- 著者
-
笠井 俊和
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究は、数量的な貿易研究と船乗りの社会史研究を融合することで、近世の大西洋上に展開したヒトとモノのネットワークの実像を明らかにすることを目的としている。年度の前半には、若尾祐司・和田光弘編『歴史の場-史跡・記念碑・記憶-』(ミネルヴァ書房)が刊行され、ジャマイカの港町ポートロイヤルを俎上に乗せた拙稿「海賊の息づく港町ポートロイヤル」が所収されている。同稿では、海賊を議論の軸に据えながら、本研究のテーマである貿易と密貿易、町を訪れる船乗りについて、一時史料をもとに詳述している。また、研究の基盤となる作業は、前年度に引き続き、イギリス領アメリカ植民地の主要港を出入りした船舶のリスト(海事局船舶簿)のデータベース化であり、ボストンとジャマイカのデータを18世紀半ばまで拡大した。そのうえで、航海日誌や書簡、海事裁判記録など、米国で入手した史料をデータベースとのクロスチェックで補完することにより、ジャマイカからスペイン領へと向かう密貿易の具体的な方法、関与した船舶の移動経路や船員数などを考察した。この研究の成果は、22年7月に近代社会史研究会(於京都大学)で報告し、12月にはEarly American Studies at Komaba in Winter, 2010(於東京大学)にて、英語による報告の機会を得た。なお、研究遂行のために、同年10月から11月にかけて、米国とカナダを訪れて史料収集をおこなった。その際、ピッツバーグ大学では、船乗りの社会史研究の泰斗として知られるマーカス・レディカー特別教授と面会し、研究へのアドヴァイスを受けた。