング(研究開発)といった諸分野のあいだの学際的対話を促進することが目指された。本研究の実施は、当初の計画からいくぶん変更されたものの、基本的な方向性や枠組みは一貫しており、多様な歴史的時代、および文化的地域を扱った。とはいえ、他の研究者たちの視点と向き合うことで、本研究の焦点の精度は上がり、今年度、本研究は五つのサブテーマに沿って組織し直され、そのそれぞれについて、文献学的、臨床的、および民族誌的方法を用いて、文献調査およびフィールド調査を行った。五つのサブテーマは、具体的には以下の通りである:1/ 西洋古代(ギリシャ・ローマ)における狂気とトラウマ:古代人はトラウマ的記憶を知っていたのか? 2/ フランス革命時の「大恐怖」から神経学臨床の誕生に至る、政治的暴力とトラウマ。3/ ショアーの記憶と世代横断的トラウマ。4/ 現代ヨーロッパにおける戦争トラウマのポリフォニー:フランス退役軍人のPTSDとテロ攻撃の犠牲者。5/ 社会的ひきこもりのトラウマ的特徴:日本のひきこもり患者とその家族の研究。これらのサブテーマは、外国人研究者が2019年の刊行を目指して目下準備している英文著書の五つの章をそれぞれ構成するだろう。プロジェクト全体では、三冊の著書を含む18本の成果が出版される予定である。
著者
立木 康介
出版者
京都大学大学院人間・環境学研究科 文化人類学分野
雑誌
コンタクト・ゾーン = Contact zone (ISSN:21885974)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2019, pp.290-303, 2019-08-31

精神分析がめざすのは、「ナラティヴ」を構築することではない。反対に、ひとつの物語が隙なく語られれば語られるほど、精神分析家はますますそれに用心する。そのような語りはfadenscheinig、すなわち「見え透いている」とフロイトは述べた。ジャック・ラカンが繰りかえし強調したように、治療のなかでわれわれに作業させるもの、いや、より単純に、(それじたいが)作業するもの、それはパロール(話すこと、話された言葉)にほかならない。ラカンによれば、治療においては「パロールがすべての力〔権力、pouvoirs〕を、すなわち治療の特別な力を握る」。なぜなら、無意識はパロールを通るからだ。といっても、その道筋は無数にあるわけではない。無意識が、いや無意識の「一端」がパロールのなかに顕れるとき、そこにはひび割れや歪みが生じ、その結果、パロールは形が崩れ、壊され、ひどく理解しづらくなって、言い間違いや意味の揺れ(équivoque)として感知されるだろう。 無意識の読解は、こうした微細なひずみに注意を留めることからはじまる。これらのひずみは、無意識がシニフィアンの連なりをくぐったことの痕跡なのだから。Faire un récit (making a narrative ou storytelling) ne fait pas partie de l'objectif d'une psychanalyse. Au contraire, mieux un récit se raconte, plus le psychanalyste s'en méfie : un tel récit paraît fadenscheinig, louche, disait Freud. Comme Jacques Lacan n'a cessé de souligner, ce qui fait travailler, ou mieux : ce qui travaille, tout simplement, dans la psychanalyse, c'est la parole. Lacan affirme que dans la cure, <<la parole a tous les pouvoirs, les pouvoirs spéciaux de la cure>>. C'est parce que l'inconscient passe par la parole. Mais pas de n'importe quelle façon. Quand l'inconscient, ou un <<bout>> de l'inconscient s'y manifeste, cela produit une fissure ou une torsion dans la parole, de sorte que celle-ci est déformée, brisée, donc devient difficilement saisissable, comme en lapsus, ou en équivoque. Lire l'inconscient commence par être sensible à ces menues traces de son passage dans le défilée du signifiant.
著者
ペリー・Jr. エドマンド・ウォーレン 立木 康介
出版者
京都大學人文科學研究所
雑誌
人文學報 (ISSN:04490274)
巻号頁・発行日
vol.110, pp.311-343, 2017-07-31

立木康介 訳時に, 歴史的過程は, 神話や伝承, そして叙事詩的ストーリーテリングに伝統的に見られる諸サイクルに流れ込む。ジョーゼフ・キャンベルがその先導的著作『千の顔をもつ英雄』のなかで英雄のサイクル--離別, イニシエーション, 帰還--を記述するとき, 明らかになるのは, イエズス・キリストやアーサー王, そして文学史全体にわたる何万もの, とはいわないまでも, 何百もの英雄たちの物語に合致するひとつのパターンである。これらの英雄たちの旅路は, 彼らの立身へと通じる数々の試練と闘いの単神話的セットにほかならない。エルヴィス・プレスリーの社会的上昇, 彼のライフスタイルのある意味で夢幻的な物語, 彼の早すぎる死, そして, 私たちが彼を記念すること, そうしたことすべてが組み合わさって, ジョーゼフ・キャンベルの英雄サイクル理論のパターンを用意する。つまり, 実在する人物であるエルヴィスは, 生前から, そして死後にも, 非実在的で変形力をもつアメリカ的神話になるのである。世間的人気とは比較的うつろいやすい現象であるのにたいし, エルヴィスのキャリアとその死後のキャリアに伴う反響は, 年々大きくなり, けっして衰えを見せない。エルヴィス・プレスリーの顔は, 人類史全体のなかで最も認知度の高い人間のイメージである可能性がきわめて高い。エルヴィスの人気の異例さは, エルヴィスの名声の「いかに」と「なぜ」, そして, 21世紀に入っても変わらぬ彼のイメージの増殖の秘密を, 私たちが吟味するよう促さずにはおかない。本稿はまたとくに, 死後のエルヴィスの歴史文献学とエルヴィス神話の進化を提示するものである。Sometimes historical processes feed into cycles traditionally seen in myth, lore, and epicstyle storytelling. When Joseph Campbell, in his seminal work Hero With a ThousandFaces, describes the cycle of the hero̶separation, initiation, and return̶Campbell is describing a pattern that fits the epic cycle of the stories of Jesus Christ, King Arthur, and hundreds, if not tens of thousands, of heroes throughout literary history. The journey of these heroes is the monomythic set of trials and battles that lead to the rise of these heroes. The ascent of Elvis Presley and the somewhat fantastic tales of his lifestyle, his untimely death, and our memorializing of him all combine to serve the pattern of Joseph Campbellʼs theory of the cycle of the hero. That is, Elvis, the real man, becomes in his lifetime and after his death, an unreal and transformative American myth. While celebrity is a relatively ephemeral phenomenon, Elvisʼs career and his post-mortem career carry a resonance which increase yearly and have never suffered decay. It is quite possible that Elvis Presleyʼs face is the most recognizable human image in the entire history of man. The unusual nature of Elvisʼs celebrity prompts us to examine the how and why of Elvisʼs fame and the proliferation of his image well into the 21st century. This paper will also specifically address the historiography of the post-modern Elvis and the evolution of the Elvis myth.
著者
立木 康介
出版者
三田文学会 ; 1985-
雑誌
三田文学. [第3期]
巻号頁・発行日
vol.95, no.126, pp.220-233, 2016
著者
立木 康介
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

啓蒙の時代を代表するカントとサドを西洋倫理思想の歴史的展開のなかに位置づけるジャック・ラカンの観点に依拠し、プラトン、アリストテレスから、エピクロス派、ストア派を経由し、18世紀のリベルタン思想にまで流れ込むヘドニズムの伝統と、カントとサドによってもたらされたその転覆の意義とが明るみに出された。