- 著者
-
竹尾 治一郎
- 出版者
- 関西大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1986
1.フランツ・ブレンターノおよびブレンターノ学派の哲学の一般的特徴は、客観主義的実在論である。これとは対照的に、時代を同じくするもう一人の重要なオーストリアの哲学者であるエルンスト・マッハの科学哲学における実証主義は主観主義的傾向を代表する。これらの思想の間の緊張関係を、バートランド・ラッセルの1910年代の現象論から同20年代の中性的一元論への移行に注意を払ひながら、これとの関連において研究した。2.ブレンターノにおける、「志向的内在」の概念による心的現象の特徴づけ、および彼自身によるこの見解の否認に到る経過を跡づけた。更にブレンターノによる心的現象の分類と、これに基づく哲学の諸領域の区分を明瞭にした。また一方、心的現象についてのブレンターノのもとの見解が、マイノングの対象論においてどのやうに発展せしめられたかを、その主要な論点について追求した。その上で、ブレンターノとマイノングの存在論,認識論,倫理学の思想を比較研究した。3.マイノングとラッセルの論争をふり返り、それを通じてマイノングの対象論を、現代のたいていの論理学者によって受け容れられてゐる存在論に照らして検討した。その際、クワインやフリー・ロジックの研究者達の存在論的立場とマイノングのそれとの相違を明らかにした。われわれはなぜマイノングが彼の対象論において非有の対象を認めざるをえないと考へたか、またさうした(非有の)対象がわれわれの観点からどのやうに評価されるかを考察した。われわれはまた、ブレンターノ,G・E,ムーア,ラッセル,新実在論者といったオーストリアと英米の哲学者達が、いはゆる「主観主義の論証」を構成する各命題にどのやうに反応したかを考察し、観念論的認識論に対する彼等の個別的な反論がいかなる主張を含むかを明らかにした。