著者
竹中 克久
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.36-51, 2002-09-30 (Released:2009-10-19)
参考文献数
25

本稿では組織文化に関する2つの理論について言及する.1つは組織文化論であり, もう1つは組織シンボリズムである.双方とも「組織文化」という対象を共有しているにもかかわらず, そのアプローチにおいて著しい差異を示している.一方は組織成員の基本的仮定としての組織文化に着目し, 他方は組織文化を成員, 非成員を問わず当事者による解釈の対象としてのシンボルとみなす.前者についてはE.H.シャインの議論を, 後者についてはM. J.ハッチの議論を手がかりに分析する.結論としては, 筆者の立脚するスタンスは組織シンボリズムのそれに近い.組織文化のレベルに関しては, 基本的仮定のレベルよりシンボルとしての人工物のレベルを, 文化への関与に関しては, 特権的なリーダーより非特権的なフォロワーの視点をそれぞれ重視する.また, 組織文化論が組織と組織文化を合理性/非合理性という基準で明確に区分して位置づけるのに対し, 組織シンボリズムは組織それ自体を非合理的なシンボルとして考察するという視座を提起しており, 本稿でもこの見解を支持する.このような組織シンボリズムの視座は, これまで明確に理論化されてはこなかった, 組織アイデンティティやコーポレート・アイデンティティの分析に有効性をもつばかりでなく, 組織論の伝統的テーマであるリーダーシップ論や官僚制の逆機能, 組織変動の難しさの解明に新たな知見をもたらすものである.
著者
竹中 克久
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.107-119, 2017 (Released:2020-03-09)

本稿は、批判的経営研究(Critical Management Studies [CMS])を、組織文化研究のオルタナティブとして正当に位置づける試みである。そのために、既存の組織文化研究を4つのセルに分類し、CMSによる組織文化研究の意義と可能性を強調する。組織文化は一般的に“組織成員によって内面化され共有された価値、規範、信念のセット”と考えられてきた。そこでは、企業をはじめとした組織の競争力の源泉として、組織文化がもたらす忠誠心の強さや組織成員の一体感が強調される事が多かった。その後、E. H. シャインにより、組織文化概念の重層的なモデルが示されることによって、過度の実践性は薄れ、理論の科学化・精緻化が進んでいった。その後、このモデルは組織シンボリズムのG. モーガンや、組織美学のP. ガリアルディらによる批判を経て、組織文化は組織成員によるシンボルの多様な解釈の対象として位置づけられた。 このような組織文化に対して懐疑的なアプローチをとるのが本稿で詳述するCMSの立場である。M. アルベッソンを嚆矢とするCMSは、文化が権力者によって強制的に組織成員にすり込まれることによって、自らの組織文化を当然視し、神格化し、果てにはその組織文化に強く依存するメンバーである文化中毒者(cultural dopes)を産み出す危険性を指摘する。文化中毒者は、既存の文化を本質的で合理的かつ自明のものとみなし、ほかのオルタナティブな社会的現実を作り出すことを控える(Alvesson [2001] 2013: 153)。昨今、企業をはじめとした組織の不祥事は後を絶たない。その原因に組織文化があることが指摘される場合が多いが、CMSを除く既存の組織文化研究では組織文化の「負」の側面についてアプローチできないことを本稿において明らかにする。
著者
竹中 克久
出版者
The Academic Association for Organizational Science
雑誌
組織学会大会論文集 (ISSN:21868530)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.489-494, 2018 (Released:2018-12-27)
参考文献数
16

In the organizational science, it is necessary to approach the complexity of the object of organization by an interdisciplinary approach such as business administration and sociology. However, has recent "organizational science" been able to play its function appropriately? In this paper, we focus on "organizational culture" as a point where business administration and sociology "reunite" and return to the fundamental question, "what is organization", again. Organizational culture studies are is filled with diversity similarly to organizational studies. It has been shared between researchers of organizations that diversity of organizational research was clarified by the research of G. Burrell & G. Morgan in 1979. However, they crossed the two dimensions of subjective-objective, regulation-radical change, suggesting that subjective and radical change organization studies were still in a germinating stage. Despite the potentiality in a name of "anti-organization theory", they pointed out that the subjective and radical change-oriented research indicated that it was not found at all in organizational research based on sociology back then. In this paper, possible organizational culture studies are clarified while reconfirming significance of their schema. For that purpose, we refer to the concept of cultural dopes advocated by Critical management studies(CMS).
著者
竹中 克久
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.181-196, 2002-09-30

本稿では組織文化に関する2つの理論について言及する.1つは組織文化論であり, もう1つは組織シンボリズムである.双方とも「組織文化」という対象を共有しているにもかかわらず, そのアプローチにおいて著しい差異を示している.一方は組織成員の基本的仮定としての組織文化に着目し, 他方は組織文化を成員, 非成員を問わず当事者による解釈の対象としてのシンボルとみなす.前者についてはE.H.シャインの議論を, 後者についてはM. J.ハッチの議論を手がかりに分析する.<BR>結論としては, 筆者の立脚するスタンスは組織シンボリズムのそれに近い.組織文化のレベルに関しては, 基本的仮定のレベルよりシンボルとしての人工物のレベルを, 文化への関与に関しては, 特権的なリーダーより非特権的なフォロワーの視点をそれぞれ重視する.また, 組織文化論が組織と組織文化を合理性/非合理性という基準で明確に区分して位置づけるのに対し, 組織シンボリズムは組織それ自体を非合理的なシンボルとして考察するという視座を提起しており, 本稿でもこの見解を支持する.<BR>このような組織シンボリズムの視座は, これまで明確に理論化されてはこなかった, 組織アイデンティティやコーポレート・アイデンティティの分析に有効性をもつばかりでなく, 組織論の伝統的テーマであるリーダーシップ論や官僚制の逆機能, 組織変動の難しさの解明に新たな知見をもたらすものである.
著者
竹中 克久
出版者
日本社会学会
雑誌
社会学評論 (ISSN:00215414)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.780-796, 2006-03-31

本稿では, 組織戦略という概念に焦点をあて, 社会学的な見地からアプローチを試みる.組織戦略概念は組織を軍隊に喩えることから提起された概念であり, 市場という環境のなかで組織がほかの組織と合理的に争う側面を分析するために提起されたものである.ただ, 戦略概念の登場とその発展とともに, それを専門とするディシプリンとして戦略論という学問分野が独立したため, 組織戦略について論じつつも, 組織が主題となることは少ない.また, この概念は組織の経済的な競争という側面を重視するものであるために, 自ずと経済学や経営学からのアプローチが支配的であり, 社会学からのアプローチはほぼ皆無であるといっても過言ではない.ところが, 今日の社会状況に鑑みれば, むしろ社会学的な見地から, この組織戦略概念を再考することの意義ならびに社会からの要請があるように思われる.<BR>そこで本稿では, 戦略概念に代替可能な概念を模索する.その1つは企業倫理であり, もう1つはアカウンタビリティである.とりわけ本稿では後者を支持し, その概念の有効性を合理性ではなく<理解可能性>という基準で立証することを試みる.その際に参考となるのが, 近年着目されている組織アイデンティティや表出的組織という概念である.<BR>このような視座に立つことで, 現代組織にとっての新たなレゾン・デートルを提起できるとかんがえられる.